◇SH2302◇最二小判(鬼丸かおる裁判長)、執行判決請求事件(平成31年1月18日) 深津春乃(2019/01/29)

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最二小判(鬼丸かおる裁判長)、執行判決請求事件(平成31年1月18日)

岩田合同法律事務所

弁護士 深 津 春 乃

 

1 はじめに

 最高裁第2小法廷は、平成31年1月18日、外国裁判所の判決(以下「外国判決」という。)による執行力が日本において認められるための要件のうち、「訴訟手続が日本における公の秩序……に反しないこと」(民事訴訟法118条3号。以下「公の秩序に反しないこと」という。)に関し、外国判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず、実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま当該外国判決が確定した場合、その訴訟手続は、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものとして、公の秩序に反しないことの要件を欠く旨の解釈を示した(以下「本判決」という。)。

 日本企業においても、グローバル化に伴い、海外における訴訟手続に関与するケースが否応なく増えていると思われ、本判決は、外国判決の日本における強制執行において留意すべき要件を示したものとして、企業間紛争において重要な意味を有する判決と考えられる。本稿では、外国判決に基づく強制執行を日本国内で行うための手続を概説した上で、本判決の要点を解説する。

 

2 外国判決の強制執行手続(執行判決を求める訴え)

 日本国内において強制執行を行うためには、「債務名義」が必要となる(民事執行法22条本文)。日本の裁判所の判決に基づいて強制執行を行う場合には、当該判決がそのまま債務名義になる一方、外国判決に基づき強制執行を行うためには、民事訴訟法が定める一定の要件(同法118条各号)が具備されることが必要とされる。そこで、民事執行法は、「確定した執行判決のある外国裁判所の判決」を債務名義として認めることとし(民事執行法22条6号)、執行判決を求める訴えにより当該審査を行うことを求めている。

 したがって、外国裁判所の判決により執行を行う場合には、執行判決を求める訴えを提起する必要があり、この訴えにおいて、外国判決が確定したことが証明されないとき又は民事訴訟法118条各号に掲げる要件の全てが具備されていないときは、訴えは却下され(民事執行法24条3項[1])、強制執行も認められない。

 なお、民事訴訟法118条各号に掲げる要件は以下のとおりである。

  1. ① 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること
  2. ② 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと
  3. ③ 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと
  4. ④ 相互の保証があること

 

3 本判決の内容

 本判決においては、被上告人に対して損害賠償を命じた米国カリフォルニア州の裁判所の判決(以下「本外国判決」という。)に係る執行判決を求める訴えにおいて、判決登録通知[2]が誤った住所に発送され、被上告人に届かないまま確定した事案について、上記③の要件、具体的には、公の秩序に反しないことの要件を具備するかについて判断された。

 本判決は、外国判決に係る訴訟手続が、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決に係る訴訟手続は、公の秩序に反しないことの要件を欠くとする従前の判断枠組み[3]を踏襲しつつ、我が国の民訴法は、訴訟当事者に判決の内容を了知させ又は了知する機会を実質的に与えることにより、当該判決に対する不服申立ての機会を与えることを訴訟法秩序の根幹を成す重要な手続として保障していることを指摘したうえで、債務者に対して外国判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず、実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま当該判決が確定した場合、その訴訟手続は公の秩序に反しないことの要件を欠く旨を判示した。

 そして、本件では、上述の不服申立ての機会が与えられていたか否かについて更なる検討が必要であるとして、判決登録通知が被上告人に届かなかったことを理由に訴訟手続が公の秩序に反しないことの要件を欠くとした原判決[4]を破棄し、原審に差し戻した。

 いかなる場合に訴訟手続が公の秩序に反しないことの要件を欠くかは必ずしも明確ではなく、裁判例も多いとは言えない。原審と判断が異なった理由としては、原審が日本における判決送達手続との制度上の乖離を重視したのに対し、本判決は判決を了知する実質的な機会が与えられていたか否かといった実質論により踏み込んで判断した点にあったのではないかと思われる。本判決は、外国判決における送達手続に関して一定の判断を下した点に加え、他国の訴訟手続との比較を行うに際しての手法ないしアプローチの観点からも参考になるものと考えられる。

以上



[1] 平成31年4月1日施行の改正民事執行法においては、24条5項。

[2] 本判決の原審の認定によれば、米国カリフォルニア州の民事訴訟制度の下においては、判決は裁判所において登録され、原則として当事者の一方が他方に対し判決書の写しを添付した判決登録通知を送達することとされているとのことである。

[3] 最高裁平成9年7月11日第二小法廷判決(平成5年(オ)1762号、民集51巻6号2573頁参照)。

[4] 大阪高裁平成29年9月1日判決(平成29年(ネ)101号、判例集未登載)。

 

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