東京都、24,000件のインターネット広告を監視、
329事業者に対し改善指導
岩田合同法律事務所
弁護士 青 木 晋 治
1 東京都による令和元年度の監視事業に関する実施結果の報告
東京都は、令和2年9月24日、インターネット広告表示監視事業に関する令和元年度の実施結果を取り纏めて公表した。今般、東京都は、2万4000件のインターネット広告を監視し、329事業者(331件の広告)に対し改善指導を行った。
本稿では、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という)上の法規制の概要について改めて確認するとともに、今般東京都が改善指導を行った事例をもとに企業等が広告をするに際し、留意すべき点について概説する。
2 問題となった表示例と問題点
東京都によれば令和元年度の特徴としては、①健康食品と化粧品の広告に誇大な効果等をうたう表示や、②通常価格の実態がないおそれのある二重価格表示が見受けられたとのことである。
東京都が公表した表示例と問題点は以下のとおりである。
商品・サービス | 表示例 | 問題点 |
健康食品 |
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この健康食品を摂取することで、病気や症状を予防・改善したり、免疫力向上効果が得られるかのように表示していた。 実際には、表示の裏付けとなる合理的な根拠を有していないおそれ (優良誤認のおそれ) |
化粧品 |
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この化粧品を使用することで、若返りや痩身等の美容効果が得られるかのように表示していた。 実際には、表示の裏付けとなる合理的な根拠を有していないおそれ (優良誤認のおそれ) |
美容雑貨 |
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商品を使用するだけで、若返り等の美 容効果が得られるかのように表示していた。 実際には、表示の裏付けとなる合理的な根拠を有していないおそれ (優良誤認のおそれ) |
健康食品 化粧品 |
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競争事業者のものよりも高い満足度等が得られるかのように表示していた。 主張する内容が客観的に実証されていないおそれ (優良誤認のおそれ) |
エステ |
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通常価格から値引きし、お得であると思わせる表示をしていた。 実際には、通常価格の実態がなく、不当な二重価格を記載しているおそれ (有利誤認のおそれ) |
健康食品、化粧品、エステ、各種教室等 |
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期間や人数限定の特別価格であり、今申し込めばお得であると思わせる表示をしていた。 実際には、期間や人数の明示がなかったり、キャンペーン期限が延長されるなど継続して実施されていた。 (有利誤認のおそれ) |
商品販売の際に提供される過大な景品類 | 雑貨を販売の際に、 「初回プレゼント●●付」 |
購入者にもれなく提供される特典の景品は、総付景品の限度額(対象商品販売価格の20%)を超えていた。 (総付景品の限度額超過) |
(引用:東京都ホームページ)
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3 表示例を踏まえた留意点
⑴ 優良誤認
優良誤認とは、品質等の内容についての不当表示であり、商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるものである(景表法5条1号)。
「著しく」とは、誇大の程度が社会一般に許容されている程度を超えていることをいい、一般消費者が表示と実際が異なることをあらかじめ知っていたら、取引に誘引されることは通常ないであろうと認められる程度に達する誇大表示であれば、優良誤認表示に当たると解されている。
東京都より公表された表示例では、実際には、表示の裏付けとなる合理的な根拠を有していないにもかかわらず「体の免疫細胞を活性化」とする表示などが優良誤認のおそれがある表示として問題とされた。
⑵ 有利誤認
有利誤認とは、取引条件についての不当表示であり、商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるものである(景表法5条2号)。具体的には、商品・サービスの取引条件について、実際よりも有利であると偽って宣伝したり、競争業が販売する商品・サービスよりも特に安いわけでもないのに、あたかも著しく安いかのように偽って宣伝したりする行為が、有利誤認に該当することになる。
東京都より公表された表示例では、実際には、通常価格の実態がないおそれがあるにもかかわらず、「コース通常価格1万円⇒50%オフ5千円」とする表示(いわゆる二重価格表示)、実際にはキャンペーン期間が延長されているなど継続してキャンペーンが実施されているにもかかわらず「入会金が今だけ0円でOK」とする表示などが有利誤認のおそれがある表示として問題とされた。
⑶ 総付景品
懸賞によらず、商品・サービスの利用者にもれなく提供される景品類を総付商品というが、その景品類の価額は消費税込みの取引価格の20%(取引価格が1000円未満の場合は200円)を超えてはならないとされている。なお、景品類の価額は、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入するときの価格により算定するとされていることから、景品類の価額は消費税を含んだ金額となるとされているので、広告を行う企業等は、総付景品を提供する場合、消費税を含んだ当該景品類の価格が、取引価格の20%以下となっているか留意する必要がある。
東京都より公表された景品例では、雑貨を販売する際に、購入者にもれなく提供される特定の景品の価格が対象商品の販売価格の20%を超えているにもかかわらず、「初回プレゼント●●付」として、景品を提供する事例について、過大な景品類の提供にあたるとして問題とされた。
⑷ 留意点
東京都によれば、インターネット通信販売に関する都内の消費生活相談は、全件数の約2割を占めており、自宅で過ごす時間が増えている中、インターネットなどでの通信販売トラブルに関する相談は増加傾向にあり、とりわけ、健康食品等の広告に誇大な効果等をうたう表示例が見受けられたとのことである。
新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、一般消費者は、感染予防に少しでも有益と思われる商品については関心を持っているものと思われる。そのような状況下において、企業等の広告担当者は、自社等の商品・サービスについて如何に訴求力を有する広告とするかについて苦慮しているところだと思われるが、広告表示に当たっては、後で、「表示の裏付けとなる合理的な根拠がない」等と指摘されることがないよう、自社等の広告表示が表示規制に違反するものと評価されるおそれのある内容になっていないか等、改めて確認するとともに、かかる広告表示がなされないよう留意する必要があると思われる。
以 上
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(あおき・しんじ)
岩田合同法律事務所パートナー。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録。『新商事判例便覧』(共著、旬刊商事法務、2014年4月25日号~)、『Q&A 家事事件と銀行実務』(共著、日本加除出版、2013年)、『民事再生手続における取立委任手形にかかる商事留置権の効力』(共著、NBL969号、2012年)、「金融ADRから学ぶ実務対応」(共著、銀行実務2012年10月号)(共著、金融財政事情研究会、2014年)等著作多数。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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