第20回弁護士業務改革シンポジウム 第1分科会
企業経営とジェネラル・カウンセルの役割(5・完)
ジェネラル・カウンセルのいま
2017年9月9日
弁護士 牛 島 信
グラクソ・スミスクライン 弁護士 三 村 まり子
新日鉄住金ソリューション 弁護士 吉 田 佳 子
日清食品ホールディングス 弁護士 本 間 正 浩
【河井】 それでは、第5番目のセッションですが、パネルディスカッション「ジェネラル・カウンセルのいま」ということで始めさせていただきます
【本間】 パネルディスカッションのモデレーターを務めます本間でございます。
まず、このパネルディスカッションの趣旨についてごく簡単に説明します。ジェネラル・カウンセルとはどういうものかというのは、概略的な話を私がいたしまして、それを踏まえた上で、特にアメリカの経験の深いラリー・ベイツさんに彼の思いを語ってもらいました。午後最初のセッションでは中崎さんからインタビューについてのフィードバックをいただいたということでございます。それを受けた上で、パネルディスカッションという形をとることで、「講義的でない」、「生々しい」というか、「生き生きとした」というか、「実はね」、みたいな話でなるべく赤裸々な姿をお示しできればということでディスカッションを企画いたしました。したがって、包括的な、あるいは体系的なお話をするということは想定しておりませんで、要はスナップショットというか、ジェネラル・カウンセルの活動している一つの側面を「わかりやすく」というか、「生々しく」お示しするということを目的にしております。
ということで、まず最初に各パネリストの自己紹介からしたいと思います。時間も限られておりますので2、3分でお願いできればと思います。まず、第二東京弁護士会の牛島信さんからお願いしたいと思います。
【牛島】 牛島です。ジェネラル・カウンセルでない人間が最初に自己紹介するのもいかがなものかと思いますが、ご指名でございますからいたします。私は外部弁護士でございまして、もともと検事を2年やって、それからもう40年近く弁護士をやっております。アソシエイトの経験を6年やりまして、今、50人の弁護士がいる、総勢100人ぐらいの法律事務所を主宰いたしております。
私の弁護士としての仕事はアソシエイトとしてでして、当時は準会員と申しましたが、そういう方のいる事務所におりました。そして、そのときもですが、その後もビジネスのための、あるいはビジネスにかかわる仕事をしてまいりまして、昔の時代の弁護士としては例外的にトップレベルへのアドバイスが多い仕事をしてきたと思います。他にも、コーポレート・ガバナンス・ネットワークというところの理事長をいたしております。ここはNPOで600人ぐらいの会員で、100人以上の社内取締役、社外監査役の方が参加していらっしゃるところでございます。私自身も社外役員を3、4社やらせていただいているほかに社団法人の監事を2つさせていただいております。これは本日の話題とは関係ないかもしれませんが、小説も書いたりしております。
実は、ジェネラル・カウンセルとの関係といたしましては、超巨大企業、多国籍企業のジェネラル・カウンセルと大変親しくつき合う機会がございまして、その関係で子会社のジェネラル・カウンセルの方ももちろんよく存じ上げておりました。本国のジェネラル・カウンセルの方のやり方、そういう意味ではアメリカ風のやり方というものを承知しているつもりでございます。私自身、特に一番強い印象を受けたのは、もう既にお話がございましたが、デュアル・レポートのことでございます。子会社のジェネラル・カウンセルが子会社のトップに対して、あの人は私の首を切れないからといって、大変強い態度をとるといったことが印象に残っております。
おそらく本間さんが私に声をかけてくださったのは、去年の10月ですが、ジェネラル・カウンセルのパネルディスカッションでIBAの関係からモデレーターをさせていただいたからだと思うのですが、そのときには10年前になかった職業で日本企業に弁護士が、ジェネラル・カウンセルとして多数いらしたので鮮明な印象を受けました。それから、私がそのときに強い印象を受けましたもう一つは、海外の組織づくりがジェネラル・カウンセルの仕事であるということ、これも強い感銘を受けまして、そしてさらに最近、著明な日本の某巨大企業のジェネラル・カウンセルが米国居住の米国弁護士だということにつきまして、なるほどそこまで来たかと思いました。以上でございます。
【本間】 それでは、吉田さん、お願いします。
【吉田】 吉田佳子でございます。私、第二東京弁護士会で39期でございます。もう弁護士になって30年になってしまって、あっという間だったなと思っているところでございます。最初5年ぐらいは法律事務所におりまして、ワーク・ライフ・バランスといいますか、家庭の事情で数年仕事を離れた時期がありまして、96年に仕事に復帰したのですが、それからずっと企業内でやっております。最初は日本オラクル株式会社におりまして、それから、午前中お話をされたラリーさんと出会いましてGEキャピタルの子会社に入れていただきました。その会社はもうGEを離れておりますが、そこで数年おりまして、その後、ジョンソン・エンド・ジョンソンに移りました。この3社はずっとアメリカに本社がある外資系ということで、外資系の子会社の中で法務、ジェネラル・カウンセルの下で働く法務のスタッフとはどうあるべきかということや、デュアル・レポートのあり方などということについて、いろいろなバリエーションがあるなというのを見ました。日本オラクルは当時は、どちらかというと日本のオペレーションを優先していいと。あまりアメリカからセンターコントロールのようなことはしないというオペレーション、今は違うようですが、当時はそうでした。GEはもうラリーさんがお話しされたので、ここは話す必要もないかと思いますが、日本社内での指揮系統のほかに法務部門としての指揮系統がございました。ジョンソン・エンド・ジョンソンは、もっと法務の指揮系統が強くて、日本のビジネスサイドには指揮系統を持たないというオペレーションをやっていて、それぞれに特徴のあるマネジメントを経験して、今は思うところあり、日本企業がいいなと。本音ベースで言うと、日本のことなのになぜかアメリカにこうしなさいと言われ、でも日本ではそれは要らないんですけど、というのがなかなかストレスになりまして、であればもう、私は日本の資格しか持っていませんので、日本の会社に入ろうかなと思って、今の新日鉄住金ソリューションズに5年前に入りまして、最初は法務知的財産部長だったのですが、2年前に執行役員にしていただいて、今、一応、今日この席に座らせていただく定義(執行役員も含め、役員である法務部門長)には当たっているのですけれども、当社は多分、ジェネラル・カウンセルを置いたという発想は経営陣は持っていなくて、法務部長を昇格させたぐらいにしか思っていないと思っていますが、一応、その定義には当たっているということなので、この席に座らせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
【本間】 それでは、三村さん、お願いします。
【三村】 三村と申します。よろしくお願いします。
私は44期の弁護士です。インハウス・カウンセルになる前は、今の西村あさひ法律事務所に10年ほど在籍していました。その間、アメリカに行ったときに、アメリカのベンチャー企業で、スタートアップの企業を手伝ってほしいといわれたことがご縁で、企業の中に入ってヴァイス・プレジデント・アンド・ジェネラル・カウンセルとして40人ぐらいの会社で1年と少し仕事をしました。私がやめるころには120人ぐらいまでに育て上げまして、ビジネスを行うことが楽しいという気持ちを持って日本に帰ってまいりました。当時の西村総合法律事務所に戻ってしばらくしたころ、ヘッドハンターからお電話をいただきまして、インハウス・カウンセルに興味ないかと聞かれましたので、私は日本に工場を持って製造業をやっているところなら興味があると答えましたところ、現在のGEヘルスケア株式会社(当時のジーイー横河メディカル株式会社)を紹介していただき、私はそこでジェネラル・カウンセルとして2005年から就業することになりました。
そこで5年ほど仕事をしたのですけれども、それから医薬品業界に移りまして、ノバルティス・ファーマ株式会社という医薬品会社に入りました。そこで働いている間に医薬品業界の中の戦後最大の不祥事と言われる問題が発覚し、そこで不祥事を解決していくという、大変ではありましたが、弁護士としては貴重な経験をさせていただきました。その後、2015年に今のグラクソ・スミスクライン株式会社という製薬企業に入りました。そこでまた日本の医薬業界の中でも最大級と言われるPL訴訟が始まりまして、どうも三村のいるところ問題あり、みたいに言われながらジェネラル・カウンセルとして良い経験をさせていただいています。
今の会社では法務、コンプライアンスだけでなく、渉外、医療政策、患者支援などの仕事も担当させていただいていまして、多方面にわたる充実した日々を送らせていただいております。
ありがとうございます。
【本間】 ありがとうございます。
パネルディスカッションを始める前に、2点ほどちょっと申し上げたいことがあります。
今の自己紹介でお気づきになったとおり、今日のパネリストはお2人とも実はGEのOGです。私自身も実はそうであります。ある意味、ラリーズ・チルドレンみたいなところがありまして、現実の問題として、日本の企業内弁護士は、特にシニアの部分については、そのあり方について、やはりゼネラルエレクトリックという会社が、その法務部というのは、世界最強と謳われたこともある法務部ですけれども、それが決定的な影響を与えたというのは、これは事実であろうと思います。ただ、その分、ある意味バイアスがかかっている可能性もございますので、これがすべてかどうかという点については皆さんご自身でぜひお考えいただきたいと思います。私自身はこれがモデルだと思っております。あるいはここに座っていらっしゃる方もそう思っていると多分思うのですが、そうではないかもしれません。それはそれで一つのモデルですので、それを日本の企業において、あるいは皆さんご自身が、どうお考えになるかというのは皆さんご自身でご判断をいただきたいと思います。我々としては、今日は一つの姿を提供すると。それを生々しく提供するということを目的にしております。
もう一つ、やや微妙な話になりますけれども、パネリストは2人とも女性であります。はっきり申し上げますが、これは偶然であります。真面目な話、ダイバーシティーであるとか、そういうことを全く考慮しないで選んだ結果がこういうことでございますので、それはそういうものとしてお考えください。女性の活躍等々、いろいろ言われますが、少なくとも今回のチームの選択に関する限り、これは偶然であります。そういう立場で実力があって引き受けてくださる方を探したらこうなったということでございますので、そこのところはぜひ踏まえていただきたいと思います。
