国税庁、令和2年6月付「大企業の税務に関するコーポレートガバナンスの
充実に向けた取組事例」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 浜 崎 祐 紀
国税庁は、大企業(国税局特別国税調査官所掌法人)を対象として、2016年7月から税務に関するコーポレートガバナンス(以下「税務CG」という。)の充実に向けた取組に力を入れ、納税者による納税義務の自発的かつ適正な履行(以下「税務コンプライアンス」という。)を促進している。今般、国税庁は、当該取組の一環として、効果的な取組事例をまとめた令和2年6月付「大企業の税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組事例」を公表したので、当該取組について概説した上で、取組事例を紹介する。
1 税務CGの充実に向けた取組みの概要
税務CGとは、税務についてトップマネジメント[1](以下「トップ」という。)が自ら適正申告の確保に積極的に関与し、必要な内部統制を整備することをいう。
国税当局は、税務調査に際し、税務CGの状況を評価・判定する(確認項目は下図参照)。税務CGの状況が良好であり、調査結果に大口・悪質な是正事項がなく調査必要度が低い場合において、対象企業が、調査を行わない事業年度分に係る取引のうち、一定の取引を自主的に国税当局に開示し、国税当局がその適正処理等を確認した場合、次回の調査時期が1年以上延長される。他方で、税務CGの状況が良好ではないと判断された企業に対しては、国税当局のリソースが重点的に投入されることになる。
国税庁「取組の概要」[2]より抜粋
2 主な取組事例[3]
⑴ トップマネジメントの関与・指導
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• 税法に対する会社の方針の明確化
- ・ 税務コンプライアンスについて、①ハンドブック等の全社員への配布、社内LANへの掲載等を通じて全社員に周知、②トップのメッセージとして社内に発信、③その遵守等について税務方針として対外公表
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• 税務への対応と再発防止のための取組
- ・ トップが、税務調査への対応を優先する体制構築を指示
- ・ 税務調査中に、指摘事項に類似する取引の有無について徹底調査を指示
- ・ 税務調査終了後、指摘事項を全社に共有
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・ トップの指示・指導の下、再発防止策を策定・運用
⑵ 税務(経理)担当部署等の体制・機能
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• 税務精通者の配置・活用
- ・ ①社内外の税務研修、②通信教育、③顧問税理士とのコミュニケーション等により、税務精通者を育成
- ・ 税理士有資格者など税務精通者を複数配置
- ・ 税務に関する理解の浸透のため、事業部門への一定期間の経理担当者の配置
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• 事後チェック(社内監査)の効果的な実施
- ・ 税務調査で指摘事項があった事業部門に対し、模擬調査を実施
- ・ 税務調査で臨場されなかった事業所に対し、経理部門がサンプル調査を実施
- ・ 税務上検討すべき事項を網羅したチェックシートや過去の誤処理、調査時の指摘事項を踏まえたマニュアルの作成
- ・ 各部門が税務上の取扱いを意識するよう、決裁書に税務の取扱いを記載
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・ 国税庁HP掲載の「申告書確認表」[4]などを用いた申告書の確認
⑶ 税務に関する内部牽制の体制
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• 経理部門への情報の集約
- ・ 経理部門への取締役会資料・稟議書の回付
- ・ 大規模取引、例外的取引、新規事業等の発生時の経理部門への報告のルール化
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• 事業部門と経理部門との連絡・相談体制等の強化
- ・ 各事業部門に「税務事項責任者」を指名し、経理部門との連絡・相談体制強化
- ・ 経理部門に「税務相談窓口」を設置し、事前相談ルールを構築
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• ペナルティ制度の整備
- ・ 不正な税務・会計処理を行った取引実行者及び監督責任者を懲戒処分
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・ 予算消化のための意図的な経費繰り上げに対し、当該部署の予算を減額
⑷ 税務調査での指摘事項等に係る再発防止策
- ・ 税務調査結果及び再発防止策を全社に周知
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・ 再発防止策の有効性確認のため、抜き打ちのサンプルチェックや一定期間のモニタリングの実施により周知後のフォローアップ
⑸ 税務に関する情報の周知
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・ ①税務研修の実施、②税制改正や誤りの多い事例を社内LANに掲載
⑹ 調査時期が延長された際の取組
- ・ 調査対応に要していた事務量を子会社監査への事務量に振り替えるなど、税務コンプライアンス向上に向けた取組に充当
3 終わりに
会社の実態に即した適切な税務コンプライアンス体制を整備することは、いわゆる内部統制の体制整備(会社法361条4項6号等)に含まれると考えられる。税務に関する適切な内部統制を整備・運用することは、税務調査の頻度が減ることによるその対応への事務負担を減らすとともに、適切な税務申告に伴う税務リスク(過少申告加算税等やレピュテーション上のリスク)の軽減に資すると思われる。そのような観点からは、上記取組事例は参考になるだろう。
以上
[1] 代表取締役、代表執行役、業務の意思決定を行う経営責任者等