金融庁、インサイダー取引規制関連の照会で「公開買付者等」などの解釈を示す
――ノーアクションレター制度、金商法167条1項関係で初めての回答――
金融庁は6月29日、インサイダー取引規制に係る法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度)による照会に対する回答を公表した。東京証券取引所における普通株式の上場会社(以下「対象会社」という)の株主である照会者が、照会者とは資本関係のない別の当事者(以下「相手方当事者」という)と協力し、対象会社の普通株式を共同で買い付けることを検討しているとして行った5月28日付の金融庁企画市場局市場課長宛の照会に対し、同課長名により6月26日付で回答したもので、金融商品取引法167条1項の「公開買付者等」などの解釈を示している。
公表された照会書によると、買付けの具体的な方法としては(A)(a) 相手方当事者が単独または照会者と共同で設立する特別目的会社をして対象会社の普通株式に係る公開買付けを実施すること、または (b) 相手方当事者自らが単独で対象会社の普通株式に係る公開買付けを実施すること(以下、総称して「本公開買付け」という)を想定しているほか、(B)照会者は相手方当事者との間で対象会社の普通株式の共同取得に係る計画の一環として、照会者が本公開買付け前に対象会社の普通株式を市場で取得すること(以下「本買付け」という)を合意(以下「本合意」という)し、本合意に基づき、本買付けを実行することも予定しているとされる。また、本照会は照会者が本買付けを行う時点において、本公開買付けについて「公開買付け等の実施に関する事実」(金商法167条2項)がすでに存在することを前提としている。
本照会は、金商法167条1項により「公開買付者等関係者」のインサイダー取引が原則として禁止されているところ、次の見解に基づき、照会者が「公開買付者等関係者」に該当せず、照会者による本合意に基づく本買付けは167条1項に違反しないことの確認を求めたものであった。(ア)「共同して買い集める者」(金融商品取引法施行令31条。以下「共同買集者」という)が「公開買付者等関係者」に該当しないこと。(イ)①「共同して買い集める者」「共同買集め」の要件は法令上定められておらず、裁判例においても具体的な要件については触れられていないところ、共同買集者が行う買付け等は公開買付者等本人による買付け等と同視できることからインサイダー取引規制の対象外となること、②共同して買集め行為を行う旨を公開買付者等本人と合意し、その合意に基づいて買付け等を実行することのみが必要であると解されること、③他方で、買付け等を行う具体的な時期および株式数ないし数量まで合意する必要はなく、また、取得した株式を公開買付者等本人に売り付けることの合意なども不要と解するのが合理的であることなど。(ウ)共同買集者自身による個々の買付行為が単独では「買集め行為」に該当しない場合であっても、インサイダー取引規制の対象外になること。
このような照会に対し、金融庁が示した回答の結論は「照会者は、必ずしも『公開買付者等』及び上記適用除外に該当せず、法第167条第1項のインサイダー取引規制の対象となり得ると考えられる」とするものであった(「上記適用除外」について、後述参照)。
金融庁はまず金商法167条1項の「公開買付者等」について整理し、公開買付け等に係る株券等につき(1)公開買付けをする者(以下「公開買付者」という)ならびに(2)施行令31条に規定する買集めをする者(以下「買集者」という)および買集者と共同して同条に規定する買集めをする者(共同買集者)をいい、これらの者は、自身が関与する公開買付け等との関係では法167 条1項のインサイダー取引規制の対象者である「公開買付者等関係者」に該当しないとした。
また、(3)公開買付者等の要請に基づいて公開買付け等に係る株券等の買付け等をする場合について言及し、「一定の要件(当該公開買付者等に当該株券等の売付け等をする目的をもって買付け等をすること等)のもとで上記インサイダー取引規制の適用除外とされており(法第167条第5項第4号)、上記(2)の共同して買集めをする場合に該当するといえるためにも、この適用除外の場合と同程度の一体性を有することが必要であると解される」とした。
そのうえで、照会のケースについて「照会者が株券等の共同取得の合意をしたという相手方は、買集者ではなく公開買付者となる予定の者である上、照会者自身が行う予定の買付けについては、その具体的な時期、買い付ける株券等の数量、株券等の取得後の保有・処分に関する予定等が未確定であるとされている」ことから、「本件照会のケースにおいて、照会者は、必ずしも『公開買付者等』及び上記適用除外に該当しない」旨の見解を示すものとなった。