さて、いつまでも御託を並べていても仕方がないので中身に入りますけれども、今日の私のプレゼンテーション、それからベイツさん、それから中崎さんのプレゼンテーション、やはり一つキーになる言葉として、あるいは特色として、「経営陣の一員」であるというところが出たように思います。この辺は実は多くの弁護士の先生方、法律事務所の先生方とお話をしていて、やはりちょっとぴんと来ないというフィードバックをよく伺います。この点について、それぞれご経験を踏まえてどのように考えておられるのかというところをまずコメントいただくところから出発をしたいと思います。
まず、経営陣の一員としてということでございますけれども、リスクをとるということを申し上げましたが、これについて、特に法律事務所の先生方にご理解をいただくという趣旨で、それとの比較においてジェネラル・カウンセルの仕事の中でリスクをとるというのはどういうことなのか、あるいは皆さんがどのような形でとっているのか、とらせているのか、あるいはとりにいこうと言っていいのか、仕方ありませんと言っていいのか、この辺について生々しい話を伺うところから出発したいと思います。
三村さんからお願いします。
【三村】 私は今の立場は取締役ですので、経営陣の一端であることは間違いなく、したがって、弁護士であるかどうか、あるいは法務の責任者であるかどうかは別として、経営陣の一員であることは間違いないです。経営に携わっていくということは、もちろん会社の売上を上げ、会社を成長させるということが一つの役割ですので、常にビジネスポジティブに考えています。その中で私の役割は、会社がリスクを管理しながらどのように成長していくかということを考えていくことだと認識しています。したがって、違法な行為を行うことは絶対ノーですが、グレーゾーンについては、経営陣とリスク評価を行いながら、ビジネス判断を行っていきます。最初に法律と倫理みたいな話がありましたが、私はビジネス・デシジョンに加わる場合、必ず2つの帽子はかぶることにしています。1つは、法律判断としていいのか悪いのかの判断であり、それがノーならノーで終わりです。しかし、もう1つは経営者としての判断で、法律上ノーではない、すなわちグレーゾーンの場合に、それが倫理的に、あるいは経営上いいのか悪いのかということを別の観点から考えることにしていて、法的にはオーケーの範囲内だけれど、私の経営陣としての意見としてはこれはやめたほうがいいとか、これはやったほうがいいとかっていう意見を述べ、2つのものの見方を切り分けて会社の経営に参画するような形でやっています。
【本間】 同じ質問ですけれども、吉田さん。
【吉田】 経営陣の一角としてということで言うと、どこの会社でもそうだと思うのですが、年間の目標があって、その目標に向かって1年間、予算の達成に向けてビジネスをオペレートしていらっしゃると思うのですが、弊社でも1年間の計画があり、あと3年分の中期という計画があり、その中で何を追いかけていくかという方向性を年度の初めに固めて、それでいろいろな施策が動くわけなのですが、大体、私の目の前に来る、あるいは気づくものというのは、その方向性の中で考えると、何がしたいからこれが出てくるだろうというのがわりとわかる。なるほど、そういうことを狙っているからこういうのを編み出そうとしているのですねと。非常にビジネスパーソンはクリエーティブといいますか、いろいろなことを思いつく、非常に頭のやわらかい人たちなのですが、それにまずついていくには、その会社の方向性というのがわかっているという強みが一個あるというのと、であると、それを進めたいのだけれども、リーガル的にはどうなんでしょうかというところを法務の帽子で考えるということですので、羽交い締めにしてという話も確かにありましたが、弊社はわりと、新日鉄住金の子会社というのもあって、かためといいますか、善管注意義務を果たすんだということ、それを守らないといけないんだということについては厳しく言わなくてもみんなすごく気にしているところでありますので、法務の責任者である私がネガティブな意見を言ったものは、簡単にはゴーにはならないです。何でだめなのかというところをもちろんきちんと説明をし、理解をしていただいた上で変更するなり、やめるなりという判断になるのですが、簡単に乗り越えたりとか、無視したりということはまず起こらないです。すごくやんちゃなビジネスの人たちが仮に乗り越えようとしても、私が否定的な見解、ないしは躊躇があるようなコメントを述べますと、大体みんなとめるので、すごく説得される立場に私はなったりするわけですが、一応、流されたりはしないで、恫喝されても負けないで、この道が正しいのですというところは伝えるようにしています。
【本間】 今のお2人のコメントで若干ニュアンスが違うかなと思ったのは、やはり吉田さんはリーガル的な観点からビジネスを理解した上でリーガル的な観点からイエス、ノーを言うと。三村さんの場合は、二つの帽子をかぶって、リーガルはこうです、私のビジネス判断はこうですという形であるように聞こえました。そこで三村さんに伺いたいのですけれども、純粋なというか、ビジネス的にいい悪いというところまで、例えば三村さんの場合には踏み込んでものを言われているということで理解すればよろしいのでしょうか。
【三村】 はい。全くそのとおりで、自分ではビジネスパーソンのつもりでおりますので、むしろそちらのほうがジェネラル・カウンセルの仕事としては、メインだと思っています。ベースにリーガルがあって、私のメインの仕事はビジネス判断に加わっていくということだと思っています。
【本間】 吉田さんはいかがでしょうか。
【吉田】 別にすごく違うなという気はしていないのですけれども、経営の中にいるというか、経営会議に参加している中での私の立ち位置というか、期待されていることというのは、数字をつくりましょうという話をリードするというよりは、それが安心安全というか、大丈夫な方法なのですかということの確認なのかなと思っていて、前に数字をつくっていきましょうみたいな人ばかりで、アクセルを踏むばっかりの人だと車はちゃんと走らないので、ビジネスを車に例えるとですけど、うまく前に走らせるための心地よいブレーキになるというのも期待されている仕事なのではないかなと思っております。
リスクって数字に置きかえて考えて、とるかとらないかって、よく経営の中では話されるかと思うのですけれども、それであれば正しい計算式かどうかは確実にはわからないのですが、合理的であると思われる計算式でとれる数字かどうか、リスクかどうかっていうのは、それは考えればいいと思うのですが、一点、私が思っているのは、多分皆さんもそうだと思いますが、可能性が小さくても刑事罰のリスクがあるものについては絶対とってはいけないというところは一つ持っています。
【本間】 ありがとうございます。
その観点で、経営なりリスクをとるという観点で、法的な、あるいは広く言って倫理的なところについては、あんたの仕事だよねっていうことで引き受けているというのはあると思うのですけれども、例えばお2人のご経験の中で、何かビジネス的なことについて口を出そうとしたときに、黙っていろと言われるかどうかは別として、それはあなたの仕事じゃありませんと言われたような経験ってありませんか。
【三村】 むしろ日常の細かいことは、一々口出すな的なのはありますけれども、大きなところで言われたことは多分一度もないですね。
【吉田】 私も、口出すなと言われたことは一回もないです。逆に、口を出そうとして、参加して意見を全然自分の領域じゃないことで言うと、みんなおもしろがって聞いてくれる。法務の人が聞くとこういうふうに聞こえるのかと、そこが疑問になるのかという、すごく新鮮な目で見られて、逆にもっと言ってくれみたいなことを言われたことはあります。
【本間】 法務以外のことについて意見を言うかということで、私が感じることとしては、やはり法務部門、あるいはジェネラル・カウンセルといった私のポジションとかですと、会社全体の情報が集まってくるということがありまして、事業の方々はどうしても事業の縦で仕事をされている中で、いやいやもう少し社内全体を見たらとか。そういう点からコメントができたりしますよね。この点、法務部が社内全体を見ている、見えると。ある意味、事業部以上に見えるというのは非常に重要だと思うんですけれども、この辺が具体的にどういうことなのか、ちょっと経験のない聴衆の方々はよくわからないと思うので、どなたかちょっともう少し敷衍して言っていただくとありがたいです。
【三村】 法務は本当にいろいろなところからご相談を受けるんですよね。だから、あらゆる分野の人たちとやりとりがあるので、見えていない分野というのが、会社に何年かいると多分ほとんどなくなってきます。GEヘルスケアにいたときも、私たちは会社のグルー、つまりのり付け役になるべきだというような話をしていました。いろいろな部門をのりでくっつけられるのが法務なんだみたいな言い方をして、あえて部門間の調整をしていく役割をみずからみんなで買って出るみたいなことをやっていました。そういう意味で、法務は、全部署が見えている特殊な部門ではないかなと思います。
【吉田】 午前中に本間さんもお話をされていたのですけれども、調整役になるみたいな話かなというのと、どこの会社にも事業部門はそれぞれ自分のビジネスラインを見ているわけなのですが、何となく会社が大きくなると縦割りになっていて、ご自身の周りやご自身の専門分野には一生懸命なんだけど、ほかは見えないということになりがちなのです。上のほうの人でも、自分が所管しているものしか見えていなかったりということはあるのですが、法務部門はいろいろなところから相談もありますし、出かけていってお話を聞いたりもしますので、いろいろ見えています。いろいろな調整があるときに、どの部門の所管でもないのだけれどもやらなければいけないことというのが必ずあって、でも、何となくみんな縦割りになっていて、そこにボールが転がっていくみたいなのはよくあるので、それを拾って回ったりとか、横串を入れるということでしょうか、をやっていたりします。管理系は大体どこの部門でも、財務とか人事とかは横串なんですけれども、やっぱり自分の専門分野に特化しがちなので、法務ってわりと形がないというかアメーバというか、いろいろなものになり得るので、全体を俯瞰できるのかなと思っています。
【本間】 私自身の経験でも、違う事業部門が宣伝広報のプロモーションの方針が180度違っているとかって、これ、会社が一体どういうふうに見られるかわかっているのかみたいなことを言ったことがありますね。
