◇SH2131◇経産省、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)を改訂 大櫛健一(2018/10/11)

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経産省、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針
(CGSガイドライン)を改訂

岩田合同法律事務所

弁護士 大 櫛 健 一

 

 経産省は、平成30年9月28日、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(以下「CGSガイドライン」という。)[1]を改訂した。今般の改訂は、実効的なコーポレートガバナンスの実現のために有益と考えられる事項に関して行われたものであり、改訂内容は多岐にわたる。本稿では、最も大きな改訂事項である「別紙4 社長・CEOの後継者計画の策定・運用の視点」(以下「後継者計画の視点」という。)の追加を紹介したい。

 平成30年5月18日に公表されたCGSガイドラインの見直しに係る中間整理は、「社長・CEOの指名、後継者計画」を検討課題として挙げ、CGSガイドラインにおいて、社長・CEOの指名・再任・解任プロセスの客観性・透明性の確保や後継者計画の実効性確保に関するベストプラクティスを示す必要性が高いと結論付けていた[2]

 後継者計画の視点は、同中間整理を踏まえて追記されたものであり、改訂後のCGSガイドライン計138頁のうち実に37頁にもわたって記載されている。全体として非常に読み応えのある内容となっているものの、中核は「後継者計画の策定・運用に取り組む際の7つの基本ステップ」であり、その概要は下表のとおりである。

ステップと主な内容 各ステップの趣旨
1 後継者計画のロードマップの立案 社長・CEOの就任から想定される交代時期に向けて、「いつ頃、誰が、何を行うか」といった大枠の工程やスケジュールを検討し、後継者計画のロードマップを描く。
2 「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定 指名委員会において、自社を取り巻く経営環境や自社の経営理念、中長期的な経営戦略、経営課題等を踏まえて、「あるべき社長・CEO像」を議論し、明確化した上で、客観的な評価基準を策定することを検討する。
3 後継者候補の選出 「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして、後継者候補を選出する。
4 育成計画の策定・実施 ステップ3で選出された候補者ごとに、「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして、目標レベルに到達するための育成課題を明確化し、育成方針・計画を策定・実施する。
5 後継者候補の評価、絞込み・入替え 後継者候補の状況を定期的にモニタリングし、「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして評価を行い、必要に応じて後継者候補の絞込みや入替えを行う。
6 最終候補者に対する評価と後継者の指名 以上の取組を通じて数名程度にまで絞り込まれた最終候補者について、指名委員会において、「あるべき社長・CEO像」や評価基準に照らして最終的な評価を行い、その中から自社の経営トップに最も相応しい候補者を後継者として指名する。
7 指名後のサポート 現社長・CEOにおいては、後継者への引継ぎや、社内外の関係者への後継者の周知、ネットワーク作りなどを行うことが有益であり、後継者が万全の態勢で経営に臨めるように環境を整えることは重要な責務である。

 さらに、後継者計画の視点においては、先進的な企業の取組例も紹介されている。そこでは、①数十の重要ポジションを特定し、その候補者となる数百名の人材を選出して、育成プログラムを実施するなどしている例、②自社の経営トップに加えて、カンパニー長や中核子会社の経営トップ等も後継者計画の対象とするとともに、候補者は、グループワイド・グローバルベースで、優秀な人材に限らず分野別人材ポートフォリオの観点も重視しながら、多様な人材を数百名選抜し、10年程度をかけて戦略的・計画的に育成するプログラムを実施するなどしている例、③部店長クラスの人材に対し、経営トップの参画も得て経営塾を開講するとともに、社外役員を除く全役員に対して、(1)自分の後任の候補者、(2)中長期の視点でその役職に就くのが相応しい人材、(3)将来役員になることが見込まれる人材を申告させるなどしている例等が挙げられており、いずれの取組例も刮目に値する。

 後継者計画の視点においても述べられているとおり、後継者計画の策定・運用の具体的な取組の在り方は、各社が置かれている状況や企業文化、候補人材の状況などに応じて企業ごとに異なり得るものであり、重要なのは、最適なタイミングで最適な後継者に経営トップを交代するという本来の目的を実現するために、自社にとってどのような取組が必要かを議論し、試行錯誤と工夫を重ねることであろう。

 先進的な取組例として紹介されている上記企業においては、「会社は社長の器以上にはならない」、「企業が果たすべき究極のコーポレートガバナンス責任は、社長CEOの選解任である」との意見も見られる。より優れた後継者を育成・発掘するための試行錯誤と工夫は、企業間競争における重要局面の一つとなりつつあるとも言えよう。

以上

 

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