◇SH2229◇法務省、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律等の概要を公表――配偶者居住権について解説 鈴木智弘(2018/12/04)

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法務省、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律等の概要を公表

配偶者居住権について解説

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 智 弘

 

 法務省は、2018年11月21日に民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下「改正相続法」という。)並びに法務局における遺言書の保管等に関する法律の概要を公表した。

 民法のうち第5編「相続」の規定は、昭和55年に配偶者の相続分の引上げや寄与分制度の創設等がされて以来、約40年間大きな見直しはされてこなかった。しかし、少子高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に伴って、配偶者と子を比較した場合には相対的に配偶者をより保護すべき必要性が高くなったことや、家族の在り方の多様化に伴って遺言の重要性が増してきたこと、さらに、相続の場面で実質的な不公平が生じている部分については見直しをすべきであるという意見が強くなってきたこと等を受けて、今般の改正が行われることとなった(堂薗幹一郎ほか「相続法改正の概要(1)」NBL1133号(2018)5頁)。法務省が公表している改正の概要は、下記のとおりである。

(法務省HP(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/12/001275267.pdf)より転載)

 

 上記のとおり、今回の改正では、配偶者(短期)居住権という新たな権利を創設したこと、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として新たに特別の寄与の制度を設けたことのほか、遺産分割制度、遺言制度、遺留分制度といった既存の制度についても見直しをする等、改正内容は多岐にわたっている。

 本稿では、これらの改正事項の中で中心的な点と位置付けられている「配偶者の居住権を保護するための方策」について解説する。

 この方策のうち、配偶者の居住を短期的に保護するものを配偶者短期居住権といい、長期的に保護するものを配偶者居住権という。

 これらの居住権は少子高齢化の進展に伴い、配偶者と子を比較すると、相対的に配偶者の保護の必要性がより高まっていること、特に高齢の配偶者にとってはその居住権の保護を図ることが重要であること等を踏まえて創設されたものである。

 まず、配偶者短期居住権とは、配偶者が相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた場合には、遺産分割が終了するまでの間、無償で居住することができる権利をいう。配偶者短期居住権の成立要件は、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたことである(改正相続法1037条1項本文)。

 配偶者短期居住権は、配偶者が被相続人所有の建物に居住していた場合に、被相続人の死亡により直ちに住み慣れた居住建物を退去することを強いられることがないようにすることを目的としている。

 次に、配偶者居住権とは、配偶者の居住建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用を認める権利をいう。配偶者居住権の成立要件は、①配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと、②その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈又は死因贈与がされたことである(改正相続法1028条1項本文)。

 配偶者居住権の制度は、配偶者に居住建物の使用収益権限のみを認め、処分権限のない権利を創設することによって、配偶者が、遺産分割において居住建物の所有権を取得するよりも、低廉な価額で居住権を確保できるようにすることを目的としている。

 配偶者居住権が認められることにより、具体的には以下のように変わる(下図参照)。

 相続人が配偶者と子1人、遺産が住宅3,000万円・預貯金4,000万円の合計7,000万円のケースを想定する。このケースでは、法定相続分は配偶者が2分の1、子が2分の1であることから、配偶者居住権の創設前であれば、法定相続分に従って遺産を分割し、配偶者が住宅を相続すると遺産合計額7,000万円の2分の1(3,500万円)から住宅分(3,000万円)を差し引いた500万円しか預貯金を相続することができず、その後の生活費に不安が残る状態になった。

 ところが、配偶者居住権が認められることにより、住居の所有権の価値を①配偶者居住権部分と②配偶者居住権の負担付の所有権部分の2つに分けることができるようになると、遺産分割協議によって配偶者居住権を1,500万円、配偶者居住権負担付所有権を1,500万円として、配偶者は配偶者居住権(1,500万円)と預貯金2,500万円を相続することが可能となる。

 なお、改正相続法のうち、配偶者居住権に関する規定は2020年4月1日から施行される。

 これらの配偶者(短期)居住権制度の導入のほか、今般の相続法改正は約40年ぶりの大幅見直しであるため、改正点は多く、相続法分野ひいては社会全体への影響は大きいものと考えられる。

以上

 

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