◇SH1389◇全株懇、全株懇提案書「株主総会プロセスの電子化について〜株式実務からの一考察〜」の公表 泉 篤志(2017/09/12)

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全株懇、全株懇提案書「株主総会プロセスの電子化について〜株式実務からの一考察〜」の公表

岩田合同法律事務所

弁護士 泉  篤 志

 

 全国株懇連合会(全株懇)は、平成29年8月28日、「株主総会プロセスの電子化について〜株式実務からの一考察〜」を公表した。ここでは、平成28年4月に公表された「電子化促進研究会報告書」(経済産業省)や、平成29年3月に公表された「会社法研究会報告書」(商事法務研究会)の議論を踏まえて、これまでの株主総会プロセスの電子化に向けた検討状況等を纏めた上で、同電子化に向けた全株懇としての提言がなされている。かかる提言のうち、招集通知等の「新たな電子提供制度のあり方についての提言」に関しては、現行法制度(原則書面、例外的に株主の個別承諾により電磁的方法)を大幅に変更する可能性があり実務に与える影響も大きいと思われるため、本タイムラインで解説することとしたい。

 まず、全株懇は、新たな電子提供制度(原則電子提供、例外的に株主からの書面請求権や、会社が任意で株主総会情報を記載した書面一式を送付する「フルセットデリバリー」を認める)を上場会社に義務付けることを提言している。すなわち、電子化の目的は、企業と株主・投資家の建設的な対話を実現することにあり、電子提供には、①早期情報提供、②提供情報量の増加・質の向上、③紙資源の節約、④利便性の向上などといったメリットが考えられる一方で、「任意」に留めた場合は、発行会社が利用に慎重になることや、利用会社と非利用会社が併存することで株主等の混乱・管理コストの増加などの懸念が存在するため、法的な義務とすべきとしている。

 次に、システム障害や改ざん等によるウェブサイトへの掲載の中断リスクに備え、セーフハーバー・ルールを設定することを検討すべきとする。すなわち、電子公告(会社法940条3項)と同様に、中断に関する規定を設けることのほか、フルセットデリバリーを実施した場合には株主総会決議取消事由とはならないとするなどのセーフハーバー・ルールを設けることを検討すべきとしている。なお、ウェブサイトへの掲載期間については、決議取消訴訟の提訴期間(会社法831条1項)を考慮して、アクセス通知発送日から総会日後3ヵ月が経過する日までとする旨提言されている。

 また、電子提供を行う際のアクセス通知(招集通知等が掲載されたウェブサイトのURLを通知すること)の発送時期は現行法上の招集通知発送時期より前としないことや、同封する書類について制限を行わないことも提言されている。これらは、電子提供が義務付けられる上場会社において、株主からの書面請求権が行使された場合や、フルセットデリバリーを利用する場合などにおける事務負担やコスト負担に考慮したものとなっている。

 最後に、株主からの書面請求への対応については、基準日時点においてあらかじめ株主名簿に書面請求する旨登録している株主のみを対象とすれば足り、対象となる書類はウェブ開示事項を除いた部分とすること、書面請求権を定款等で排除することができることなどが提言されている。

 上記全株懇の提言にも表れているとおり、招集通知等の新たな電子提供制度は、企業と株主・投資家の建設的な対話を促進するための有効な手段である一方、インターネット環境を持たない株主との関係でいわゆるデジタルデバイドの問題等もあるため、あくまで電子化を基本としつつ書面で補足をする形で検討を進めることが望ましいと思われる。また、かかる考え方を更に発展させれば、招集通知等に限らず、企業が株主との対話のための専用プラットフォームを用意することや、直接株主の電子メールアドレスに各種通知を行うことなども考えられる。このように、インターネットが普及した今日においては、時代に合わせた法制度の整備を始め、各社が株主・投資家との建設的な対話を促進するための工夫を凝らす必要があるものと思われる。

 

新たな電子提供制度のあり方についての提言

  1. 制度利用の法的位置づけについて(法律による義務付け)

  2. セーフハーバー・ルールを検討することについて

  3. アクセス通知に同封する書類について

  4. アクセス通知の発送期限について

  5. 株主総会情報のウェブサイト掲載期間について

  6. 株主からの書面請求への対応について

 

以 上

 

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