東京株式懇話会研究部、
継続会開催を予定する場合の取締役選任議案の記載例を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 青 木 晋 治
1. 継続会開催を予定する場合の取締役選任議案の記載例の公表
令和2年5月12日、東京株式懇話会研究部は、継続会開催を予定する場合の取締役選任議案の記載例を公表した。当該記載例は、新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、金融庁・法務省・経済産業省の連名で令和2年4月28日に「継続会(会社法317条)について」[1](以下「連名文書」という)が公表され、また、法務省が令和2年5月1日に「商業・法人登記事務に関するQ&A」[2](以下「法務省Q&A」という)を更新するなど継続会の開催に向けた実務環境の整備が進められていることを受けて、作成・公表されたものである。
2. 本記載例の内容
東京株式懇話会研究部が公表した取締役会選任議案は、下記のケースを想定したもので、その記載例(以下「本記載例」という)は以下のとおりである。
- ・ 当初の総会(以下「当初総会」という)を6月30日に実施し、継続会を7月30日に実施予定。
- ・ 取締役A、B、C、D、E、Fは、定時株主総会の終結時をもって任期満了。取締役A、B、C、D、Eは重任、取締役Fは辞任し、その後任としてGが取締役候補者となる。
- ・ 当初総会において改選をするため、取締役Fは辞任し、その後任にGを選任する。
第〇号議案 取締役6名選任の件 取締役A、B、C、D、Eは、本総会終結の時をもって任期満了となり、取締役Fは、本総会において継続会の開催が承認可決されることを条件に、本総会の休会の時(6月30日の審議終了時)をもって辞任いたしますので、取締役6名の選任をお願いいたしたいと存じます。 取締役候補者は次のとおりであります。 なお、取締役候補者Gは取締役Fの後任として選任するものであり、その就任の時期は、本総会の休会の時(6月30日の審議終了時)といたします。 |
3. 本記載例の意義
6月に定時株主総会を開催する会社を例にとると、定時株主総会の終結をもって改選する取締役がいる場合、例年であれば、当該6月に開催される定時株主総会の終結をもって、新しい役員体制をスタートできる。
しかし、継続会は、当初総会と同一の株主総会であり、退任する役員の任期も継続会の終結の時をもって満了することとなる。この点は、法務省Q&Aの2において、「改選期にある役員(任期の末日が定時株主総会の終結の時までとされている取締役、会計参与及び監査役)及び会計監査人の任期については、当該継続会の終結時までとなるものと考えられます。これは、継続会が開催されるまでの間に定款で定めた定時株主総会の開催時期が満了する場合であっても、同様と考えられます」とされている。
これらを踏まえると、退任する取締役の退任時期も当該継続会の終結の時となるのが原則である。当該原則に従う限り、新旧役員の交代時期について本来意図していたところと異なる場合があり得ることになる。
連名文書においては、当初総会の時点において改選する必要があるときは、改選期にある役員等が辞任した上で、その後任を選任することが考えられると指摘されているところであったが、本記載例は、このケースに関する取締役選任議案の例を示すものである。本記載例は、例年どおり、定時株主総会の時点で役員の改選の効力を生じさせるニーズがあるケースに関し、連名文書や法務省Q&Aを踏まえ、かつ法務省民事局に相談の上で作成したものであり、当初総会の審議終了時と明示する議案の記載例を示したものとして実務上意義のあるものと考えられる。
4. 継続会の終結後に改選しない場合の議案
継続会の終了をもって役員を退任させる場合については、退任する取締役の任期満了は、継続会の終結時点となると解される。そのため、取締役選任議案については、単に「本総会終結の時をもって任期満了となり、・・・」などと記載し、退任する取締役の退任時期については特段の記載をしないこととなると思われるが、疑義を避けるため「本総会終結の時(継続会を含みます。)をもって任期満了となり・・・」などと記載することもあり得るものと思われる。
5. 当初総会で増員する場合の議案
本記載例は、取締役の員数が改選の前後で変更がないケースであり、コーポレート・ガバナンス体制の強化等の観点から役員を増員するケースで、当初総会において就任の効力の発生をさせるケースについて想定するものではない。
しかし、定款で定める員数枠の範囲内にある限り、役員が、改選前と比べて増員するか否かで役員選任の効力の発生時期について解釈が異なることはないと思われる。そうすると、当初総会で増員の効力を発生させることを意図する場合には、新任役員の就任の時期について、本記載事例のように「その就任時期は、本総会の休会の時(6月30日の審議終了時)といたします」などとすることが考えられる。
6. 実務上の留意点
継続会の実例については多くないことから、今後、継続会の開催を前提として、取締役の選任議案を検討する会社については、他社事例も参考にしつつ検討することになると思われる。本記載例は取り得る選択肢の一つについての議案の例を示すものであるが、登記申請に際しては、司法書士、法務局等にも事前に相談の上で対応することが望ましいと考えられる。
以 上