経産省、「グレーゾーン解消制度」に基づく照会に対し、利用者が本店移転登記手続に必要な書類を生成するWEBサービスの司法書士法上の業務該当性に関する法務省の判断を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 武 藤 雄 木
経産省は、本年11月7日、事業者からの産業競争力強化法が定める「グレーゾーン解消制度」[1]に基づく司法書士法に関する照会に対して、同法を所管する法務省の回答を公表した。具体的な照会内容は、下記①及び②の事業が、同法3条1項2号が定める法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を「作成すること」に該当せず、司法書士又は司法書士法人でなくても事業として行うことが可能かというものであった。
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司法書士法は、「法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(略)を作成すること」(以下「本業務」という。)を司法書士の業務として定め(同法3条1項2号)、司法書士及び司法書士法人でない者が本業務を行ってはならないとされている(同法73条)。今般、司法書士法を所管する法務省は、照会事項①に対し、一般的に、事業者が、Web上に一定の入力フォームを用意し、利用者が自己の判断に基づき、その入力フォームに用意された項目に一定の事項を入力し、当該利用者自身が登記申請書を作成する行為(これらの行為を可能とするために提供される役務を含む。)は、本業務に該当しないと判断した。また、法務省は、照会事項②についても、一般的に、登記申請書について、利用者からの指示に基づき、利用者が指定する電磁的記録(登記申請書の電子データ)に記録された内容を印刷して当該利用者に送付する行為そのものは、本業務に該当しないと判断した。
他方で、法務省は、照会事項①及び②と異なり、以下の業務については、司法書士及び司法書士法人でないものが行えない「前号各号(同法3条1項1号から4号)の事務について相談に応ずること」(同項5号)に該当するおそれがあるとの見解を示した。
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リーガルサービスをソフトウェアやテクノロジーによって提供する、法務と先端技術が融和した「リーガルテック」は、これまで米国や欧州を中心に発展してきたが、近時、我が国でも多くの企業から様々なサービスが提供されている。他方で、法務の分野は、弁護士法や司法書士法などにより、法律の専門家のみが扱える業務が存在することから、これらの専門家以外のものが行える業務の範囲が明確ではないという課題があった。今般、経産省が公表した法務省の回答は、商業登記全般を対象とするものではないが、同種のWEBサービスを提供することを検討している企業にとって、そのサービスの適法性を検討するうえで重要な解釈指針の一つになると思われる。
[1] 「グレーゾーン解消制度」の概要
「グレーゾーン解消制度」は、2014年1月に施行された産業競争力強化法9条に定められた企業単位の規制改革のための制度であり、事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合にあらかじめ規制の適用関係について、事業所管省庁を通じ、規制所管省庁に確認を求める制度である。なお、正式申請後、原則として1か月以内に回答がなされることとなっている。