◇SH2065◇日弁連、ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引) 角野 秀(2018/09/04)

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日弁連、ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)

~企業・投資家・金融機関の協働・対話に向けて~

岩田合同法律事務所

弁護士 角 野   秀

 

 日本弁護士連合会は、本年8月23日、「ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)~ 企業・投資家・金融機関の協働・対話に向けて ~」(以下「本ガイダンス」という。)を公表した。

 

1. ESGの意義・本ガイダンス公表の背景

 ESGとは、企業が持続的成長を目指す上で重視すべき3つの側面、環境(Environment)、社会(Social)及び企業統治(Government)の頭文字を取ったものであり、企業がESG課題に適切に対応すること、また、そのことを評価して投資する投資家・株主の存在が、地球環境問題や社会的課題の解決・改善につながり、持続可能な社会の形成に寄与すると考えられている。ESGの概念は、2006年に国連が発表した責任投資原則(Principle for Responsible Investment)において、投資家が投資先企業に対する投資判断や、株主としての意思決定のプロセスにおいて考慮すべき要素として提唱されたことなどを契機として、注目されるようになった。ESGの要素は、企業にとってリスク及び収益機会の双方を生み出すものであるが、近年では、企業活動を通じてESG分野で人権侵害・環境破壊などの負の影響が生じていることが認識されており、ESGに関する国内外の取組やルール形成も加速化している。その結果、企業においても重要なリスク管理としてESG課題を認識・対処することが求められ、投資家・金融機関をはじめとする利害関係者において、ESG課題への企業の対応の在り方に対する関心が高まっているといえるであろう。

 本ガイダンスは、これらの背景事情を踏まえ、現時点における企業・投資家・金融機関のESGに関連するリスクへの対応の在り方に関するグッド・プラクティスを取りまとめ、提示したものである。

 

2. 本ガイダンスの概要

 本ガイダンスは、①企業向けの非財務情報開示の在り方(第1章)、②機関投資家向けのESG投資におけるエンゲージメント(対話)の在り方(第2章)、③金融機関向けのESG融資における審査の在り方(第3章)の3部により構成されている。

 以下、本ガイダンスの概要について紹介する。

(1) 企業の非財務情報開示について

 第1章では、主として上場会社を対象として、非財務情報の開示の在り方を提示している。日本には、欧米のように、ESG関連リスクの管理状況の開示を義務付ける法律は現在のところ存在しないが、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)第2章の原則2-3では、「社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題」への適切な対応を要求し、補充原則2-3①では、「取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処する」ことを要求している。

 本ガイダンスは、CGコード等を補完する形で、企業に対し、ESG関連リスクに対応するに当たって、どのような非財務情報を開示すべきか等についての実務的な指針を提供している(概要は下記表を参照)。

 

<開示対象となる非財務情報の概要 (※)

開示項目

  1. ① 企業のビジネスモデル
  2. ② 非財務分野に関する方針及び採用しているリスク評価の手続・基準
  3. ③ 方針及びリスク評価の実施結果
  4. ④ 重要なリスクに対する対処状況
  5. ⑤ 採用している重要成果評価指標(KPI)

開示分野

 

  1. ① 人権擁護への取組
  2. ② 労働問題への取組
  3. ③ 環境問題への取組
  4. ④ 腐敗防止への取組
  5. ⑤ サプライチェーンに対する取組
  6. ⑥ コーポレート・ガバナンス強化への取組
  1. (※) 具体的な開示事項は、非財務情報が開示内容を画一的に定めることが困難な情報であることに鑑み、各企業が自らの重要課題に基づいて記載することが望ましいとされている。
     

(2) 機関投資家のESG投資におけるエンゲージメント(対話)について

 第2章では、投資先企業においてESG関連リスクが顕在化し、企業価値の毀損が生じ得る企業不祥事が発生した場合又はその発生の可能性が高い場合(有事)のエンゲージメントの方法として、①原因解明・再発防止の要求、②不祥事対応に関する情報開示、③議決権の行使、④集団的エンゲージメントの各方法を検討すべきと提案している。かかる方法の実施にもかかわらず、投資先企業に改善がみられない場合は、株式の売却を検討すべきとした。

(3) 金融機関のESG融資における審査について

 第3章では、金融機関に対し、ESG融資についての方針・基準の策定・公表を奨励している。また、本ガイダンスにおいては、融資契約に盛り込むことを検討すべきESGモデル条項も提示するなど、実践的なガイダンスとなっている。

 

3. 本ガイダンスの意義

 日本においては、ESG課題への企業の対応の在り方に関するルールや実務が十分に確立されているとは言い難い状況にあるが、日本の企業経営に対する機関投資家の影響力が一層強まりつつあり、今後、ESG関連リスクに関する議論が高まることが予想される。

 本ガイダンスは、実務が十分に確立されていない中で、現時点におけるESG関連リスクへの対応の在り方に関するグッド・プラクティスを取りまとめたものであり、企業・投資家・金融機関は、本ガイダンスが提示する事項を踏まえた対応を図ることが期待されることになろう。

 

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