外国弁護士による法律事務の取扱いに関する
特別措置法の一部を改正する法律の公布
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 智 弘
外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(以下「外弁法」という。)の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)が、2020年5月29日に公布された。今般の外弁法改正は、企業の国際取引の増加等に伴う外国法サービスのニーズの拡大や、国際仲裁の活性化に向けた基盤整備の必要性を背景になされた。
本稿では改正法の内容のうち、国際仲裁代理の範囲拡大・国際調停代理の規定整備について解説をする。
なお、外国法事務弁護士制度の概要は以下を参照されたい。
(法務省HP https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/001308756.pdfより)
1 国際仲裁代理の範囲拡大
企業間の国際的な紛争を解決する手段として、国際仲裁が世界的に利用されているが、日本国内での国際商事仲裁事件数は年間10~20件程度であり、国際仲裁の利用は低調な状況が続いてきた。しかし、このような状況が続けば日本企業の国際的な紛争解決力が高まらず、国際競争力を失うことになりかねないことから、日本政府は国際仲裁の活性化に向けた基盤整備のための取組を進める方針を打ち出した。
外弁法上、外国法事務弁護士は、国内において外国法(原資格国法等)に関する法律事務を行うことを職務とするのが原則とされているが、例外的に「国際仲裁事件」の手続については当該事件が外国法に関する事件であるか否かにかかわらず、その代理を行うことができるとされている(外弁法5条の3)。
改正前は、「国際仲裁事件」は「国内を仲裁地とする民事に関する仲裁事件であって、当事者の全部又は一部が外国に住所又は主たる事務所若しくは本店を有する者であるものをいう。」と定義されていた(外弁法2条11号)。この定義では、外国を仲裁地とする事件について国内で尋問等の手続を実施する場合や、当事者全部が国内に本店等を有する事件は、いずれも「国際仲裁事件」に当たらず、外国法事務弁護士が代理をすることができなかった。
しかし、仲裁法上は、仲裁地と仲裁実施地は必ずしも一致している必要はなく、実務上も、仲裁地を例えばシンガポールとしつつ、ヒアリング等の手続を他国で行うことも広く行われている。こうした実態を踏まえ、「国内を仲裁地とする」という要件は撤廃されることとなった。
また、日本に本店等を有する日本法人が仲裁当事者となっている場合でも、その親会社が外国企業である場合等については、類型的に子会社の意思決定に親会社である外国企業の意向が影響しており、かつ、こうした場合には証人等の関係者も当該外国に多く所在していることが多いと考えられることから、当事者が外国に住所等を有している場合に準じて、こうした類型を「国際仲裁事件」に含めることとされた。
さらに、実体的な権利義務・法律関係が渉外性を有する場合のうち、仲裁判断において適用される実体準拠法を外国法とすることに当事者が合意している場合を「国際仲裁事件」に含めることとされた。これに加えて、外国を仲裁地とする事件も、手続的な渉外性を有していることから「国際仲裁事件」と扱うこととされた。
こうした点を踏まえ、改正法では、「国際仲裁事件」の定義が以下の内容へと改正された(改正法2条11号)。
民事に関する仲裁事件であって、次のいずれかに該当するものをいう。
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2 国際調停代理の規定整備
外弁法上、外国法事務弁護士による調停事件の代理については仲裁手続に伴う和解の手続以外には規定が設けられておらず、外国法事務弁護士が調停事件の代理をすることはできないと解されていた。
この点、外弁法上、仲裁手続の代理が認められているのに、よりソフトな手続である調停手続の代理が認められていないのは合理性がない、国際調停の活性化は国際仲裁の活性化と並び国際潮流であるなどとして、外国法事務弁護士による国際調停代理を認めることとなった(改正法5条の3。「国際調停事件」の定義は改正法2条11号の2参照)。
3 おわりに
国際仲裁は、関連諸条約等により外国における強制執行が容易であること、原則として非公開であり企業秘密が守られること、専門的・中立的な仲裁人を当事者が選ぶことができること、司法の信頼性が低い国における裁判の利用を回避することができること等のメリットがあり、国際仲裁の重要性は世界的に高まっている。日本国内で国際仲裁により紛争の解決を図ることができるようになることは、日本企業にとってメリットは大きい。
アジア各国では官民連携しての国際仲裁の呼び込みが活発に行われており、国際的な紛争解決の場面における日本の存在感を高めるためには、今般の外弁法改正をはじめとしてハード・ソフト両面での環境を整備し、日本も諸外国に後れを取らないようにしなければならない。そして、日本企業としても、外国企業との契約における紛争解決方法として日本での仲裁手続を積極的に採用していくことの重要性が高まっていることに留意すべきであろう。
以上