さて、牛島さん、そろそろたまっているものを吐き出していただかないといけないかなと思うのですが、外部弁護士から見た場合に、こういう企業内弁護士の役割、かなり法務から少しずれたというか、やや派生したところのものになると思うのですけれども、その辺特に、ガバナンスということも含めてだと思うのですが、先生が外部弁護士として企業の中を見ておられる観点からコメントをいただければと思います。
【牛島】 ありがとうございます。私、もうこれで今日は終わりかなと思ったのですが。(笑)
私、ジェネラル・カウンセルの方とお付き合いしていて、いわゆるアメリカ的なジェネラル・カウンセルですけれども、経営陣の一員であるということは、これは当然のことなのだろうなという気がしています。むしろ、これは林先生にもいろいろ教えていただいたことなのですが、ではCEOの部下か、全面的に部下かということはむしろジェネラル・カウンセルには突きつけられているのではないかと思います。具体的な例ということで申しますと、例えば、私、アメリカの会社の仕事をしていたときに、アメリカの会社のボードの監査委員長、それとジェネラル・カウンセルと一緒の会議をする機会があって、アメリカでは監査委員長というのは大変強いですから、そういう機会では、その人が仕切るわけですから、その人に日本で今やっている件を説明してほしい、どうしてこうなのかということを言ってほしいということをジェネラル・カウンセルが私に言われまして、なるほど、ジェネラル・カウンセルというのはいろいろなことをやらなければいけないし、社長とはまた別のところでいろいろ働くものなのだなということを実感しました。と同時に、要はこの方の報酬の相当部分はストック・オプションのはずだから、いろいろなことを気にするのだろうなと余計なことまで考えました。
もう一つは、抽象的になるかもしれませんが、私はジェネラル・カウンセルのことを考えるときにいつもCFOとの対比で考えるのです。CFOとジェネラル・カウンセルってそれぞれ独立した立場、独立ですからそれぞれ違う立場だと思いますし、アメリカでは、私の印象ですけれども、CFOの方が力が強いですよね。ビジネスパーソンとして。でも、ジェネラル・カウンセルはどこかで絶対に頑張らなければいけないというところがあって、その辺のところがとてもおもしろいなという気がするとともに……もうちょっと脱線していいですかね。
【本間】 どうぞ、どうぞ。
【牛島】 私は、今、アメリカのことを申しましたけれども、日本のジェネラル・カウンセルというお立場はまだ出発して間がない、10年でしょうか、と思いながらも、日本の法律環境下で独特の発展をする可能性があるのではないかという気がしているのです。それは資格の問題とかかわるのですが、日本では伝統的に弁護士資格を持っているということと法務の仕事をするということは基本的に関係なかったのですけれども、それが関係づけられてきて、そして、法曹資格がなければ話にならないという面が一方にありながら、他方で多数の既に法務経験をお持ちの資格のない方がいらっしゃる。それから、そこに絡むのは、日本では弁護士会がありますから、今日も弁護士会の主催だと思うのですが、弁護士会がどのようにかかわってくるのかなと考えます。日本のCPAの方々は、当然のように日本で行政に完全につかまれているわけですけれど、弁護士はそうじゃない。そういったことを考えますと、日本で何か独自の発展をする余地があるのではないかなという気も少しいたします。
【本間】 ありがとうございます。プロフェッショナルあるいは弁護士資格ということの意味については、これは非常に重要な問題の一つでございますので、最後にまとめて議論するとして、経営陣の一員であるということの議論をちょっと続けたいと思うのですけれども、積極的にビジネス部分に発言するというような話も出てきたわけですが、その裏側として結果に責任を負わされてしまうというところが一つ大きな問題なのかなと思うのですけれども、その辺について感じられることをどなたか。今、たまたまうなずいていた三村さん、お願いします。
【三村】 結果について責任というのは、もちろん当然そうだと思います。私は部下の人たちに、法的にあるいはコンプライアンス的にできるにもかかわらず、きちんと調べないでノーと回答してはならないというようなことをいつも言っています。アドバイスをするときに、はっきり言ってノーと言うほうが楽は楽ですよね。自分たちがリスクを負わないし、あまり考えなくてもいいので。法律事務所にいたら、お客さんからお金をもらわなければいけないので、それはだめですって言って3分で相談を終わらせることは絶対しないと思いますが、企業の中に長くいてしまうと、皆さんが相談に来るし、自分は権限を持っていますので、ともすれば、「いや、それはだめです」みたいに簡単に言ってしまいがちなところがでてきてしまうことがあります。しかし、できることをだめだと言ったためにビジネス機会を失うということは、我々法務の責任であり、だから私たちは意思を強く持って、できる限りビジネスがやりたいことができるように、一生懸命考えてあげるのが仕事かなと思っています。
【本間】 そういうときに、白黒っていう場合ってほとんどないじゃないですか。常に程度問題ですよね。やれるほうに持っていくと、ではどこに崖があるんだっていうことで、私なんか夜も眠れなくなるときが、まあ、ごくたまにあるんですけれども、その辺はいかがでしょうか。
【三村】 私たちの答えのほとんどはイエス、ノーではなくて、どうやってやりましょうかっていうことだと思っているので、ビジネスと一緒にゴールを設定したら、そのゴールにどうやってリーガルあるいはコンプライアンスリスクなく行けるかっていうのを一緒に考えていくっていうふうに考えているので、毎日毎日これで失敗したら私が首くくらなきゃみたいなことは、そんなにはないです。
前の会社で不祥事が起きたときに、本当に崖っぷちに自分が立ったときに、同じように不祥事に巻き込まれた方が自殺されたというニュースが流れ、そのときは、その自殺した方の気持ちがものすごくよく分かる気がしました。でもそんな風に思うことは、人生の中でめったにないです。
【本間】 ジェネラル・カウンセルは楽観主義者じゃないと務まらないということなのかもしれません。要するに、結果に対する責任ということをどういうふうに考えていらっしゃるかということだと思うんですね。法律事務所の方々は、これ、別にいい悪いの話をしているわけではなくて、あるいは優劣の話をしているわけではなくて、業務の性質上ということなんですが、最後は依頼者がお決めになることで、私は法的アドバイスをしますで済むのですけれども、その点がもしかしたらピンと来ていらっしゃらない方もいらっしゃると思うので、結果に対して責任を負う、負わないということについて皆さんが仕事をしていく上で、その点をどう考えておられるかということを聞きたかったわけなのですけれども。吉田さん、何かコメントがあれば。
【吉田】 お2人の話を聞いていると、そんなに大きな局面に立ったことがないかなと思ったりもするんですが、幾つか相談があって、A案、B案、C案とありますねと。それぞれにメリット、デメリットがこうで、リスクはこうでとかっていう表をつくるまでは簡単というか、わりとある話で、「はい、できました。どうぞ」って渡しただけだと、結構気楽に生きていられるのですが、「で、どれがいいんですか。法務としてはどれがお勧めですか」って聞かれたときに、まあ、一長一短あるのでと思いながら、100点満点と0点だったら決めやすいのですけれども、それぞれにいろいろあるよねっていう中で、「で、あなたはどれが一番いいと思います?」みたいなことをよく聞かれて、ここが、「いや、まあ、それは私の言うことではないので、そちらでお考えください。事業部長と相談してください」と言えれば楽だろうなといつも思っています。
えいやで決めるわけにいかないので、何か言わなければいけないのですが、自分もすごく悩みますが、特に自分の部下の人たちがそういうことを聞かれたときには、それは最終的な意見はそちらで決めてくださいという答えを言いがちというか、言いたくなるみたいなのですね。そのほうが楽だから。法務としてはそのほうが失敗しませんので。どこを選んでも事業部が決めたことで、その材料は提供しましたけれども、私が決めたのではありませんと、結構枕を高くして寝ていられるんです。でも、多分それだと皆さん、ビジネスのそばにいるということにはならないだろうから、間違うかもしれないけど、法務としてはこの状況だとこの順ではないのですかみたいなのはなるべく言うようにはしていて、全部合っているわけではもちろんなくて、何割間違っているかというのもわからないのですが、いくらかは間違っていて、本当は逆だったなというのもきっと何年かたったときに、明日ではなくて大分先にですね、あのときこうしておけばよかったなみたいなのはきっとあるのですが、そのときに時系列は戻れないので、その断面でいろいろな材料を考慮して、自分として最も適切な判断をしたと。先ほど良心という話がありましたが、私も自分の信念と良心に誓って、それがいいと思ったんだもん、と言えればいいのかなと思っています。
【本間】 皆さん楽観的でうらやましい。私なんか気が小さいものだから、いつもいつもびくびくしているのですが。牛島さん、依頼者に対する影響力という意味では、特にシニアな法律事務所の先生方というのはそれなりにやはり経営者等々について影響力を持って、そのアドバイスが企業の意思決定になるということも少なくないと思うのですよ。そういう意味で、決して、プライベート・プラクティスの先生方が企業に対して意思決定の影響力を持っていないというわけではないと思うのです。その辺について今、話を聞いていただいて、企業内弁護士なりジェネラル・カウンセルのそういう結果に対する影響力なり責任ということと、法律事務所の方の同様のものと、何か違いがあるのかないのか、その辺についてコメントいただければと思います。
【牛島】 私の現時点での感想は、日本ではジェネラル・カウンセルは発展途上だと思います。したがって、トップの話が出ましたけれども、トップレベルの方の信頼が、これも人によると思いますが、外部の弁護士に大いに寄っていて、したがってジェネラル・カウンセルよりも外部の弁護士の意見を聞きがちだ、あるいはそっちの方を信用しているということは現実に多々あると思います。しかし、これは将来の姿としては、ジェネラル・カウンセルを通さないで法務のことを外部の弁護士に聞いて決めてしまう、あるいは法務に絡んだビジネスのことを外部の弁護士と相談して決めるというのは、本来の会社の姿ではないのだろうと、このように思っています。
【本間】 ありがとうございます。
