法務省、「商業・法人登記事務に関するQ&A」を更新
会社法上の論点
岩田合同法律事務所
弁護士 足 立 理
1 はじめに
法務省は、新型コロナウイルス感染症関連情報として、ウェブページ上で「商業・法人登記事務に関するQ&A」を公表していたが、令和2年5月28日、これを更新した[1](以下「本更新」という。)。本更新においては、主に商業・法人登記事務の観点から法務省の新たな考え方が示されているが、本稿では会社法に関連する部分に限ってこれを紹介する。
2 本更新の内容(会社法に関連する部分に限る。)
法務省は、本更新より以前に、定款で定めた定時株主総会の時期までに事業年度に係る計算書類等の作成が間に合わない等の理由から、当初予定した時期に定時株主総会を開催した上、役員選任の決議を行うとともに、会社法第317条による続行の決議を得て、計算書類の報告及び承認等については継続会において実施することとした場合(以下「本ケース」という。)の役員の任期に関して、以下の考え方を示していた(以下「従来見解」という。)。
「必要な期間の経過後に……継続会が開催されたとき……は,当初の株主総会と当該継続会とは同一の株主総会であると認められますので,……役員……の任期については,当該継続会の終結時までとなるものと考えられます。」(Q2-1)
そして、本更新に際し、これに以下の一文が追記されている(以下「新見解」という。)。
「もっとも,……継続会を開催する場合において,当初の株主総会において役員等を改選する必要があるときは,継続会の開催までに相当期間を要することがあることから,当初の株主総会における決議(会社法第329条第1項)により,当初の株主総会の時点において改選期にある役員等の任期が満了するものとして,その後任を選任する方法によることも可能であると考えられます。」(Q2-1、下線は筆者)
この点に関し、任期満了の具体的なタイミングについて、従来見解においては、継続会の終結時とされている一方、新見解においては、当初の株主総会の時点とされているため、従来見解と新見解をどのように整合的に理解するかが問題となる。法務省は本更新においてこの問題に触れていないため、以下で若干の分析を試みる。
3 考え方
⑴ 任期短縮の定款変更
役員の任期については、定款において、法定の期間が経過した後に最初に訪れる「定時株主総会の終結の時まで」と定められていることが一般的であるところ、新見解は、役員の任期の短縮の定款変更を前提としていると理解することが考えられる。すなわち、新見解は、当初の株主総会において、現行定款の「定時株主総会の終結の時まで」との規定を、「定時株主総会(当初の定時株主総会において、後任の取締役の選任及び会社法第317条による続行の決議がされた場合は、当初の定時株主総会)の終結の時まで」等の規定に定款変更することを、暗黙の前提としている、と理解する。このように考えると、定款変更の結果、当初の株主総会の終結時において、役員の任期が満了することとなるため、従来見解を前提としつつ、新見解に係る帰結を無理なく説明することができる[2]。
しかし、定款変更には、株主総会の特別決議(会社法466条、309条2項11号)が必要となり、「重い」手続が強いられる点で、上記立場は採用し難い。
⑵ 役員の解任又は辞任
新見解は、任期満了前の役員の解任又は辞任を前提としているとの整理も考えられるが、法務省は本更新において、当初の定時株主総会の時点で役員の任期が「満了する」と明記しており、当該整理も採用し難い。
⑶ その他の考え方
結局、法務省が、本ケースにおいていかなるロジックで当初の株主総会の時点で役員の任期が満了すると考えているかはクリアでない。この点に関して、役員の任期に関する現行定款の規定(「定時株主総会の終結の時まで」)の合理的な解釈として、当初の株主総会において改選の決議[3]がなされる等の一定の場合には、当初の定時株主総会の時点で、役員の任期が満了すると理解することも考えられる。いずれにせよ、どのような法的整理が可能であるかについて、今後検証が必要となるだろう。
なお、上記⑴ないし⑶の考え方の内容及び問題点を表にまとめると以下のとおりである。
項目 | 考え方 | 問題点 |
⑴ | 当初の株主総会において、任期短縮の定款変更が行われている | 定款変更には、株主総会の特別決議という重い手続が必要 |
⑵ | 当初の株主総会において、役員の解任又は辞任が行われている | 「任期が満了する」との文言に反する |
⑶ | 定款の合理的な解釈として、一定の場合には、役員の任期が当初の定時総会の時点で満了する | かかる解釈が可能であるか自明でない |
4 最後に
会社自身は法的手続を適式に履践したいとの意向を有しているにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症のまん延により、従来の手続の実施が困難であるケースは多い。今後も行政庁から、積極的に柔軟な解釈論が示されることを期待したい。
[2] なお、定款変更によって取締役の任期が短縮された場合、変更後の定款の定めは在任中の取締役にも当然に適用される(東京地判平成27・6・29判時2274号113頁)。
[3] 正確には、当初の株主総会における後任役員の選任決議となるが、かかる決議においては、改選の効力が発生する時期(現行役員の任期満了の時期及び後任役員の就任の時期)を明らかにする必要があると考えられる(令和2年4月28日付金融庁・法務省・経済産業省「継続会(会社法317条)について」〔https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/11.pdf〕、令和2年5月12日付東京株式懇話会研究部「継続会開催を予定する場合の取締役選任議案の記載例について」〔https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/study_2020_06.pdf〕)。