◇SH2129◇厚労省、システム開発事業者へ「二重派遣」を行っていた派遣元事業主2社に対する行政処分 中村紗絵子(2018/10/10)

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厚労省、システム開発事業者へ「二重派遣」を行っていた
派遣元事業主2社に対する行政処分

岩田合同法律事務所

弁護士 中 村 紗絵子

 

1. 概要

 大阪労働局は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)に基づき、労働者派遣事業を営む派遣元事業主2社(以下「X社」「Y社」とする。」)について、システム開発事業者へ二重派遣を行っていたとして、二重派遣の延べ日数に応じてX社については3か月の派遣事業停止命令及び派遣事業改善命令、Y社については派遣事業改善命令の行政処分を実施した。

 大阪労働局は、処分の理由について、両社が、自社と雇用関係にない労働者を自社が雇用する労働者として派遣したことが、法定の除外事由なく職業安定法(以下「職安法」という。)44条において禁止されている労働者供給事業を行ったことに該当するためとしている。

 

2. 二重派遣・労働者供給とは

 二重派遣とは、発注企業から労働者派遣の要請を受けた派遣事業者①が、その要請に応じることができず、別の派遣事業者②に派遣労働者の確保を要請し、派遣事業者②から派遣事業者①に労働者の派遣を受けてさらに発注企業に派遣するなどして、派遣事業者②から労働者が発注企業に派遣され業務に従事することになるような派遣形態をいう。

 労働者派遣及び労働者供給は、法律上以下のとおり定義されている。

「労働者派遣」 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してする者を含まないもの」(労働者派遣法2条1号)。
「労働者供給」 「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」をいい、労働者派遣法上の労働者派遣は、労働者供給に含まれない(職安法4条6項)

 労働者供給には以下の弊害があるとされるため、職安法は、労働者供給事業を原則として禁止している(職安法44条、45条)。

  1. ✓ 労働者に対する労働契約上の使用者の責任が誰にあるかが不明確になりやすい
  2. ✓ 中間搾取が行われやすい

 労働者派遣についても、労働者派遣法制定前は、労働者供給として禁止されていたが、労働者派遣法制定に伴い、同法の制約の下で適法化された。

 二重派遣においては、派遣事業者①から労働者派遣の要請を受けた派遣事業者②が自己の雇用する労働者を発注企業に派遣する場合、派遣事業者①は「自己の雇用する」労働者ではなく派遣事業者②が雇用する労働者を発注企業に対して派遣していることになるから、労働者派遣法上認められている労働者派遣には該当しない。このため、派遣事業者①による当該派遣は労働者供給に該当し、これが事業として行われる場合は、職安法違反となるのである。実際上も二重派遣には、労働者供給一般と同様、使用者の責任の所在が不明確となり、中間搾取が行われやすいという弊害がある。

 二重派遣の形態には、発注企業と派遣事業者①間の契約又は派遣事業者①と派遣事業者②間の契約において形式上請負契約又は出向契約を用いるなど、バリエーションがある。本件においては、派遣事業者①にあたるX社及びY社は、それぞれ以下のとおり、発注企業にあたるA社(システム開発事業者)と労働者派遣契約を締結し、派遣事業者②にあたるB社とC社のうち、C社はY社と請負契約を締結していた。

 上図のとおり、形式的にはB社―X社間に契約関係はなく、C社―Y社間の契約は請負契約とされていたが、大阪労働局は、下図のとおり、いずれも実態としては労働者派遣契約であると認定した。

 

3. 実務上の留意点

 実務上、他社からの労働力の受入れは、業務委託契約、請負契約、出向契約等を用いて頻繁に行われている。形式上は法的に問題のない契約形態をとっていたとしても、その実態が二重派遣と認定された場合には、様々なリスクが生じる。まず、派遣事業者①には職安法44条違反に対する罰則として一年以下の懲役または百万円以下の罰金(職安法64条9号)が科され得るところ、発注企業についても、職安法44条違反の基礎となる事実関係を認識していた場合には、同様の罰則の対象となり得る。また、2015年10月に施行された改正労働者派遣法では、無許可・無届の派遣事業者からの派遣や、脱法目的の偽装請負形態での派遣等の違法派遣の役務提供を受けている者は、違法派遣に該当することにつき善意無過失でない限り、労働者に対して直接雇用の申込をしたものとみなされる(同法40条の6第1項)ため、該当する受入企業は労働者と直接雇用契約が成立する可能性がある。

 したがって、他の企業へ労働力を提供したり、外部から労働力を受入れたりする場合には、形式的な契約形態にかかわらず、実態が労働者派遣法その他の労働関係法令に違反していないかに留意する必要がある。

以 上

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