さて、ジェネラル・カウンセルの一つの役割として組織をつくらなければいけないということで、特にコントロールするための仕組みとしてのデュアル・レポーティングとかマトリックスという言葉がこれまでにいろいろ出てきましたけれども、具体的にこういうことがあるのですよという具体例を思いつくものがあったら挙げていただきたい。なかなかこれも法律事務所の先生方、あるいは比較的ジュニアな企業内弁護士の方々は、多分具体的に理解しにくいと思うので、何かこういう例がありましたと、こういうふうに使うんですよみたいな、おもしろおかしい体験があれば。
三村さんはグローバル企業の現地のジェネラル・カウンセルということで、いわば2つのレポーティングラインを上に上げる立場だと思いますけれども、その辺で何か、おもしろいと言ったら失礼ですが、具体的に三村さんのマトリックス、逆に使い方というか、その辺については何かコメントがあれば。
【三村】 そうですね、よくぞ聞いてくださいましたという感じです。
【本間】 聞いてくれって顔してるもの。
【三村】 ありがとうございます。私の場合は、今言っていただいたように3つの会社で仕事をしてきましたが、いずれも海外に本社があって、その子会社でジェネラル・カウンセル業務を行う立場でした。今、デュアル・レポートラインとおっしゃいましたけれども、私の場合はいつもトリプル以上でした。現在は、ダイレクト・レポートはグローバルの法務ですが、コンプライアンスに従で、それから日本のCEOに従で、それから従としての指揮系統はないけれども、先ほど言った渉外・医療政策・患者支援とか、海外にそれぞれの分野のトップの人がいますので、その人たちとは常に協調をしながらやっていく必要があります。要は、すごくたくさんボスがいるんですね。あるボスは冗談で「そのおかげで誰もコントロールしないからいいよね、君は」とかって言っていますが、実際はかなり大変です。企業の中では、弁護士に限らず、何かプロジェクトをやっていくとか、自分の考えを実現していく場合、最も大事なのはコミュニケーション能力だと思っています。要するに一人の人に所属して、その人が一番偉い人で、何でも決めてくれたら楽だと思いますが、必ずしも会社の中ではみんなが同じことを考えているわけではありません。とりわけ、私は今、日本で法務とコンプライアンスの長をしていますが、グローバルでは法務とコンプライアンスが別の組織になっています。しかも、グローバルの法務とコンプライアンスが必ずしも一枚岩ではない。それゆえ、そこをどう調整していくかというのはかなり手練手管も必要とします。例えば何か問題があるときに、このラインで上げていくとプッシュバックされてしまうだろうから、まずどこに相談して、誰から誰に伝えてもらって、どこと調整して、などいろいろなことを考えながら、あちこちのひもを引っ張りながら、最終的に自分が正しいと思う方向に持っていく。私が最初にジェネラル・カウンセルとしてお世話になったGEがそういう会社組織でしたので、おかげさまでかなりこの調整能力はついてきたかなって思っています。
【本間】 ある多国籍企業にいたときに、本社のコンプライアンス部門から、定年制はけしからんから廃止しろって言われたことがあります。それはアンフェアだと。能力があって意欲があるのに、年を取ったという本人のコントロールできない理由で首を切るとは何事だと、廃止しろと。そんなことをする前に業績不良者の首を切れと言われました。そんなことできるわけないって言って、コンプライアンス部門から落ちてきたのをビジネス部門のルートで跳ね返したことがありました。一言で言うと政治だよねっていう話になるということでよろしいのでしょうか。(「その通り!」との声)ともすると、弁護士は論理的に明確になっていなければならないと考えるところがありますので、それが難しいところですね。
( 休 憩 )
【本間】 前半は経営陣の一員としてのジェネラル・カウンセルということで議論いたしましたが、後半はまた若干意趣を変えて、管理者としてのジェネラル・カウンセルということで、法務部長の管理者であることの実相というか、苦労していることとかということを、これも具体例を引きつつ生々しく語っていただけるとすごくうれしいのですが、例えば、人の評価なんかはどうでしょうか。企業内弁護士も大分増えて、いろいろな混合の可能性がある状況になっている企業も多いのですが、では、もともと法務部門で法務に携わっている人、今後新卒的な採用するとき弁護士も含めてどのような人材を採用するか、さらには中途採用、これらのミクスチャーをどういうふうにしていくかも、課題の一つになるのではないか。その人事評価をどうするか、そのあたりは大変だと思います。
【三村】 今、すごく難しい質問を受けてしまって、何を言ったら具体的にわかりやすいのかなと思い、悩んでいます。会社の中に入りまして、会社の部門のヘッドになったときに、正直言って私にとって一番嫌な仕事だったのが人事評価でした。人を評価するわけですが、年初に自分の目標を設定し、部下にも目標を書いてもらって、半期末及び年度末に評価をして、あなたは何点、何点みたいなのをつけるわけです。ちょうど私、昨日までドバイでリーガルチームのミーティングがあって行ってきたのですが、その中のリーダーシップチームミーティングで、全世界のすべての法務部員を、そうですね、7、8時間かけて、一人一人、バイネームで1から5までの評価をするのですけれども、それが本当に大変でした。
部下を持って育てていくというときに、弁護士の場合は皆さん試験に受かって、一定のレベルの知識を持っているので、法律という意味で共通の話が通じて当たり前なのですけれども、会社に入ったら必ずしもそうではなくて、この人がどういう能力を持っているかということを見ていかなければいけないところがあります。私、会社に入ってから一回、みんなに絶対にできないだろうと思われる量の仕事を渡して、どういうふうに返ってくるかを試してみたことがありました。例えば、頑張っても1.5ぐらいしかできないだろうという仕事を3つぐらいお願いするわけです。そうすると、1個を完璧にやって、2つはほぼ全くできないタイプの人もいれば、60%ぐらいを3つともやる人もいれば、できない仕事の量を渡した瞬間に、もう頭が痛くなって家に帰っちゃった人もいました。(笑) そうやって人の作業能力を試して把握するようなことをやりました。その結果、その後は、寝込む人には仕事はできる範囲の仕事しか与えちゃいけないし、60%で十分な仕事はこの人にお願いするし、量はできなくてもいいから100%やってほしい仕事はこの人に渡すみたいな、そういう業務分担をするようになり、効率よく、ストレスなく仕事ができるようになったと思います。
【本間】 恐ろしいことを。吉田さん。
【吉田】 やはり一番難しいのは人の話、組織管理というと人、物、金とか言うのですけど、法務部門というのは予算をそれほど巨額に持っているわけでもなく、物といってもそんなに大したものは持っていなくて、やはり人です。午前中にもラリーさんが人のことでずっと時間を使っているみたいな話がありましたが、私も結構マネジメント業務の中で人絡みのところに時間と労力と心を割いているなと思っています。まず、私が5年前に今の会社に入りましてから、実は結構人が入れかわっています。1人を除いてほかの部門に異動されたりとか、ご自身がお辞めになったりとかいうのがあり、あとは採用したり社内から持ってきたりをしています。評価の問題は確かに難しく、大体、毎年度の始めに目標を決めて、年度の最後に、あるいは次年度の頭に評価をするわけですが、本人は書いた目標を達成しました、よくやりました、頑張りましたみたいなことを、自己評価はすごく高い。皆さん5段階評価で、自己評価としては5や4をつけたりします。5段階評価で言うと3なんてつけてくる人はいないのですが、上司としては意見が合わないこともあります。で、数字を持っている方であれば、何パーセント達成ですよねっていうのはそんなにぶれずに確認できるのですが、どうも定性的な話で「自分のやったことは頑張ったので」みたくなるので、納得感のある評価をつけていくというのはやはり難しいなと感じています。
法律専門家、弁護士さんを雇っているというのもありますし、外部の事務所から出向で来ていただいているというのもあるのですが、全然、法律なんかやったことないけどうちの会社に入って、うちの会社のビジネスをよく知っていますよという部員が意外に伸びてくれたりとかしています。なので、理科系の出身の人ですとか、全く法律を知らなかったけどうちの部門に入ってから学んだ方ですとか、あるいは外の弁護士さんですとか、いろいろ混成チームで今はやっています。今は過渡期なのでそれでやっていますが、長い目で見ると、社内に、うちの会社が好きでうちの会社に入った人がどう活躍できるのかというのと、ほかの部門に行ってさらに活躍できるようにするのか、法務だけで一生頑張れるようにするのかっていう、一人一人のキャリアプランみたいなのをつくっていくのは難しくて、法務だけで考えるとそんなにバリエーションがないのですね。法務のライン長なんてそんなに何人もいませんし、ラインマネジャーになるだけが偉いわけではないのですが、やはり日本企業って、できる人はラインに上げるみたいな評価をするので、できる人だけどラインに向かない人をどう処遇していくのかとか、どうモチベーションをアップしていくのかというのはすごく頭の痛いところだと思っています。
【本間】 ありがとうございます。その場合、非弁護士と弁護士というのはやはり評価のやり方が違ってくるものなのでしょうか。
【吉田】 いえ、基本的には同じ評価軸でやりますが、やはりもともとの期待値が高いので、弁護士さんでいると当然、司法試験に受かっているのだからこのぐらいできるよねと、結構上のほうから期待値が。だから目標設定も高めになります。全然法律の勉強をしたことがない人については、最初は何とか契約のひな形の理解から行くわけですが、意外にその人がぐっと伸びて、では、こういうのをつくったらどうでしょうみたいな提案をしてきたりすると、何かプラス点がついちゃったりという感じですね。
【本間】 組織をつくっていくに当たって、アメリカ、イギリスだとほぼ全員弁護士ということで、ある意味等質性があると思うのですが。
日本企業がこれからどうなっていくかということに関して言いますと、これは皆さんほぼ同意できるのではないかと思いますが、どんどん企業内法務、企業内弁護士が増えていく、これは間違いがないところです。しかしながら、多くの日本企業の給与体系を考えると、役員レベルまでいくと少しは報酬も柔軟に出すことができると思うのですけれども、そこまで行かないが相当シニアな方を例えば部長さんとかぐらいで採用しようとしたときに、弁護士で法律事務所ではこれだけ稼いでいたから、それを下がらないように給与を出しましょうという会社はなかなかないのではないかと認識しております。そういう意味では、これからジェネラル・カウンセルはある程度増えて、若い社内弁護士も結構増えて、しかし、その中間のところはその若い社内弁護士が成長するまでのしばらくは、弁護士の相対的な比率は上がらないということが次の10年ぐらいは続く、そういうことになるのではないかという気がします。
