「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会」報告書が公表される
――新たな雇用仲介サービスに係る法的位置付け、優良事業者認識の方策、個人情報の取扱いなど――
厚生労働省は7月13日、「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会」(座長・鎌田耕一東洋大学名誉教授)の報告書が同日取りまとめられたとし、公表した。
同研究会は、新しい時代に対応した労働市場の整備および就労マッチングサービスの発展の観点から、多種多様となっている採用プロセスにおける人材サービスを明らかにしたうえで今後の雇用仲介制度のあり方を検討する必要があるとする問題意識のもと、具体的な検討事項として(a)IT化等による新しい事業モデル・サービスに対応した制度のあり方、(b)有料職業紹介事業・募集情報等提供事業などをより適正かつ効果的に運営するための制度のあり方、(c)働き方や職業キャリアのあり方が多様化するなかで需要サイド・供給サイド双方にとって機能的な労働市場を実現するための制度や官民連携のあり方の3点を掲げ、発足した。厚労省職業安定局長が参集を求めた大学教授ら4名・研究機関関係者2名・上場企業経営者1名の計7名で構成し「法的・制度的な観点から専門的な検討」を行うとして、今年1月6日に初会合を開催(事務局は職業安定局需給調整事業課)。
以後、月に2~3回程度のヒアリングや審議をかさね、6月22日開催の第16回会合で行った「これまでの議論の整理」では、各論を整理するうえで「基本的考え方」となる次の4点を事務局が提示した。(イ)求人メディアや新たな雇用仲介サービスが労働市場において果たす役割を積極的に評価し、労働市場において需給調整(マッチング)の一翼を担うものとして位置付ける、(ロ)労働市場全体のマッチング機能を高め、実効的な雇用対策を行うことが重要であり、職業安定機関(厚労省職業安定局・都道府県労働局・公共職業安定所)は求人メディアや新たな雇用仲介サービスを行う者とも情報の共有や連携を進めていく、(ハ)労働市場における雇用仲介サービスの位置付けを確固たるものとし、仕事を探す者の立場に立って、雇用仲介サービスの利用者が安心して利用できる環境とするため、雇用仲介サービスを行う者が守るべきルールを明確にする、(ニ)雇用仲介サービスがIT技術を駆使し、機能を高めていることや、サービスの進展が早いことを踏まえ、雇用仲介サービスを利用して仕事を探す者にとって有益なイノベーションを阻害しないよう留意する。その後開かれた7月13日の第17回会合において「議論のとりまとめ案」を検討し、取りまとめに至ったものである。
公表された報告書は「第1 総論」「第2 今後の雇用仲介の在り方について」の2部構成。「第2 今後の雇用仲介の在り方について」では「Ⅰ.基本的考え方」「Ⅱ.労働市場の整備」「Ⅲ.雇用仲介サービスの取り扱う情報について」「Ⅳ.雇用仲介サービスの役割・仕事を探す者の保護等」の全4章を設けた。「第1 総論」によると、「仕事を探す者の様々な入職の状況について必ずしも把握できていなかったことや、これまで想定してきたようなモデルでは捉えきれない雇用仲介の実態が生じていることを受け、現状を見つめ直し、雇用仲介サービスの利用者が安心してサービスを利用できる環境整備の観点から、雇用仲介サービスが労働市場に参画するために必要となるルールや、将来に向かってより機能的・効率的な労働市場の実現に貢献できるような、雇用仲介サービスの在り方を模索し」たとされる。
