◇SH0688◇法のかたち-所有と不法行為 第十五話-4「自由-『私のもの』を守ること」 平井 進(2016/06/07)

未分類

法のかたち-所有と不法行為

第十五話  自由-「私のもの」を守ること

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

4  ピューリタン革命-オーヴァトン

 その後のイギリスのピューリタン革命の背景となる二つの大きな潮流は、宗教(信仰の自由)と経済(生業の自由)の問題であり[1]、イギリス国教会が絡む信仰と教義の問題は王権の問題でもあったので、いずれも王権による独占性(独占権の付与)が人々の自由を侵害する問題として共通に考えられていた。[2]

 ピューリタン革命におけるレヴェラーズ運動の理論家であったリチャード・オーヴァトンは、『すべての専制者と専制に対する矢』(1646年)において、人にとって安全に守られるべきものについて次のように述べている。

 自然にある各人には、他のいかなる者にも侵されたり奪われたりすることのない固有のもの(individual property)[3]が自然に与えられている。各人は、その人自身であるが故に、自身に固有のもの(self-propriety)[4]をもつ。そうでなければ、その人自身ではありえないからである。(略)そうでなければ、我のものと汝のもの(mine and thine)ということはありえない。(略)彼らのより良くあること、幸せ、または安全(better being, weal, or safety)のためにある以上のことがらはない。これは人の特権であるが、それ以上ではない。それだけであって、それ以上のものが与えられたり受取られたりすることはない。[5]

 この記述において、「自身に固有のもの」とは人の「より良くあること・幸せ・安全」を指しており、人がその「自身に固有のもの」をもつことと、人が他者からその「自身に固有のもの」を取り上げることができないこととは一体である。これは人間の生存と安全(human subsistence and safety)という「防御原理」(defensive principle)[6]によるものとされる。



[1] ピューリタン運動の背景については次を参照。常行敏夫『市民革命前夜のイギリス社会-ピューリタニズムの社会経済史』(岩波書店, 1990)、その後のレヴェラーズとその法的思考について、小池正行『変革期における法思想と人間』(木鐸社, 1974)、大澤麦『自然権としてのプロパティ-イングランド革命における急進主義政治思想の展開』(成文堂, 1995)、友田卓爾『レベラー運動の研究』(渓水社, 2000)。

[2] ピューリタン革命におけるレヴェラーズ運動の指導者の一人であったジョン・リルバーン(John Lilburne)は、1645年の『イングランドの生得的な権利の正当化』と『無実と真実の正当化』において、宗教的独占のみならず経済的独占の問題も論じている。前者の訳について、渋谷浩『自由民への訴え-ピューリタン革命文書選』(早稲田大学出版部, 1978)資料4, 120-122頁。また、渋谷浩『ピューリタニズムの革命思想』(御茶の水書房, 1978)83-88頁も参照。

[3] “individual”は、分割できないという意味からそのような個別のものの本質、またそれが独自・特有・固有であるという意味をもつ。 “property”も、properに由来して妥当・適合すること、また本質的に固有な属性・特性・特質という意味をもち、その属性・所属的な性質が、人が独自・固有にもつこと(所有)、そのような対象という意味に関連している。

[4] “propriety”も、properに由来して自然に妥当・適合して正しいこと、そのような独自・固有の特性・特質という意味をもち、それが上記propertyと同様に所有という意味に関連している。

[5] Richard Overton, An Arrow against all Tyrants and Tyranny, 1646, in The English Levellers, Sharp, Andrew, ed., Cambridge University Press, 1998, p. 55. 友田・前掲注(99) 387-395頁。この「特権」(prerogative)は、人が本来、固有にもつ権利のことである。

[6] Richard Overton, An Appeal from the Commons to the Free People,1647, in Woodhouse, A. S. P., ed., Puritanism and Liberty, Being the Army Debates (1647-9) from the Clarke Manuscripts with Supplementary Documents, The University of Chicago Press, 1951, p. 330-333.

 

タイトルとURLをコピーしました