◇SH3332◇三井住友信託・みずほ信託、議決権行使書の集計を巡る検証結果と対応方針を発表――集計業務の受託会社で「先付処理」判明、2信託合計で委託1,346社の議決権行使を再集計 (2020/10/06)

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三井住友信託・みずほ信託、議決権行使書の集計を巡る検証結果と対応方針を発表

――集計業務の受託会社で「先付処理」判明、2信託合計で委託1,346社の議決権行使を再集計――

 

 三井住友信託銀行とみずほ信託銀行は9月24日、両社の証券代行業務に係る議決権行使書の集計業務において当該業務を受託する日本株主データサービスの集計方法の妥当性に検証が必要とされていた問題を巡り、検証結果と今後の対応方針などをそれぞれ発表した。

 この問題は、東芝が本年7月31日に開催した株主総会に絡む同社・9月18日付適時開示「第181期定時株主総会における議決権行使の集計について」により正式に判明。かねて一部報道により、当該総会の決議に大株主の議決権行使が反映されていないのではないかとされていたところ、東芝として(a)総会終了後の8月上旬、同社の一部株主から議決権行使書を期限の3日前に郵送により発信したにもかかわらず議決権行使結果に反映されていなかったと指摘があり、(b)郵便物として取り扱った日本郵便、議決権の事前行使の集計を行った株主名簿管理人である三井住友信託に対して要請していた調査の報告を受けたとし、「議案の可決否決の結果に影響を与えるものではありません」「(編注・両社からの報告に)一部整合しない内容があることから……両社それぞれに追加の確認を求める予定です」などとするものであった。

 三井住友信託は9月18日、「当社取引先の議決権行使書集計に係る業務について」と題するプレスリリースのなかで東芝からの要請に基づき調査を実施しているとし、(a)東芝の本件総会における集計業務の妥当性に検証を要する事項が判明したため、現時点で判明している内容をお知らせするとしつつ、(b)東芝と引き続き対応について協議中であることを発表した(なお、上場親会社である三井住友トラスト・ホールディングスにおいて同日、「子会社による取引先の議決権行使書集計に係る業務について」と題するプレスリリースを発表。三井住友信託・24日付プレスリリースに関して同様)。

 三井住友信託によると、集計業務の受託会社となる日本株主データサービスにおいて(ア)「例年3月、5月及び6月の株主総会が集中する繁忙期においては、当該期間を通じて、集計業務の時間を確保するため、郵便局と調整の上、本来の配達日前日に議決権行使書を受領する運用を行っておりました(以下「先付処理」)」ということ、(イ)「本年は、新型コロナウイルスの影響により、7月中も株主総会が集中したことから、同月中も先付処理を行っておりました」ということ、(ウ)「その結果、東芝の本定時株主総会の当日である2020年7月31日に郵便局から配達される予定であった議決権行使書についても、議決権行使期限内である前日の7月30日中に受領しておりました」ということとともに、しかしながら(エ)「7月30日に前倒しで受領した議決権行使書について、郵便局からは7月31日付と記載された交付証の発行を受け受領しております。この事実に基づき、JaSt(編注・日本株主データサービス)としては、当該議決権行使書は議決権行使期間経過後の7月31日に到達すべきであったものと判断し、議決権行使の集計の対象外としておりました」とする実務が明らかになった。三井住友信託としては、このような「集計業務の妥当性、見直しの必要性、及び今後の対応等について引き続き調査を実施しており、調査が完了次第、速やかにお知らせ」するとしたものである。

 日本株主データサービスは三井住友信託・みずほ信託が50%ずつを出資する株式会社であり、みずほ信託も「議決権行使書集計業務を含む証券代行業務にかかる事務を日本株主データサービス株式会社(以下、JaSt)に委託して」いる。日本株主データサービスにおける上述の実務は、みずほ信託を株主名簿管理人とする委託会社にも影響が及ぶこととなり、みずほ信託においても9月18日、同社が行った「議決権行使書の集計業務の一部において、過去の取り扱いについて確認する必要があることが判明しましたのでお知らせいたします」とするプレスリリースを公表している(同日付「議決権行使書の集計方法について」参照)。

