◇SH2388◇中国:外商投資法の二次草案 鹿はせる(2019/03/09)

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中国:外商投資法の二次草案

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿 は せ る

 

 中国で、「中外合弁企業法」、「中外合作経営企業法」及び「外資企業法」のいわゆる「外資三法」に代わり、外商投資を統一的に管理する「外商投資法」の草案(以下「一次草案」という)が2018年12月26日に公布された(同草案の全貌については、当事務所の川合弁護士の過去の寄稿を参照[1])。その後、同草案は全人代常務委員会の審議にかけられ、2019 年1月29日には、一次草案から二次草案の変更点が公表された[2]。本稿では、そのうち主な変更点を概観する。本法案は2019年3月7日から開催されている全人代で審議され可決される見込みである。

 

1.「参入前国民待遇」の具体化

 一次草案は第4条において、「国は、外商投資に対して、参入前国民待遇及びネガティブリスト管理制度を実施する」と規定していた。これに対し、法案審議段階で「参入前国民待遇」とは何を指すのか明確でないとの指摘がなされ、二次草案では「参入前国民待遇とは、企業の設立、取得及び拡大等の段階において、外国投資者及びその投資について、自国投資者及びその投資を下回らない待遇を与えることを指す」との定義規定が設けられた。すなわち、外国投資者が企業を設立した後だけではなく、その前の設立段階及び拡大段階においても、中国企業と同等の待遇又は優遇措置を与える趣旨である。

 

2. 外資三法の廃止及び経過措置の明確化

 一次草案は第39条において、外商投資法が成立した際には外資三法は廃止されると規定していた。これに対して、法案審議段階では、これまで外資三法に従ってガバナンス機構を設置していた外商投資企業に対し、今後のガバナンス機構設置の方針を明確化すべきとの指摘がなされた。これを受け、二次草案では、「外商投資企業の組織形態、組織機構については、中国会社法及び中国合作企業法の規定を適用する」との規定をおき、ガバナンス機構については内資・外資の区別を設けないことが明確となった。また、経過措置として、外商投資法施行前に外資三法に従って設立された外商投資企業は、施行後5年間は従来の組織形態を維持できるとされた。

 

3. 外資歓迎姿勢の強調

 一次草案は第9条において、「法律及び行政法規に別途規定がある場合を除き、国が企業の発展を支持するための各種政策は外商投資企業にも適用される」と規定していた。また、第14条は、「国は…、外国投資者が特定の業種、領域及び地区において投資することを奨励及び誘致するために、優遇措置を行う」と規定していた。これに対し、法案審議段階では、更に外商投資を誘致、促進する姿勢を強調するために文言の調整を行うべきとの指摘がなされた。これを受け、二次草案では同9条の規定は「外商投資企業は法により国が企業の発展を支持するための各種政策を適用する」に、同14条は、「外国投資者の特定の業種、領域及び地区における投資を奨励及び誘致し、法律、行政法規及び国務院の規定に基づき優遇措置を与えることができる」にそれぞれ文言が変更された。外商投資企業が内資企業と比べ差別されないこと、及び、特定業種等において投資を奨励することを原則として明示する趣旨である。

 

4. 投資情報報告制度の罰則の明記

 一次草案は第31条において、「国は外商投資情報報告制度を設立し、情報報告の内容及び範囲は必要がありかつ厳格に制限されるとの原則に基づき確定する」と規定している。これに対し、法案審議段階では、外商投資企業が法令に従わず、報告を行わなかった場合の罰則に関する規定を設けるべきとの指摘がなされた。これを受け、二次草案では「外商投資企業が本規定に違反し、外商投資情報報告制度の求めに従って投資情報を報告しなかった場合、商務主管部門は期限を定めた上で是正を命じ、当該期限を経過しても是正されなかった場合には、10万元以上50万元以下の罰金を課する」との規定が設けられた。この罰則は、違反した場合に直ちに罰金が課されるのではなく、一次的には是正が命じられる点、また罰金の上限が50万人民元(約850万円)とされている点で、外商投資企業にとってそれほど厳しいものではない。なお、報告が求められる「投資情報」の範囲は未だ明らかではないが、2015年に公布された外国投資法のパブリックコメント版からは、設立報告、変更報告及び(年度ごとといった)定期報告と予想される。

 

 外商投資法は、昨今の米中貿易紛争が決着を未だ見ない中、中国に対して躊躇気味の外国投資者を積極的に呼び込もうとの意図のもと、急ピッチで一次草案及び二次草案が作成され、現在開催されている全人代で成立する見込みである。もっとも、その内容は原則的な規定が多く、「法により」との留保が残されている箇所も多いことから、関連法令の整備及び具体的な運用を注意深く見守る必要がある。

 

 

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