「第2 今後の雇用仲介の在り方について」の「Ⅱ.労働市場の整備」においては、まず「1 雇用仲介サービスの法的位置付け」を掲げ、その明確化の観点から(1)労働市場に流通する募集情報、仕事を探す者の情報等について、雇用仲介サービスを行う者は、正確な情報を労働市場に流通させるべきである、(2)雇用仲介サービスの発展のスピードが速いことを踏まえ、実態を広く把握し、仕事を探す者等の保護を図る必要がある、(3)仕事を探す者の情報を取り扱う場合には、仕事を探す者本人が労働市場には流通させたくない情報も含まれうることから、より慎重な対応が求められる、(4)雇用仲介サービスからの情報提供と職業紹介におけるあっせんとの違いについて、既存の区分基準・判例等と現状の雇用仲介サービスの実態との関係を整理し、職業紹介に該当するサービスを明確にすることが事業活動における予見可能性を高める――と指摘。併せて、多様なサービスが登場するなか「募集情報や仕事を探す者の情報を取り扱うことが常態となっているような場の提供等、これらの情報の流通を促進しているものについては、サービスの類型に関わらず、雇用を仲介する機能を持つものとして整理を行っていくことが適当である」とした。
このような雇用仲介サービス等は、職業安定機関と連携する主体として位置付けられ「厚生労働大臣が労働市場に関する情報を収集する際に必要な協力を行うこととすることが適当であ」り、一方、公共職業安定所にあっては「特に就職困難者への対応を充実させ、全国的にその知見を共有し、職業の安定に対する役割を強めていくことが適当である」とされている。また、職業安定機関では雇用仲介サービスと公共職業安定所が効果的に連携することができるよう「雇用仲介サービスを行う者に関する情報や労働市場に関する情報を提供していくこと等が適当である」と整理された(以上「2 公共の役割」参照)。
続く「3 新しいサービスの把握等」では、「参入を阻害しないよう配慮しつつ」求人メディアや新たな雇用仲介サービスを提供している事業者を把握できるようにする必要性に触れ、職業紹介事業や労働者派遣事業における認定制度を引合いに出したうえで「求人メディア等の雇用仲介サービスについても、優良な事業者を認識することができる方策を検討することが必要」とする。職業安定機関に対しては「4 職業情報・募集情報等の共通フォーマットの整備」において、マッチング機能の向上や個々人のリスキリング(職業能力の再開発、再教育)の観点から「職業情報提供サイト(日本版O-NET)等の職業情報を一元化するインフラの整備を進め、充実を図ることが適当である」と一定の方向性を打ち出した。
上記「Ⅲ.雇用仲介サービスの取り扱う情報について」においては、(1)雇用仲介サービスを行う者が提供する募集情報等につき「正確かつ最新のものに保つための措置を講じることが適当」とし、また「誤り等があった場合、早急に訂正等を行う責任があることから、募集を行う企業等や仕事を探す者からの苦情を受け付ける体制を整備し、適切に対応することが適当である」とするほか(「1 情報の的確性」参照)、(2)仕事を探す者の個人情報を分析し、マッチング機能を高めるサービスが登場していることを踏まえ、仕事を探す者の個人情報が「自分にとって不利に取り扱われることのないよう」にする観点から、次の提言を行っている。①雇用仲介サービスを行う者は業務の目的の達成に必要な範囲内で、その目的を明らかにして個人情報を収集・保管・使用することが適当である、②雇用仲介サービスが本人の同意を得て個人情報を利用する場合においても、どのように同意を得るべきかを明確にしていくことが適当である、③原則収集してはならないとされている個人情報に加えて、求職活動や採用活動に当たって、差別につながるおそれのある情報や個人の私生活に関する情報など使用されるべきでない個人情報等をより明確化していくことが適当である(以上「2 個人情報等の保護」参照)。
なお、最終章となる「Ⅳ.雇用仲介サービスの役割・仕事を探す者の保護等」では「1 雇用仲介サービスの役割」「2 仕事を探す者の保護」「3 業界団体の役割」について言及したのち、「4 雇用以外の仲介について」敷衍。業務委託等の受発注者など雇用以外の仕事を仲介するようなサービスにつき「雇用仲介サービスを行う者が守るべきルールに倣うことができるよう、周知を図るべき」と指摘した。