一方で、中堅どころっていうのは多分、一番使えて、必要な人たちのところで、そうなると中途採用に頼らざるを得ないと思いますけれども、その場合に中途採用といわゆるプロパー、今度、企業内弁護士同士のいろいろな葛藤なりキャリアデベロップメントの問題が出てくるかなと思うのですけど、その辺はいかがでしょうか。
【吉田】 日本の企業では伝統的にジェネラリストを育てるのだという育成の仕方をしていたかと思うのです。いろいろな部門を若い人に経験させて、どんな分野に行ってもマネジャーになれるみたいな育て方をしていたかなと思っています。従前は法務もそういう中だったかなと思うのですけれども、でも、どっちかというと法務からあまりジェネラリストとして異動していく人はあまり多くなく、法務に長く在留する人のほうが多かったかなと思っていますが、会社の評価のあり方を今後変えてほしいなと思っているのは、ジェネラリストとしてやっていく人はもちろんいていいのですが、専門分野で頑張る専門職の人にもっと処遇するような制度をつくってほしいと思っています。例えば、法務だけじゃなく人事系だとか財務だとか、技術系の方ですとか、そればかりずっとやっているのだけれども、ラインマネジャーじゃないけど処遇されるみたいなのがあるといいなと。
そんな中で、そういうことがきちんと定着していくと、企業内弁護士も増えていくかなと。今だとどうしても中途採用をせざるを得なくて、その人が定年までいてくれるかどうかは怪しいなと思いつつ採用しています。
【本間】 でも、そうなると逆に、上が滞留してしまうということになる。その辺については何か考えられているか。そこまでまだサイクルが回っていないというのもあるのでしょうが。
【吉田】 そうですね。あまり自分自身が1つの会社に長くいないので、定年までいろとか偉そうなことは言えないのですが、やはり処遇の問題もありますし、ポジションの問題もありますし、それぞれエージェントさんにおつきあいがあったりとかもしますので、わりと数年で動くというのが今多いかなと思っています。会社の中、日本の伝統的な会社を見た者としては、やはり長くいる人にはそれなりに強みがあるなと。人脈も豊富ですし、会社の文化もわかりますし、関連会社とのおつきあいもすごく深くなるので、できれば今後は1つの会社にずっといて、キャリアを積んで発展していけるような企業内弁護士のあり方があるといいなと思っています。
【本間】 牛島さんからは多分2つのポイントからコメントを期待できると思っています。1つは企業内弁護士はどうしてもジェネラル・カウンセルも含めて、転職するといっても見ている例というのは数が少ないわけで、逆に先生方のように外部弁護士だといろいろな企業を見ていると思いますので、そういう点から見て、いろいろな企業の法務部を見ながら、あるいは企業内弁護士を見ながら、どういうふうに彼らは発展させていくのだろうなというところで何かお考えがあるのかということと、それから、我々は中途採用を採るんだということを勝手に言っていますけれども、要するにそれって法律事務所で育ててね、良い人は取っていくからねって言っているのと一緒なので(笑)、その辺、取られるほうと――取られるって失礼ですけれども――その辺で現在の法律事務所にいる先生方で企業内弁護士に行く、行かないという、その辺の判断の中でどういう人が動かれているのかなみたいな、あるいはどういう人が抜かれるのかなみたいなところで何かお考えなり感想があれば。
【牛島】 なかなか微妙な、生々しいご質問ですけれども(笑)、一つ目の問題というのは、私は今の日本企業を見ている限りは、ジェネラル・カウンセルというのは本当にまさに発展途上というか、発展を始めたところだという印象を持っていますから、まだまだこれからであって、という気がします。社内におけるジェネラル・カウンセルの地位も、外資系の子会社でのジェネラル・カウンセル、これはもう当然確立したポジションで、デュアル・レポーティングということも先程来出ていますから、全く別だと思いますけれども、国内の伝統的な企業で、法務部があって、そこのトップの方がジェネラル・カウンセルになるのかということは後ほど議論が出るそうですけど、それは資格ともかかわって、これからのことだなと。私は、むしろそこには日本的な発展というのもあり得るかなという気もしているということをちょっと申しまして、これ以上は申しませんが。
それから、ジェネラル・カウンセルに引っ張られてしまう方、あるいはこちらとすれば法務部の方ですばらしい方を採用させていただくという視点から申せば、現在の一般的傾向としては、やはり法律事務所でパートナーになるかどうかというのが、要は共同経営者になるかどうかというのが一つの境目です。ですから、パートナーになるというところで、だったらもう私はパートナーにならない、ジェネラル・カウンセルになるという、あるいはジェネラル・カウンセルの候補として企業に入りたいという方々が増えることは大いに結構なことだと思います。事務所経営としてもですね。
反面、ジェネラル・カウンセル、あるいはすばらしい社内法務で実績あるいは能力をお持ちの方がパートナーとして法律事務所に入るということも、これも当然、起きるべきことだろうなという気がしています。そういう意味では、オーバーラップしてくるのかなという気がします。ただ、ジェネラル・カウンセルというのは、私は法律事務所でのパートナーよりももっとビジネスにウエートがある職業だと思っていますから、双方通行かどうかということは、今後、日本のローファームがそこまで発展していきますかというクエスチョンと重なってくると思います。
【本間】 ありがとうございます。
さて、ずっと人の話をしてきたのですが、人、物、金で、金の話をちょっとしようかなと。金というと結局、法務部門の金の使い方、予算の使い道というのは90何%が人件費と弁護士費用だと思いますので、特に弁護士費用の、また、牛島さんの前で申しわけないのですが、弁護士費用をどうやってコントロールされているのか。例えば、法務予算の中で弁護士費用を見ているのか、あるいは外で見ているのか。事業部で、例えば、プロジェクトごとに利益と経費のバランスという観点から見ているのか。
この点、三つのレベルがあるように思っておりまして、弁護士費用の負担ということについては、一定程度の予算を法務部門で持つとともに、プロジェクトごとにそのプロジェクトで負担する、そういうことが一般的には多いのではないでしょうか。これは、外資系でも同じような感じではないかと思います。大きな訴訟が起こされるとか、大きな何かM&Aをするとか、それを事前に予測することはやはり難しいことも多いので、どうしてもそういうことになるのではないかなと思っています。それとは違う次元で、そもそも受益者負担を徹底していくのか、そうではなくて法務部門に会社の中のリーガル・フィー的なコストをすべて予算として持たせてコントロールさせるのか、どちらを目指すかというのは両方の考えがあるかもしれません。最後に、どの事務所を選任し、それについてのリーガル・フィーのチェックはどうするかということについては、ある種のポリシーとして、法務部門が行う、そういう感じでしょうか。
【吉田】 弁護士報酬の管理については、過去にはないですけれども、仮にあったら、大きな訴訟とかM&Aとか、ある程度予定がつくものについては別予算で別に組みます。それ以外に年間で大体オペレーションとして弁護士報酬はこのぐらいではないかという予算は年間で法務部で持っています。それは大体いつも毎年、結構自分としては大きめの予算をもらっておいて、期末に一生懸命余らせてお返ししているのですけれども、毎年、こんなに余るのなら要らないでしょうというバトルを繰り広げながら、ある程度持っていないと。事業部門から頼まれたことで、特定の事業部門が相談の対象になるようなときでも、法務で全部管理しています。どの先生に頼むとか、どのぐらいの予算が使われるかというのは法務でやっています。当然、先生方から請求書、見積書をもらったりとか、請求書が来てタイムチャージがついていたり、数字が納得感なければ交渉させていただいたりということはあります。
事業部門にチャージをするということはほぼないです。それをやると予算がかかるなら頼まなくていいですとか言う人がいたり、もっと安い先生知ってますとか言う人が必ず出てくるので、そういうことで適切なリーガルアドバイスが受けられないと困るので、それはこちらの予算でやりますからということで、頼む頼まない、どなたに頼む、どのぐらいの予算を使うということも含めて法務でやらせてもらっています。
【本間】 「代表なければ租税なし」と言うけれども、「租税あるところに代表あり」ですからね。(笑)
三村さん、同じ質問。
【三村】 多分、外部の弁護士報酬をどこが持つかというのは、本当に会社の法務に対するカルチャーの成長度合いというか、そのようなことに基づくのだろうなと思っています。今、私のところの会社では、外部のリーガル・フィーは法務で持っているのですけれども、ちょうどまさにビジネスに持たせようというふうに議論をしているところです。ビジネスに持たせると、さきほど吉田さんがおっしゃったような、それなら頼まなくていいです、という問題が出てくる場合もある反面、法務が持てば、どんどん外部に頼んでよみたいな、法務で外に頼んで全部やってよみたいなモラルハザードも起きるので、どちらに予算を持たせるほうがいいのかというのは、本当にかなり大きな議論になっています。
それとともに、弁護士報酬は計画が立てきれない場面があります。例えば、弊社では昨年大きな訴訟が起きたのですが、訴訟を受けるときは、突然来ることがあり、日本のビジネスでは持ちきれないぐらいの予算を取らなければいけなくなってきます。そのような場合は特別なお財布をつくってもらって、グローバルにチャージできるようにするとか、どこにどう持ってもらうかというのは本当に難しい問題で、個別にグローバルのファイナンス部門と調整しながら決めていかなければなりません。
ただ、リーガル・フィーの管理は、皆さんがおっしゃったとおり、私たちのところできちんと見ていますし、結構細かく見ています。費用のほうも結構細かく見ていて、例えば、コピー代が1枚40円とか、いや、今の時代それはないですよねとネゴをしたりとか、いろいろそこら辺は細かく見たりしています。
【本間】 まだコピー代を請求してくるような事務所があるんですか。
【三村】 ありますね。
【本間】 信じられない。私は1銭も払いません、コピー代は。
