◇SH1039◇日弁連、ステルスマーケティングの規制に関する意見書を公表 青木晋治(2017/03/01)

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日弁連、ステルスマーケティングの規制に関する意見書を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 青 木 晋 治

 

 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)は、平成29年2月16日、「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」を同日付けで取りまとめ、同21日付けで消費者庁に提出したことを公表した。

 いわゆるステルスマーケティング(日弁連は「消費者に宣伝と気づかれないようにされる宣伝行為」と定義している。以下かかる定義に従う)について、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という)の優良誤認(同法5条1号)又は有利誤認(同法5条2号)に該当しない場合についても、必要な法規制を設けるべきであるとの意見を述べるものである。本稿では、ステルスマーケティングと現状の法規制について解説する。

 

 現行の景表法では、ステルスマーケティングに該当する行為については、その内容が優良誤認や有利誤認に該当する場合に限り、景表法上の表示規制の対象となると解される。

 例えば、消費者庁が平成24年5月9日付けで公表した「『インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項』の一部改定について」では、商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼して、口コミサイトの口コミ情報コーナーに多数書き込ませるという行為があり問題とされたことを受け、「問題となる事例」に以下の事例を追加している(下線は筆者による)。

 

http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120509premiums_1.pdf

商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること

 

 かかる具体例を踏まえると、たとえば、①口コミ情報コーナーに全く書き込みがないのに、店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行事業者をして多数の好意的評価を受けているような書き込みをさせる場合や、②実際には好意的評価を受けていないのに、口コミ投稿の代行事業者をして過剰な好意的評価をさせる場合などは、優良誤認や有利誤認の不当表示の問題が生じることになると考えられ、このような行為は、表示規制の対象となるステルスマーケティングの典型例といえよう。

 しかし、優良誤認や有利誤認に当たらず不当表示にあたらない広告については、ステルスマーケティングに該当する場合であっても表示規制の対象にならないと解される(以下の図を参照)。

 この点、日弁連は、ステルスマーケティングは、諸外国では既にこれを規制する法制ができており(米国の連邦取引委員会法5条、EUの不公正取引行為指令をその例に挙げている)、日本における法整備は遅れており、中立な第三者の意見であるかのように誤認される表示方法そのものを規制する明確な法規範が存在しない点を問題として指摘し、法規制の対象とすべきと述べている。

 その上で、ステルスマーケティングについて以下のとおり分類した上、いずれの類型によるステルスマーケティングも、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為」(不当景品類及び不当表示防止法1条)であって、公正な市場秩序を確認する行為であるとして表示規制の対象とすべきであると述べている。

  1. ①なりすまし型
  2.   「事業者が自ら表示しているにもかかわらず、第三者が表示しているかのように誤認させるもの」
  3.  具体例:
    口コミサイト、ブログ、ウェブサイト、SNS等において、事業者自らが書き込みをしているにもかかわらず、そのことを隠して、顧客などの第三者が書き込みをしたかのように装うもの
  1. ②利益提供秘匿型
  2.   「事業者が第三者に表示を行わせるに当たり、金銭の支払その他の経済的利益を提供しているにもかかわらず、その事実を表示しないもの」
  3.  具体例①:
    有名ブロガーに商品や役務を推奨するブログを掲載させるに当たり、当該ブロガーに報酬を支払っているにもかかわらず、報酬の支払についての表示がない場合
  4.  具体例②:
    雑誌等において事業者が執筆者等に経済的利益を提供しているのにそのことを明示せずに、商品又は役務を推奨する記事を掲載させる行為

 前述のとおり、ステルスマーケティングについては、不当表示(優良誤認、有利誤認)に該当しない限り、景表法上の規制対象には該当しないと解されるが、他方で法規制には違反しなくとも、ひとたび中立な第三者の意見であるかのように誤認させるような広告手法を企業が実施していることが判明した場合には、企業イメージに大きな傷を与えかねない。企業の担当者においては、現行の景表法規制について意識すべきことは勿論、これに加え、中立な第三者の意見であるかのように誤認させるような広告手法が採られていないか、適切に検証する必要があるし(その点を検証する上で、日弁連が挙げる上記具体例は参考になると思われる)、また、今後の法改正を含めた議論を注視していく必要があろう。

以 上

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