◇SH2464◇最一小判(木澤克之裁判長)保有個人情報開示請求事件(平成31年3月18日) 徳丸大輔(2019/04/09)

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最一小判(木澤克之裁判長)保有個人情報開示請求事件(平成31年3月18日)

岩田合同法律事務所

弁護士 徳 丸 大 輔

 

1 本判決の内容

 最高裁判所第一小法廷(木澤克之裁判長)は、平成31年3月18日、相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても、そのことから直ちに、当該情報が当該相続財産を取得した相続人等に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たるということはできないと判断した。

 本判決に係る事案は、相続人である被上告人(以下「被上告人」という。)が、亡母が銀行である上告人(以下「銀行」という。)に提出した印鑑届書(銀行取引印の印影、亡母の住所、氏名、生年月日等の記載がある。以下「本件印鑑届書」という。)について、本件印鑑届書の情報が保有個人データ(個人情報保護法2条7項)に該当するとして、銀行に対し、個人情報保護法28条1項に基づき、本件印鑑届書の写しの交付を求めたというものである。

 原審(広島高等裁判所岡山支部平成29年8月17日判決・公刊物未登載[1])は、大要、相続財産についての亡母の「個人に関する情報」が相続により被上告人に移転帰属することを理由に、被上告人に関するものとして「個人に関する情報」に該当する(以下「相続構成」という。)として、被上告人の銀行に対する開示請求を認容した。

 これに対し、最高裁第一小法廷は、個人情報保護法の目的や趣旨を理由に、ある情報が特定の個人に関するものとして個人情報保護法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるか否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものであるとして、原審が示した相続構成を否定し、本件印鑑届書が被上告人に関するものとして「個人に関する情報」該当しないとして、原審を破棄した。

 

2 本判決の意義

(1) いわゆる死者の個人情報について

 まず、相続財産に関する被相続人(死者)の情報は、同時に、遺族(相続人)等の生存する個人に関する情報でもある場合(生存する個人自身を識別しうる場合)には、当該生存する個人に関する情報に該当し、個人情報保護法の適用があると考えるのが通説とされている(園部逸夫=藤原靜雄編『個人情報保護法の解説〔第二次改訂版〕』」(ぎょうせい、2018)61頁、岡村久道『個人情報保護法〔第3版〕』(商事法務、2017)71頁など)。

 本判決は、最高裁として、かかる通説の解釈を採用することを明示したという点において、意義がある。

(2) 金融機関に対する預金取引に関する被相続人の印鑑票の開示請求について

 次に、一般論として、金融機関に対して預金取引に関する情報開示を請求する構成としては、以下のものが考えられる。

① 開示請求者単独で請求する構成 ② 他の機関を経由して請求する構成
  1. ・ 預金契約(委任部分)に関する民法645条、656条に基づく報告(開示)請求
  2. ・ 個人情報保護法28条1項に基づく開示請求
  1. ・ 弁護士会照会(弁護士法23条の2)
  2. ・ 調査嘱託(民事訴訟法186条)ほか、民事訴訟法に基づく請求

 まず、預金契約(委任部分)に関する民法645条、656条に基づく報告(開示)請求は、預金の取引履歴開示請求との関係では判例上認められている(最一小判平成21年1月22日民集63巻1号228頁[2])が、当該判例の射程を巡っては、伝票類や印鑑票の開示請求には及ばないとする見解が実務上有力であり(淺生重機ほか「〈座談会〉預金者の取引経過開示請求権に係る最高裁判決が金融実務に及ぼす影響」金法1871号(2009)6頁〔該当箇所28頁以下〕、関沢正彦「預金取引経過開示請求についての最高裁判決」金法1865号(2009)6頁、吉岡伸一「共同相続人の一人からの預金取引経過開示請求について」銀法708号(2009)32頁など)、この構成に基づく請求を行っても、金融機関において任意に開示される可能性は小さい[3]

 次に、被相続人の印鑑票に相続人を識別しうる情報が記載されることは極めて例外的であるから、本判決によって、相続人が、個人情報保護法28条1項に基づき、被相続人の印鑑票の開示請求を行う余地はほとんどないと思われる。

 そうすると、相続人が金融機関に対し被相続人の預金取引に係る印鑑票の開示請求をするためには、①開示請求者単独で請求する余地はほとんどなく、②他の機関を経由して請求するほかないと考えられる。

以 上

 


[1] 本稿執筆時点。なお、D1-LawではID:28270156が付されており、「本文収録準備中」と表示されているため、近々登載されるものと思われる。

[2] 共同相続人の一名による、被相続人の預金についての取引経過の開示請求を認めたもの。

[3] ただし、共同相続人全員の同意があれば、開示される可能性はあるように思われる。

 

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