さて、管理部門の長としてのいろいろな課題というのはあるのですが、その次に、プロフェッションとしてのジェネラル・カウンセルを議論しようと思っているのですが、その前に、その橋渡しとして、多分聞いていらっしゃる方は、経営者として、あるいはビジネスに入っていくんだとか、部門の管理者だとか聞いていて、これ、弁護士の仕事なのと思っていらっしゃる方もいるのではないかなと思うのですが、まずそれとの関係で、皆さんの現状ですけれども、いわゆる法律実務ですね。例えば、法律調査だとか、契約書の作成とかレビューとか、皆さんどこまでやっています? できています? やりません? その辺の感覚を、皆さんの現状を一言ずつお願いできますか。三村さん。
【三村】 私が契約のプロセスに入って見るのは、大型M&A案件ぐらいです。
【吉田】 私もみずから法律家であると自覚できるような仕事をするのはすごく少なくて、取締役、役員クラスが直接関与して意見を聞くような案件のものについてですね。契約書に限らずです。
【本間】 さて、最後のというか、話題として一番最後のというか、深いというか、難しいというか、よく出る質問で、ジェネラル・カウンセルの意義なり役割はわかりましたと。弁護士がやる必要があるのですかという質問というのが出てくるのですけれども、この辺になるとそれぞれの信仰告白になると思うのですが、それぞれ皆さんからご自分の信仰を告白していただければと思うのですが、三村さんからお願いできますか。
【三村】 弁護士というのは基本的に法律の解釈の仕方を学んできた専門家であり、会社の中の法務ヘッドも、基本的には司法試験は通るぐらいの法律知識は持っていなければいけないなと思うので、弁護士であることが望ましいと思います。
弁護士でありながら会社に入って、会社に入るとどうしても会社組織の決定に従わなければいけないという部分があるので、それが弁護士としての良心とか正義とか、そういう弁護士法に書かれているような弁護士の姿と反するのではないかとお考えになる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は2005年にインハウスになったときに自分の中で決めていたことが一つあります。それは、会社が決めた方針が私の良心や正義感に反した場合、私はいつでも会社を辞める覚悟を持つということで、いまだにずっと思い続けています。しかし、12,3年ぐらいインハウス・カウンセルをやっていますが、いまだに元気で会社の中にいます。会社の意思決定は、組織として合理的になされますので、現実には会社の最終的な意思決定が自分の良心や正義感に反するというようなことはめったにありません。けれども、それぐらいの覚悟は持ってやっているし、それはやはり弁護士として教育を受けて、経験を積んできたことから出てきていることかなと思っています。
【吉田】 私もジェネラル・カウンセルというポジションは弁護士であるべきだろうと思っています。正直、弁護士でないとできないことというのは、例えば、法廷に行くとかぐらいな話なんですけれども、実際、法廷に行くことがあるかっていうと、会社に入ってから法廷に立ったことは実はないです。いつも外の先生にお願いするようにしています。また、優秀な法務部長さんは確かにたくさんいて、私も、資格はないですけど弁護士さん以上に知識や見識の高い方というのをたくさん存じ上げております。では、何故、ジェネラル・カウンセルが弁護士でないといけないと思うかというと、自分が弁護士になって、最初に社会に出たときに弁護士になったわけですが、パートナーから言われた言葉があって、それは1年生だからといってトップのパートナーと同じ立場なのだから、弁護士を名乗る以上、「パートナーが言ったからそのとおりにやりました」では済まない、一人一人きちんと責任を自覚しないといけないのだ、というようなことを初日に言われまして、そういう覚悟で仕事をしなさいよということをずっと言われまして、数年、法律事務所で仕事をしましたが、いつだってパートナーと同じ責任をとる覚悟を意識しながら仕事をする意識をもつようになりました。一定の経験を持った弁護士ではなく、会社にいきなり入ると、どうしてもサラリーマンなので、会社の組織に染まらないといけなくて、染まっていって、上命下達があったり、おかしいなと思ってもなかなか辞めてやるとも言えなくて、長いものには巻かれる文化になっていって、見ないふりをしてしまったりとか、見ざる・言わざる・聞かざるになったりということが起こりやすいかなと思っています。
ですので、何かあったときに、それはコンプライアンス上、問題があると思ったら、黙っていると弁護士倫理に反すると思ったら声を上げる覚悟と勇気も持てますし、それがやはり経験のある弁護士の強みなのだろうなと思います。幸いあまりそんなに伝家の宝刀を抜くようなことは私は過去にはなかったですが、いつでもそういうことが起こり得ると。また、弁護士である強みって、辞めたって次の仕事は見つかるさ、みたいなのもありまして、そこがやはり資格を持っている強みかなと思っています。
【本間】 牛島さん、外部から見ていかがですか。
【牛島】 アメリカの常識で考えると、皆さんご存知のように法律専門家は弁護士以外まずいません。ですから、弁護士以外かどうかというクエスチョンがそもそも出てきようがない。そうすると、弁護士がどうかっていうことになって、でも、日本では、優秀な方は多々、伝統的にいらっしゃいますから、弁護士である必然性は何かなって考えますと、先ほど出ました、資格の強みで次の職が探しやすいから、辞めますと言いやすいという俗な、俗なじゃないか、大事な話。
それから、もう一つは、やはり弁護士会による、あるいは弁護士としての職業集団の自律・規律だと思うのです。私は職業集団としての自律というのがジェネラル・カウンセルにどのように影響しているかということについてはまだ漠然としていますので、そういう意味では私は弁護士であるということが日本で必然的かということについては、これも発展途上の一つかなと思っています。
【本間】 ありがとうございます。
本来はもう少しパネルディスカッションを続けながらと思っていたのですが、あにはからんやというか、非常に大量の質問をいただいていまして、中には、これ、私の司会の中でカバーしようかなという質問も含めて、非常に含蓄が深いものもありましたので、若干予定を早めて、今から質問に行きたいと思います。
まず、そもそもジェネラル・カウンセルって何なんだっていうことと絡むのですけれども、こういう質問が来ております。
「我が国における法曹資格を持っている社外弁護士は、法的問題についての判断だけでなく、法的問題を含まない経営判断を求められることが少なくない。この傾向が強くなれば、その弁護士はジェネラル・カウンセルの範疇に入ってくるのか」ということなのですが、これ、若干前に触れたことではありますが、改めて、ジェネラル・カウンセルって何なのかということでもあるのですが、牛島さんにこれについてのコメントをいただけますか。
【質問者】 ちょっといいですか。僕が質問者なので。
【本間】 あ、どうぞ。
【質問者】 先ほど牛島さんからお話の中で、大分それに触れたようなお話がありましたので、ちょっと関連という意味で。
今、弁護士資格を持っている人がかなり社外取締役に任命されているのですね。もちろん、そういう会社を株主総会の招集のときに見ますと、この人を取締役に推薦する理由は、弁護士としての経験が非常に豊富で識見があるという紹介文が必ず入っているのですね。ところが、一般には法律的な素養だけではなくて、それを除いたところで普通の人の取締役としての判断能力も求められているというのが実態だと思うのですよ。取締役会でのいろいろな議案が付議されますね。そうした場合に……。
そうしますと、弁護士である取締役は、会社の実態をある程度知らないと適切に取締役会の付議議案を判断できないということで、やはり実態を知ろうとするんですね。そうすると、今、先生方がおっしゃるように、会社の実態を知っておられるジェネラル・カウンセルの方と、役員会の一角を担う弁護士の立場が非常に近接してくるのではないかと。先ほど牛島さんがおっしゃいましたけれども、そういうことで流動性というか、それがどうなるのかなと。それから定義としてどうなるのかなという疑問があります。以上です。
【本間】 弁護士が社外役員になることの資質云々というと、今日のテーマに離れてしまいますので、ジェネラル・カウンセルということに絞って、要するに社外弁護士がジェネラル・カウンセルという機能を果たすことができるのか、あるいはその範疇として理解ができるのかに絞ってお答えいただければと思います。
【牛島】 わかりました。私は、社外取締役であるという観点から申しますと、ジェネラル・カウンセルのいらっしゃる企業であれば、弁護士出身であろうとなかろうと、とても社外取締役の実効性が上がると思います。それはジェネラル・カウンセルで法曹資格者であるかどうかということは全く別に、法務の観点からです。社外取締役が会社の実態を知ろうとするときに一体誰に聞いたらいいのか。CFOが当然一人の候補だろうと思いますけれども、ジェネラル・カウンセルが大きなものになるのではないかなという気がしています。
【本間】 ありがとうございます。
同じ質問について、三村さん、お答えいただけますか。ジェネラル・カウンセルってそもそも何なのかというところと絡んでくるので、おそらくいろいろな会社の事情に詳しいという以上に、社内にジェネラル・カウンセルがいるということの意味なり独自性なりがあるのかないのか、そういうことだと思いますけれども。
【三村】 若干違う観点で、要するに、ジェネラル・カウンセルと外部取締役は、私は違う役割を果たしているのではないかと思っています。ジェネラル・カウンセルとしての私はもちろん株主に対する責任もあり、数字を出していかなければいけないという、本当にビジネスのサイドから法務を見ていますが、おそらく社外取締役はきちんとガバナンスをもって企業の経営ができているかという観点から見ておられるものと思います。ビジネスが機能しているかという観点から見るのと、ガバナンスが機能しているかという観点から見ることは、役割が若干違うのかなと考えています。
【本間】 もう一つの質問。これは非常にユニークというか、逆に深刻な質問かと思うのですけれども、読ませていただきますと、「現在、社内でジェネラル・カウンセルの設置を検討中です。日本が本社の企業にとって欧米でローカル子会社の法務、コンプラ担当責任者に関する採用強化と各種権限を有する本来のジェネラル・カウンセルとは異なり、このような権限がない前提でのジェネラル・カウンセル設置をした場合のメリット、デメリットについてお伺いしたい。」
要するに、中身は伴わないけれど、「ジェネラル・カウンセル」という「名前」のポジションを置くことにメリットがあるかどうかという、そういう質問だと思うのですが、いかがでしょう。どなたか。