 三井住友信託・みずほ信託の各社が行った9月24日の発表では、(1)上記「先付処理」の妥当性について、外部の法律事務所・弁護士の見解を含めた検証によれば、郵便局による交付証の日付にかかわらず、議決権行使期限内の7月30日に受領した議決権行使書については集計対象とすべきであったとする判断を示したうえで、(2)三井住友信託および同社の連結子会社である東京証券代行・日本証券代行が受託した集計業務を巡っては計975社に係る有効な未集計票(議決権個数にして約340万個、全委託会社の総議決権数に対する比率は0.31%)について再集計し、また(3)みずほ信託が受託した集計業務を巡っては計371社の未集計票(計22,848通)について再集計し、(4)その結果として「議案の成否に影響を及ぼす事案はないと認識して」いると表明した。併せて公表された「再集計による賛成比率への影響(賛成比率の変動)」によると、三井住友信託においては「0%~+0.5%」となった議案が全9,509議案のうち7,457議案(78.42%)、みずほ信託では「0%~+1.0%」となった議案が全3,606議案のうち2,959議案(82.06%)を占めている(変動幅は各社の発表資料に基づく)。

 これらの集計は三井住友信託において「JaStに有効票未集計分の詳細なデータが残存している委託会社」についてのもので、「表に記載した繁忙月以前(編注・開催月が2020年5月より前)に開催された株主総会(及び5月に開催された株主総会の一部)の決議に関しても、有効票未集計が生じていたと推定されますが、有効票未集計分の詳細なデータが残存せず、誠に遺憾ながら正確な検証は困難な状況です」とする。みずほ信託においても「電子媒体に保存された議決権行使書に関するデータを確認することができるのは、過去3ヶ月以内に株主総会を開催された委託会社様に限られる」としていることから、複数の報道が指摘した「約20年にわたる誤った処理」について検証することは不可能な状況といえる。

 三井住友信託の例によれば、今後、①先付処理はすみやかに取り止め、実際に郵便局から議決権行使書を受領した日を基準に集計業務を行うこととし、業務の適正化に努めていく、②電子行使を推奨する取組みを従来以上に促進していくとした。本件を巡っては、東京証券取引所が9月29日、株式事務代行機関代表者宛に「株式事務の適正性確保のお願い」を、上場会社代表者宛に「株主の議決権行使の環境改善に係るご検討のお願い」を、それぞれ要請したほか、金融庁が両信託に対し、報告徴求命令を発出していた旨が複数報じられている。

 なお、連結子会社アイ・アールジャパンに証券代行業務を委託する上場会社やその株主に向けて上場親会社であるアイ・アールジャパンホールディングスは9月24日、「一部の株主の意見が反映されない等の不適切な処理は一切なく、株主総会前日に到着した議決権行使書も全て集計結果に反映して」いるとする発表を行った。また、三井住友信託等およびみずほ信託に集計業務を委託する側の上場会社において、両社からの報告を株主らに向けて発表する動きが相次いで生じており、主なものとして次の例がある。

 

【何ら問題が生じなかった例】

<三井住友信託への委託会社>

○富士電機・9月25日付「第144回定時株主総会における議決権行使の集計については、適切に処理がされており、集計結果は適正なものである旨の報告を、SMTBより受けていることをお知らせ致します」「(ご参考)SMTBからの報告概要 (編注・中略)8月開催のため繁忙期に該当せず、先付処理を実施していないため、議決権行使の集計結果は適正なものである」

 

【期限日到着の一部が集計結果に反映されていなかった例】

○三陽商会・9月28日付「集計に反映されなかった議決権行使書の議決権比率は0.09%であり、議決権行使の有無にかかわらず議案の成否に影響を与えるものではございませんでした」

○燦ホールディングス・9月29日付「集計されなかった議決権行使書は2件、その議決権数は11個(議決権行使比率0.01%)となりますが、本年総会におけるいずれの議案の可否決にも影響を与えるものではないことをご報告申し上げます」

<日本証券代行への委託会社>

○クレアホールディングス・9月30日付「集計に反映されなかった議決権行使書の議決権比率は0.94%であり、議決権行使の有無にかかわらず、議案の成否に影響を与えるものではございませんでした」

<みずほ信託への委託会社>

○日本信号・9月25日付「集計に反映されなかった議決権行使書の議決権比率は0.05%であり、議決権行使の有無にかかわらず、議案の成否に影響を与えるものではございませんでした」

○日総工産・9月30日付「集計に反映されなかった議決権行使書の議決権比率は0.008%であり、議決権行使の有無にかかわらず議案の成否に影響を与えるものではございませんでした」

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