◇SH2332◇監査役協会、「選任等・報酬等に対する意見陳述権に関連して監査等委員会に期待される検討の在り方について」冨田雄介(2019/02/13)

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監査役協会、「選任等・報酬等に対する意見陳述権に関連して監査等委員会に期待される検討の在り方について」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 冨 田 雄 介

 

 監査役協会は、本年2月4日、「選任等・報酬等に対する意見陳述権に関連して監査等委員会に期待される検討の在り方について-サクセッション・プランへの関与を中心とした分析-」(以下「本報告書」という。)を公表した。

 監査等委員会は、監査等委員以外の取締役の選任、解任又は辞任(以下「選任等」という。)及び報酬等についての意見陳述権を有しているところ(会社法342条の2第4項、361条6項)、具体的にいかなる方法でいかなる観点から選任等及び報酬等についての検討を行うべきかが実務上問題となる。

 この点について、監査役協会は、2017年12月に、意見陳述権に係る監査等委員会の活動についてのベスト・プラクティスを提示する報告書を公表しており(「選任等・報酬等に対する監査等委員会の関与の在り方-実態調査を踏まえたベストプラクティスについて-」)、本報告書では、さらに、①選任等(サクセッション・プラン[1])、②報酬等及び③その他の各項目に大別して、それぞれの項目に関して、意見陳述権行使の検討の視点についての今後の在るべき姿を提示することが試みられている。

 本報告書は、まず、選任等(サクセッション・プラン)に関し、経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)で示された以下の七つのステップ[2]について監査等委員会がどのように関与すべきかが示されている。

ステップ 主な内容
1 後継者計画のロードマップの立案
2 「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定
3 後継者候補の選出
4 育成計画の策定・実施
5 後継者候補の評価、絞込み・入替え
6 最終候補者に対する評価と後継者の指名
7 指名後のサポート

 具体的には、監査等委員会設置会社では、主体的にサクセッション・プランを策定し、実施するのは基本的に執行側の役割であることを前提に、監査等委員会は、各ステップにおいて単に執行側の対応を待つのではなく、「執行側の対応状況を注視し、執行側の対応に問題を感じるような場合には適切な対応を行うよう働きかける等、積極的な関与を行うとともに、適宜監査等委員会の立場から少なくとも大枠やプロセスについての意見表明をできるよう準備することがより重要」とされている。

 特に、「後継者候補の評価、絞込み・入替え」(ステップ5)については、執行側から総会議案の形で取締役候補者を示されてから初めて検討を開始したのでは十分な時間を確保できない場合が多く、結果として執行側の提案を追認するだけのプロセスになりがちであることから、前広に各候補者の適性について十分な判断材料を収集すべきとされている(もっとも、インタビューによる情報収集については、候補者となっていることを対象者が意識することとなるため、時期や方法については慎重に検討する必要があるとされている。)。

 また、報酬等については、監査等委員会は、監督機能の発揮という観点から、「経営戦略及び経営指標を実現する手段として経営陣に対する適切なインセンティブの付与がなされているかを確認する必要がある」とされている。

 さらに、本報告書では、その他の指摘事項として、①監査等委員会は、指名委員会等設置会社における指名委員会や報酬委員会と異なり、情報収集権限を有しているため(会社法399条の3)、意見陳述においてかかる権限を有効に活用することが期待されること、②現状、社外監査等委員の属性は士業が多いものの、意見陳述権の行使に向けた検討をより積極的に行うための取組として、経営や人事に対する知見を有する者を委員の一員として起用することも有効であること、③特に報酬に関しては比較検討の材料を入手するためには外部専門家の活用が有効であるため、必要に応じて執行側に外部専門家の起用を促すことが望ましいことが述べられている。

 監査等員会設置会社は制度発足から3年余りしか経過していないことから、監査等委員会の意見陳述権に関する具体的な検討の在り方については議論が十分に固まっているとは言い難い状況にある。本報告書は、この点について一つの指針を示すものであり、監査等委員会の運営実務上、参考になると考えられる。



[1]   本報告書では、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を確保することを目的として、優れた後継者への交代が最適なタイミングで為されるための取組として定義されている。

 

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