【三村】 なかなか難しいご質問かなと思いますが、もちろん実質が伴っているのがベターというかベストなのでしょう。しかし、形から入るということもないわけではないかもしれず、人を得ることができれば、ひょっとしたら化けるかもしれません。人を得ることができれば、その人が権限を取りにいくこともできます。そういうことは我々もやっているわけですね。今ある権限というのはもちろんありますが、こういう権限は法務が持つべきではないかというようなことはやはりありますので、それは、社内ポリティクスも含めていろいろ頑張りにいくわけです。会社も大きな組織になると、積極的に権限を取りにいこうと思ったら結構取れたりするわけですね。そういうことをでき、かつやる気がある人であれば、一つポジションが増えるならいいのではないかみたいな、そのような印象を受けました。
【本間】 ありがとうございます。質問の趣旨にずばり踏み込んだご回答だったというふうに思います。
似たような質問。「ジェネラル・カウンセルがない企業にジェネラル・カウンセル制度を導入しようとする際、既存の法務部組織とうまく融和させるには何が必要とお考えでしょうか。」
この辺、すみません、重なってしまうのですけど、三村さん、お答えください。まさにそういう苦労をされてきたと思いますので。
【三村】 内部から昇格させます、今の法務部に所属されている方を執行役員にしますという場合は、問題は起こらないような気がします。それは法務部にとって喜ぶべきことではないでしょうか。地位が上がるわけですから。あまり問題は浮かびません。一方、外から採用したいというのもよくあるパターンかもしれません。経営陣が現状の法務に満足していないために外から採ってきましたというようなときには、反発はあるかもしれないですね。そのときに、私が重要だと思っているのは、会社の中の人々というのはやはり組織人ですので、そういう難しそうな局面では権限を明確にするということ、つまり法務部をコントロールできるだけの権限を与えるということが重要になってくるかと思います。それからもう一つは、やはり権威というのも、重要だと思っております。それなりに弁護士経験がある人が言ったら、経営陣も法務部もそこそこ、言うことを聞いてくれたりするわけですね。人を動かす上で権限と権威は非常に重要で、権威の究極は実績だと思っています。ただ場合によっては、戦術的と言われるかもしれませんが、そのうち実績ができるという前提でそれをまだ証明できない段階であっても、ある種の権威というのは、現実問題としては結構重要だと思っております。
【本間】 ありがとうございます。
同じ質問を吉田さん。吉田さんは、自分がジェネラル・カウンセルかどうかっていうのはよくわからないと謙遜されておられたのですけれども、まさに既存のというか、従来型の法務部がある中で自分の地位を固められていったということでは、さらにこの質問にかなりフィットした経験をお持ちかなと思いますけれども。
【吉田】 私が入る前の法務部って、ごく普通の法務部で、もちろん法務部長もいたわけなんですが、入って何をしたかというと、実は何をしてほしいっていうのは、誰からも何の指示もなく、いろいろ会社を見て、必要と思うことをやってくださいと漠然と言われただけでした。それでも、いろいろな会議にメンバーとして呼ばれるので、あとはいろいろな部門を回っていろいろ話を聞くと、確かにいろいろなものが必要であると見えてきます。あまり細かくは言えませんが、端から企画を作って提案したり、トレーニングコースを作成したり、あとは必要な社内規定がないとか、規定があるけど不十分な場合には整備したり、判断するために役立つツールを端から作りましょうみたいなことをやりました。私が何か思いつくたびにうちの部門の人たちは、「また何か始めるのですか」みたくなるのですけど、やっていくと、法務ってそんなこともするのだという意識が芽生え、私が入って結構すぐ始めたので、皆さん、新しい人ってどんな人だろうとずっと見ているわけで、そうするとおもしろいことを始めたんじゃないというのがわりと広まるのも早くて、そういうのだったらちょっと手伝ってあげようかなみたいな人も増えて、何となく味方をしてくれる人も増えて、気づいたらたくさんの人に支えられて、それなりに短期間でいろいろなことができたのです。それなので、結構やるんじゃないっていうふうに思っていただけたかなと思っていて、何がよかったかっていうと、多分、何をしろと言われたわけでもなく、何の権限をいただけたわけでもない中で、走り回り、あちこちにお節介をして、いろいろなことを提案して、結構新しい、おもしろいかもっていうところが社内の興味を引いたところかなと思っています。
【本間】 ありがとうございます。
次の質問ですけれども、これもやはりジェネラル・カウンセルとは何か、どういうキャリアなのかというところで、常にやはり皆さんご関心があるようなところなのですが、「日本企業でジェネラル・カウンセルを導入している企業では、法律事務所で一定の経験を積んでからジェネラル・カウンセルとして就任する方が多いように思います。社内の法律問題に目を光らせるという点では長く社内にいるインハウスがだんだんステップアップしていくのが望ましいのかと思いますが、その点についてご意見があれば、ご教示ください。」
意見を求められているわけですが、三村さん、お願いできますか。
【三村】 若干前の質問と重複する部分があると思いますが、今の日本では、一定の経験を法律事務所で積んだ、シニアな弁護士を雇える企業というのは本当に数少ないと思っています。数年前までは、私も何年か法律事務所で経験を積んでから企業に行ったほうがいいのではないかという考え方を持っていました。しかし、最近は、1年目から企業に入る人がものすごく増えてきて、最近見解が変わってきました。というのも、今や1年目から企業に入っている人たちがすごく頑張っておられて、2年目、3年目、4年目ぐらいになってきて、法律事務所で経験を積むようなことを自分で一生懸命勉強して学んでいる人たちが増えてきているのを見ているからではないかと思っています。
したがって、ストレートに答えれば、これからは企業内でどんどん経験を積んでいってジェネラル・カウンセルになっていくという人は増えてくるのではないかと思うし、そういう道があっていいのではないかというふうに考えています。
【本間】 私はどちらかというと、プラクティス、法律事務所の経験をしておいてほしいなという派ですね。これはなかなか説明するのが難しくて、確かに今、三村さんがおっしゃったようなことも、人数も増えてきて起こっているのだろうと、そして、生え抜きの企業内弁護士の中からジェネラル・カウンセルになるに十分な資質を備えた人も出てきて、ジェネラル・カウンセルになっていくのは間違いないだろうと私も思いますけれども、今いまを考えたときに、先ほどどなたかがおっしゃっていた、組織人として最初から組織人であるという点のチャレンジがあるのに対し、プラクティスをした人は、自分の名前でクライアントを背負って仕事をする経験というものを持っている。私自身は自分が仕事をしている中でそういう経験があったことが、これはもう非常に説明するのが難しいのですが、役に立っていると思うところもあって、それで法律事務所の経験をしておいてほしいなと思ったりしています。
さて、これも私もロースクール等々に行くと必ず聞かれる質問ですけれども、非常に重大なことなので、牛島さんからも一言いただければと思います。
【牛島】 私は実は本間さんと大体同じような考えを持って参加していたのですが、でも、今、三村さんの言われたことを伺って、これが例えば、私が考えているジェネラル・カウンセルの日本的発展形態ではないかと。日本も、これはガバナンスの話をするなって止めてくださいね。あんまりするつもりないから。日本の経営が内部出身取締役ででき上がっているということと相似形として、日本の法務部もこれだけ社内弁護士が増えていますから、ジェネラル・カウンセルは当然内部からも候補にすべきではないかという時代になるのかなという意味では、非常にバラエティーのある未来があり得るのではないかという期待感を持ちます。楽観的です。
【本間】 ありがとうございます。
もう一つ、これもジェネラル・カウンセルの深淵に飛び込む質問なのですが、「海外子会社との関係で、海外弁護士資格を持たず、日本の弁護士資格を持っている人のジェネラル・カウンセルの適格性や意義は」という質問で、要するに海外法令や訴訟実務を知らない弁護士でも務まるのかという質問だと思います。これ、全く逆の条件も当てはまるわけでございまして、例えばラリー・ベイツさんであるとか、それからリクルートのマーク・シュルツさんであるとか、HOYAのオーガスティン・リーさんであるとか、トヨタ自動車のクリストファー・レイノルズさんであるとか、非常にシニアなアメリカの資格者が活躍している。これ、実は海外でも似たようなことがございまして、フランスの主要企業のジェネラル・カウンセルの多くが非フランス法曹資格者だというようなこともありまして、まさに弁護士であることの意義、あるいは日本の弁護士であることの意義がジェネラル・カウンセル、さらに広く言えば企業内弁護士としてどこまで意義があるのだろうということで非常に、まさに深淵を突いた質問なのですが、それだけに答えにくいと思いますけれども、三村さん、お願いできますか。
【三村】 これもまた、海外資格の人が日本でジェネラル・カウンセルをやる場合と、我々日本の法律を学んできた人がジェネラル・カウンセルをやる場合で、役割が少し違うと思います。私の日本人の友人で、もともと日本にある会社の法務にいたけれど、その会社のシンガポール支社でジェネラル・カウンセルをやり、アジア諸国を担当している人がいます。その人は、業務を行う際に、法律問題については、現地の法律事務所に相談して行っています。つまり、自分は個々の国の法律の中身はわからないから、法律事務所から見解をもらって、そのアドバイスを咀嚼して、ジェネラル・カウンセルとしての意思決定を行うということをやっています。私たちがGEにいたときも、ラリー・ベイツさんは、日本の法律については私たちに聞いたり、外部弁護士の意見を聞いたりして、しかし最終的にはご自身で判断して、意思決定をされていたわけですが、同様に、海外資格者の方も、日本の法律の専門家に相談して、会社に即した法的判断を行うことはできますから、少し役割は違うけれども、最終的には同じ役割を果たすことはできると思っています。
【本間】 ありがとうございます。
これ、特に牛島さんご指名の質問なので、ぜひお答えいただきたいのですが、「なぜ会社の中のジェネラル・カウンセルがCFOほど実権を持たないのか。牛島さんがCFOとジェネラル・カウンセルを比較すると、会社における地位はCFOが上になることが多いとおっしゃったけれども、日本は世界中でも司法の信用が高い国なので、そういう国でもジェネラル・カウンセルの地位がCFOほどにならないというような理由はなぜだと思いますか」ということですけれども。
