民法及び不動産登記法等を改正する法律案(所有者不明土地関係)の概要
岩田合同法律事務所
弁護士 堀 優 夏
1 はじめに
令和3年3月5日、民法及び不動産登記法等(以下、併せて「民法等」という。)を改正する法律案(以下「本改正案」といい、同法律案による改正前のものを「現民法」、改正後のものを「改正案民法」などという。)が国会提出された。本稿では、本改正案の概要を紹介する。
2 本改正案の目的
近年、人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下や地方から都市等への人口移動を背景とした土地所有意識の希薄化等により、土地所有者が死亡しても相続登記がされないこと等を原因として、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、又は判明しても連絡がつかない土地(以下「所有者不明土地」という。)が生じ、その土地の利用等が阻害されるなどの問題が生じている。そこで、所有者不明土地の発生を予防し、あるいは、既に存在する所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みを整備する観点から、本改正案が策定された。
3 本改正案のポイント
以下では、本改正案につき、所有者不明土地の発生予防対策に係る改正と所有者不明土地の円滑・適正な利用に係る改正とに分けてポイントを解説するが、その概要は、下図のとおりである。
所有者不明土地発生予防対策に係る改正 |
所有者不明土地の円滑・適正利用に係る改正 |
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相続登記情報の更新を図る方策
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所有者不明土地の発生を抑制する方策
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共有関係にある所有者不明土地の利用
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所有者不明土地の管理の合理化
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隣地所有者による所有者不明土地の利用・管理 → 民法の相隣関係規定の見直し |
(1)所有者不明土地の発生予防対策に係る改正
- ア 相続登記や氏名等変更登記の申請義務化
- 本改正案においては、相続等による所有権移転登記について、自己のための相続開始等及び当該所有権の取得を知った日から3年以内(改正案不動産登記法76条の2第1項)、氏名等の変更登記については、氏名等の変更日から2年以内(同法76条の5第1項)に、それぞれ申請しなければならないとされ、上記違反に関する過料の制裁も規定されている(同法164条1項、2項)。
- イ 遺産分割の期間制限
- 現民法では、遺産分割期限の設定がないため、遺産分割がされないまま、遺産分割の当事者の死亡等により権利関係が複雑化し、所有者不明土地が多く発生する一因となっていた。本改正案では、相続開始後10年経過後にする遺産分割については、原則として特別受益や寄与分に関する条文の適用がないとされ(改正案民法904条の3)、その結果、法定相続分の割合に従って分割される仕組みとなっている。
- ウ 土地の所有権放棄を可能に
- 本改正案と同日に国会提出された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」案では、相続により土地所有権を取得した者が、建物の存する土地でないこと、担保権の設定がないこと等の一定の要件を満たす場合には、法務大臣の承認を受けてその土地の所有権を国庫に帰属させることができる旨規定されている。
(2)所有者不明土地の利用の適正・円滑化に係る改正
- ア 所有者不明土地管理制度の創設
- 現民法においては、相続人が不明な場合、不在者財産管理制度(現民法25条)や相続財産管理制度(同法952条1項)が存在するが、いずれも相続人の相続財産全てを管理対象とするため、管理コストが過大になる等の問題点があった。本改正案では、所有者不明土地に特化した管理制度が創設されている(改正案民法264条の2以下)。
- イ 共有制度の見直し
- 現民法においては、共有物の変更・処分については共有者全員の同意(現民法251条)、共有物の管理については、原則として共有者の持分の価格の過半数の同意(同法252条)が必要とされており、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という。)の同意が得られず、管理や変更・処分が困難となっていた。本改正案では、裁判所が、共有者の請求により、共有物の管理や変更・処分ができる旨の裁判(改正案民法251条2項、同法252条2項)や、所在等不明共有者の持分について、相当額の供託を命じた上で共有者に持分を取得又は譲渡させる旨の裁判(同法262条の2、262条の3、改正案非訟事件手続法87条5項、同法88条2項)をすることができる旨が定められている。
- ウ 隣地所有者による所有者不明土地の利用・管理(相隣関係規定の見直し)
- 現民法においては、ライフラインの導管等を引き込むために隣地を使用する際の規定がなく、隣地の所有者が不明の場合に対応が困難であったが、本改正案では、これに対応し、ライフラインの導管等を設置するために隣地を使用する際の規定(改正案民法213条の2)等が新たに設けられている。
4 おわりに
本改正案は、所在者不明土地を巡る諸問題を端緒にしたものではあるが、物権法(相隣関係・共有)や相続法の分野等にわたる内容となっている。本改正案中には、相続登記及び氏名等変更登記の義務化や共有に関する民法規定の見直し等、所在者不明土地問題に留まらない内容も含まれ、不動産関連実務に一定の影響を及ぼすものといえる。政府は、本改正案につき、今国会での成立と公布後2年以内の施行を目指すとしており、国会での審議が注目される。
(ほり・ゆうか)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2013年九州大学法学部卒業。2015年京都大学法科大学院修了。2017年1月判事補任官。神戸地方裁判所勤務を経て、2020年4月「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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