◇SH2691◇公取委、「業務提携に関する検討会」報告書 深津春乃(2019/07/25)

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公取委、「業務提携に関する検討会」報告書

岩田合同法律事務所

弁護士 深 津 春 乃

 

1 はじめに

 公取委は、「業務提携に関する検討会」(以下「本検討会」という。)を開催し、令和元年7月10日、当該検討結果をとりまとめた報告書(以下「本報告書」という。)を公表した。

 本検討会は、近年、新たな価値を追求するための異業種間での業務提携や、デジタルエコノミーやIoT(Internet of Things)化の進展、高齢化や人口減少といった社会経済環境の変化に対応するための業務の効率化等を目的とした業務提携が従前よりも一層広く行われるようになっていることを踏まえ、独占禁止法上の違法性の判断枠組みを体系的に整理することを目的として開催された。

 

2 企業結合と業務提携

 独占禁止法上、いわゆる企業結合(株式の保有、役員兼任、合併等)については、同法10条、13条、15条等において、競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法により行われる場合に禁止されており、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(平成16年5月31日公正取引委員会。以下「企業結合ガイドライン」という。)[1]により、独占禁止法上の違法性の判断枠組みが体系的に示されている。

 

 一方、企業結合に当たらない、契約に基づいて行われる業務提携については、企業結合とは異なり、独占禁止法上、直接的には規制されていないが、その態様によっては、競争制限的な効果を持つことがあると考えられる。したがって、業務提携も独占禁止法3条(私的独占又は不当な取引制限の禁止)等の行為規制の対象となり得る。

 しかし、業務提携については、独占禁止法上の違法性の判断枠組みが体系的に示されている状況ではなかった。

 

3 業務提携における独占禁止法上の違法性の判断枠組み

 本報告書においては、まず、企業結合と業務提携は、一定程度、事業者同士の意思決定・行動が一体化されることとなる点で類似しているため、業務提携に関する独占禁止法上の違法性の判断に当たっては、企業結合ガイドラインの考え方を踏まえることが適当であるとしつつ、業務提携特有の性質も取り入れて整理することが適当であるとの考え方が示されている。

 本報告書上、業務提携特有の性質としては、次の点が挙げられている。

  1.   企業結合は、将来生じ得る競争制限的な効果に鑑みて違法性が判断されるのに対し、業務提携への適用が問題となる独占禁止法3条等の行為規制は、現在の行為について違法性が判断される点
  2.   提携当事者間に引き続き独立して事業活動を行う余地があり、事業活動の一体化の程度や、業務提携後の独立した事業活動を制限する取り決めの有無や内容を評価する必要がある点

 その上で、具体的な違法性の判断枠組みについて、以下の考え方が示されている。

  1. ① 水平的な業務提携(同一の一定の取引分野において競争関係にある会社間の業務提携をいう。)について

    1. (a) 業務提携による提携当事者の事業活動の一体化の程度について、提携当事者間の競争の制限の程度を評価する。
    2. (b) 提携当事者間の競争が制限される場合には、当該業務提携が市場全体に与える競争制限の程度について、提携当事者の競争が失われ一体化して行動することによる市場への影響の可能性及び提携当事者以外の競争者との協調的な行動の可能性という二つの観点から検討する。
  2. ② 垂直的な業務提携(メーカーとその商品の販売業者との間の業務提携等、取引段階を異にする会社間の業務提携をいう。)・混合的な業務提携(異業種に属する会社間の業務提携、一定の取引分野の地理的範囲を異にする会社間の業務提携等、水平的又は垂直的のいずれにも該当しない業務提携をいう。)について

    1. (a) 業務提携による提携当事者の事業活動の一体化の程度について、閉鎖性・排他性等が生じるかを評価する。
    2. (b) 閉鎖性・排他性等が生じる場合には、当該業務提携が市場全体に与える競争制限の程度について、市場の閉鎖性・排他性が生じる可能性及び提携当事者が競争者と協調的な行動をとる可能性という二つの観点から検討する。

 また、①・②のいずれの場合でも、上記の各分析に加え、(c) 業務提携の実施に伴い各提携当事者の独立した事業活動を一方的又は相互に制約・拘束する取り決めを評価することが求められている。

 ①・②の場合の判断枠組みと考慮要素をまとめると、末尾の図のとおりである(本報告書より引用。)。

 

4 おわりに

 本報告書においては、上記3で紹介した判断枠組みのほか、業務提携の個別類型ごとの具体的な留意点や、データの共同収集・共同利活用を目的として行われる業種横断的な業務提携に関する独占禁止法上の考え方も示されており、新たな業務提携の検討において、独占禁止法違反行為を防止する際の一助となると思われる。

 

<水平的な業務提携の場合の判断枠組み>

 

<垂直的・混合的な業務提携の場合の判断枠組み>

 

 

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