【牛島】 現時点までにおいて、それは会社がお金を儲けるためにある組織だからです。ですから、会社がお金を儲けているという財務情報を扱っているCFOのほうがずっと優越的な地位にある。ただし、これは非財務情報が重要になりつつある現在および将来において同じことが続くかどうかは別だと思います。
【本間】 ありがとうございます。端的なご回答ありがとうございました。
次に、「単に法的なアドバイスをしておしまいというのではなく、実践させるところまで責任を負うという点にプレッシャーを感じることはありますか。違法なことやグレーなことを止められなかったり、よりリスクの少ない枠組に変更してもらえないとき、そのプレッシャーをどのように克服していますか」という質問ですが、そんな経験はないという3人のお答えでよろしゅうございますか。
【三村】 そういうプレッシャーを楽しみにできる人がジェネラル・カウンセルになるのかなって思います。
【本間】 だそうです。
それから、「当社は法務部の人員も少なく、法務部のプレゼンスは低い状況にあります。経営陣や従業員に法務業務の重要性を認識してもらうためには、日々の業務活動においてサービスの質を高めて信頼を積み上げていくことのほかに何か有効な方法はあるのでしょうか。具体的な経験や事例があれば、ご教示ください。」
かなりこれ、実務的な深刻な悩みだなと思うので、きちんと正面から可能であればお答えをいただければと思います。吉田さん、お願いできますか。
【吉田】 法務部のプレゼンスを上げていくというのは、実は私もすごく頑張っているというか、苦労している点です。法務のマーケティング活動と私は呼んでいますけれども、まず頼まれたことを一生懸命やるのは当然で、信頼をだんだん高めていくのは当然なのですが、待ち受けでやっていると結局来る人しかその経験はしないので、来ない人は来ないです。なので、こちらから能動的に行くというのがとても大切かなと思っていて、一番最初にいろいろ始めた中であるのはニュースレターですね。会社でビジネス上とっても気になることがこの1か月、2か月で発表されていたり、判決が出たり、法令が変わったりというのを、難しく書くのではなくて、読めば誰でもわかるように、うちのビジネスにはこういう関係があるのねっていうのを記事にして毎月出すようにしました。あとは社内報が3か月に一遍出るのですけれども、それに見開き2ページ何とか確保しまして、2ページしかないので大した内容は書けないながら、片ページは全部イラストで使っています。法律ワンポイントを半ページに書いて、もう片方には、その絵を見ると、大体エッセンスがわかるように、難しくなく身近に、でもお役立ち情報を届けるみたいな活動をやったりしています。あとは、頼まれなくても、こういうプレゼンしたらいいのではないかなと思うプレゼンをつくり、やらせてくださいと言って回ったり。そういうのにつき合うのは面倒くさいと思う人にも聞いてもらって、そういう関心の薄い層から、「結構おもしろかったね」との感想をいただいたりします。当然ですけど、かなり準備して頑張ってプレゼンするわけですが、文字ばかりのピッチではなくて、カットが入っていたり、アニメーション効果を入れたりと工夫しながら、ビジュアルにも気をつけて作ったりしています。
【本間】 私からも重要なことなので一言だけコメントさせてください。
かなり形而下的な話ですけれども、サービスの質を高めるというのは一体どういうことかということをぜひ考えていただきたいと思います。これは精密な法律の議論をするとか精密な調査をするということが、我々の実務において必ずしもそれがサービスの質が高まったと受け取ってもらえるのかどうかということであります。吉田さんがちょっとおっしゃいましたけれども、わかってもらわないとしようがないので、それがわかってもらえるかどうか。私も気をつけていますし、部下にも指導しているのですけど、可能な限り法律用語を使うなと。例えば、「こういうことをすると債務不履行責任が生じ、相当因果関係の範囲で損害賠償責任を負います」とかって、素人がわかるわけがないのですよ。「こういうことが起きたら大体幾ら幾らの金を払わなければいけません」って言うべきなんですね。そうすればわかるわけです。それが意外につまらないことですけれども、わかってもらえるということは、ああ、役に立つんだなということになります。
ただ、申し上げなければいけないのは、法律用語というのは意味があって法律用語ですので、法律用語を使わないということは法律的には精密さを捨てるということになります。要するに、精密さを失うというリスクをとって、枝葉を切り落として幹だけを書く。これは実は法律家としての極めて高い能力が要求されます。
重要な問題なので一言わせていただきました。
さて、あと、若干今日の目的と離れてしまうかもしれないのですが、似たような質問がいっぱいありますので、やはり一言ずつ触れたいなと思います。要するに、一言で言いますと、「外部事務所を使う場合と社内で対応する場合の基準について、役割分担について気をつけておられること、留意点というのはどういうことがありますか」ということです。では、三村さんからお願いできますか。
【三村】 外部法律事務所にお願いをするのは2通りです。一つは、自分の専門知識では処理できない、要するにとても専門性の高い仕事のときには、外部の専門性の高い頼りになる法律事務所にお願いをします。もう一つは社内でリソースが足りないときです。法律事務所でエキスパティーズを持っておられる方々に、社内のリソースの一部を肩がわりしていただくという、大体その二つかなというふうに思います。
【本間】 吉田さん、同じ質問です。
【吉田】 今の二つは私もお願いするパターンです。もう一つあるのは、セカンドオピニオンをいただきたいときです。会社で重要なことを決めるときに、私はこう思うと。当然それは表明するわけですが、取締役会等の決議で善管注意義務が問われたらというのをやはりみんな気にするので、外の専門家の先生も同じ意見ですっていうのがあるとより安心というか、善管注意義務違反を恐れずにゴーと言えるかなというところです。あと、海外のことは当然、外の人に頼みます。
【本間】 ありがとうございます。
牛島さん、依頼を受ける立場で、こんなの社内でやれよみたいに思われるところはないですか。
【牛島】 いや、そんなこと思ったことは一度もないです。そんなこと思ったことは一度もないですが、できるだけ社内でやっていただけることについては、これは処理していただいた方がいいのではないですかということは申しますし、そのためにこうこう、こういうものをお読みになればという初歩の方であればそういうこともお話しします。私どももリソースは限られていますから。
【本間】 あるいは逆に、やれないのにやり過ぎて、「ここだけ聞かれても……」みたいなご経験はあります?
つまり、例えばある法律問題について調査をしますと。いろいろな問題がある中で、ここまで調べましたと。あとここだけ教えてくださいという、その「ここだけ」という指定が間違っている。
【牛島】 それは時々あります。それは社内でいろいろお調べになって、大変熱心にお調べになっていても、あるところの分岐点で間違った方向に行ってしまっていて、もうそれから先は全く無駄なのになということで、まず戻ることと、戻ったらあとどんな見通しがあるかということ、で、これから先はご自分でおやりになりますか、私どもが致しますかということを伺います。
【本間】 ありがとうございます。
話は尽きないのですけれども、時間の関係もございますので、最後に各パネリストから一言だけ今日の感想というか、何かぜひ最後に一言言っておきたいということを1人2、3分でできたらお願いしたいと思いますが、三村さんから何かありますか。
【三村】 本日はどうもありがとうございました。私たちが好き勝手にしゃべっていることを静かに聞いていただいていて、大変しんどかったのではないかと思います。ただ、ここに集まっていただいた方の中には、インハウスでない先生方も大勢いらっしゃると思うのですが、ぜひインハウスにご興味をお持ちいただけたら幸いです。特に私は医療の業界にいるのですが、私は「医療業界に法の支配を」をモットーにずっと仕事をしております。業界に弁護士の数が増えてくるということがその理想に近づくことだと思っていますので、先生方でご興味を持たれた方は、ぜひ医療業界の組織にお入りいただけると嬉しいと思います。
【本間】 では、吉田さん。
【吉田】 取りとめもない話を聞いていただいて、ありがとうございます。私が初めて会社に入った頃って社内弁護士は20人ぐらいだったのです。それが今もう約2,000人ということです。それはすごいことですね。若い人がどんどん会社に入っておられるっていう、これもまたすごいことで、昔、私が入ったころって、「何で会社に?」みたいなことをよく弁護士さんたちから言われまして、「せっかく司法試験通ったのに何でサラリーマンになるの?」みたいなことを言われたのですが、今は大分変わってきていて、世の中的には働き方変革なんていうようなものもあって、多様性というのもあって、弁護士もあり方はいろいろ多様化していくだろうなと思っていまして、社内弁護士もなかなかいいものでありまして、これからジェネラル・カウンセルという名前がついていようとついていまいと、社内で活躍される弁護士さんはもっと増えていくだろうなと思っています。そういうときに何か一緒に仕事ができればなと思っています。どうもありがとうございました。
【本間】 牛島さん、お願いします。
【牛島】 私、今日は大変勉強になりました。ありがとうございました。ご出席の方と、それから、聞いていただいた方、大変ありがとうございました。お礼申し上げたいと思います。私は若干小説家的な面も含めまして夢を語りたいと思います。もちろん社内弁護士が皆さんジェネラル・カウンセルになるわけでは当然ないわけで、それぞれの人生がある。しかし、私の夢の部分は、ジェネラル・カウンセルになっているとCEOになるという、そういう時代になるということが私の夢でございます。それは先ほどCFOとの対比を聞いていただきました。私は会社というものは金儲けをする組織であるということからいくと、CFOが強いということに一定の必然性は現時点であると思っています。しかし、もはや世界中、会社が金を儲けるのはそんな単純な話ではなくなったと思います。したがって、私は、時代はジェネラル・カウンセルの側にあると。
もう一つは、先ほど、特に三村さんに教えていただいたなと思っているのですが、日本という特殊性です。この特殊性という言い方でいいのかどうかわかりませんが、日本の企業にとってどうかという観点から申せば、私は日本の企業がジェネラル・カウンセルという方は随分いろいろなことで面倒見てくれる方だね、恩をいろいろ売られたけどありがたかったなということになると、それはCEOにならない理由がないのではないかというのが私の夢でございます。
【本間】 ありがとうございます。
パネリストの方々に温かい拍手をお願いいたします。(拍手)