ISS、新型コロナウイルス感染症を踏まえた議決権行使基準の対応を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 松 田 貴 男
2020年5月11日、ISS(Institutional Shareholder Services)は、「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」を公表した。その概要は以下の通りである。
項目 | 概要 |
1.適用対象 | 2020年6月1日以降に開催される株主総会 |
2.ROE基準の適用猶予 |
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3.継続会[1]への対応 | |
⑴ 剰余金処分 |
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⑵ 取締役・監査役選任 |
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⑶ 会計監査人選任 |
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⑷ 報酬 |
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⑸ その他の議案 |
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4.企業の株式事務担当者へのお願い |
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今般ISSが公表した議決権行使基準の対応のうちの多くは、株主総会を継続会で行う場合の議案に関するものである。
この背景として、新型コロナウイルス感染症の影響により3月期決算業務と監査業務に大きな遅延が生じる可能性が高まっていることを踏まえて、2020年4月15日、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会[4]が、3月決算企業の株主総会に関して要旨、以下のような継続会とすることも考えられる旨を公表したことが挙げられる[5]。
- ① 当初予定した時期に定時株主総会を開催し取締役の選任等を決議するとともに、続行(会社法317条)の決議を行い、計算書類、監査報告等については継続会において提供する旨を説明
- ② 決算業務、監査業務の完了後、計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催
- ③ 継続会において計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす
今般のISSの議決権行使基準の対応は、上記のような継続会を選択する会社の株主総会における、機関投資家による剰余金配当、取締役・監査役選任、報酬などの重要議案に関する議決権行使に大きな影響を与え得るものである。
とりわけ、継続会を選択する会社が、委任状勧誘を実施するなどの僅差の結果が予想される上記議案を上程する場合には、ISSが公表した方針の多くは棄権の投票推奨であって賛成の推奨ではないため、(棄権票は定足数には含められ、実際には反対と同様の効果となることを考えると)議案を上程する会社側にとっては、議案採決への悪影響が多少なりとも想定される。
したがって、継続会に関しては、上程議案の内容及び票読み次第ではあるが、今次公表されたISSの対応方針も踏まえた上でその採否を検討する必要がある。
以 上
[1] ここで想定されている継続会は、事業報告、連結計算書類、計算書類、監査報告書を株主に提供することなく6月に株主総会を実施して議案を全て決議した後に、株主総会の続行を行い、当該続行された総会において、事業報告、連結計算書類、計算書類及び監査報告書の報告を行う方法での株主総会である。
[2] ISS公表資料の6頁には、機関投資家は、情報不足などの理由により、責任ある機関投資家として、責任ある判断は出来ないが、かといって反対することも不適切な場合に、「棄権」票の投票による議決権行使を行うことがあります、と記載されている。
[3] ISS公表資料の4頁脚注8には、監査役設置会社の社外取締役、監査等委員会設置会社の監査等委員を除く社外取締役、取締役会の過半数が独立している指名委員会等設置会社の社外取締役に対して、独立性がないことを理由に反対を推奨することはない、と記載されている。