◇SH1961◇債権法改正後の民法の未来36 継続的契約(1) 中祖康智(2018/07/11)

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債権法改正後の民法の未来 36
継続的契約(1)

中祖法律事務所

弁護士 中 祖 康 智

 

1 提案内容

 継続的な契約関係について、下記内容の規律を明文化することが検討されたが、見送られることとなった。

(1) 継続的契約の解消について

  1. ① 期間の定めのない継続的契約は、合理的期間をおいた解約申し入れにより、または解約申し入れから相当な期間を経過することにより、終了すること。ただし、契約の趣旨、契約期間の長短、予告期間の有無その他の事情に照らし、契約を存続させることに正当な事由がある場合には、終了しないこと。
  2. ② 期間の定めのある継続的契約は、期間満了により終了すること。ただし、契約の趣旨、契約期間の長短、従前の更新の有無及び経緯その他の事情に照らし、契約を存続させることに正当な事由がある場合には、従前と同一の条件で更新されること。その場合は期間の定めのない契約となること。
  3. ③ 継続的契約の債務不履行解除は、当事者間の信頼関係破壊が要件となること。
  4. ④ 消費者は、事業者との間の継続的契約をいつでも解除できること。
  5. ⑤ 継続的契約の解除の効果は遡及しないこと。

(2) 多数当事者型継続的契約について

 多数当事者型継続的契約の当事者は、契約の履行および解消に当たって、相手方のうち一部の者を、合理的な理由なく差別的に扱ってはならないこと。(※多数当事者型継続的契約:フランチャイズ契約、特約店契約、ゴルフクラブ会員契約、在学契約等、当事者の一方が多数の相手方との間で同種の給付について共通の条件で締結する継続的契約)

(3) 分割履行契約について

  1. ① 分割履行契約において、分割履行部分について重大な債務不履行があった場合には、当該部分についての契約を解除できること。
  2. ② 分割履行契約において、重大な債務不履行があった部分と一定の関係がある他の部分について、契約を解除できること。
  3. ③ 分割履行契約において、重大な債務不履行があり、将来の分割履行部分について重大な不履行が生じる明白なおそれがある場合には、債務不履行の予防措置を請求でき、また契約を解除できること。

 

2 提案の背景(立法事実)

(1) 継続的契約の解消について

 いわゆる継続的契約(継続的な取引関係)については、契約ないし取引関係の解消の場面での紛争が少なくないが、民法には継続的契約の解消について一般的な規定がなく、裁判上でも裁判外でも、その解決はもっぱら解釈に委ねられてきた。

 そこで、民法をわかりやすくする、取引ルールの透明性を高める等の観点から、継続的契約の解消の場面一般に妥当する規律を明文化することが検討された。

(2) 多数当事者型継続的契約について

 フランチャイズ契約、ゴルフクラブ会員契約、特約店契約、在学契約等など、1人の中軸となる当事者と、多数の相手方との間で継続的契約が締結される契約では、中軸当事者と多数の相手方との間で、いわば「ハブ・アンド・スポーク」(ハブは車輪の真ん中の部分、スポークは真ん中と周りの車輪を繋げる部分)の関係が構築される。

 このような形態の契約では、中軸当事者は原則として、ハブ・アンド・スポークの関係を構築するすべての相手方当事者を、平等に取り扱うべきであるという考え方がある。

 そこで、多数当事者型継続的契約を「当事者の一方が多数の相手方との間で同種の給付について共通の条件で締結する継続的契約であって、それぞれの契約の目的を達成するために他の契約が締結されることが相互に予定されているもの」と定義し、中軸当事者に、相手方のうち一部の者を合理的な理由なく差別的に取り扱うことを禁じる規律を設けることが提案された。

(3) 分割履行契約について

 分割履行契約とは、総量の決まった給付を当事者の合意により分割して履行する契約である。

 分割履行契約については、ウィーン売買条約73条に債務不履行時の契約解除についての定めがあり、上記「 (3)」の①及び②の規律は、同条約の定めを日本の民法においても明文化することを目指したものである。

 また、上記③の規律(債務不履行の予防措置請求権)は、ウィーン売買条約にはなく、現行民法における解釈からも導くことが困難な規律で、債権法改正により新設することが提案されたものである。

 

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