日証協、IPOにおける公開価格の設定プロセスの
あり方に関して改善策等の検討を開始
――主幹事証券・スタートアップ・投資家らでワーキング、2021年中に議論取りまとめへ――
日本証券業協会は9月14日、「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」(主査・神作裕之東京大学大学院法学政治学研究科教授)を設置した。9月16日には初会合を開催している。
ワーキング・グループは諮問機関としてのエクイティ分科会の下部に設置された。主査を始めとする計16名の委員からなり、IPOの引受主幹事証券会社、スタートアップIPO企業、投資家、有識者などで構成。東証・金融庁・経産省がオブザーバー参加する。日証協によると、具体的な検討事項として「公開価格の設定プロセスについて実態把握を行うとともに、公正な価格発見機能向上のため、需要情報の把握・管理のあり方及び想定発行価格等の設定・公表のあり方等について、制度の見直しの必要性及び見直しの内容を検討する」もの。9月15日の会長記者会見では、本ワーキング・グループの議論について2021年内に取りまとめることが表明されている。
初会合の際の公開資料に示されるところであるが、資本市場の環境整備などを掲げる成長戦略実行計画(2021年6月18日閣議決定)第7章では、その第1項に「新規株式公開(IPO)における価格設定プロセスの見直し」を掲げ、わが国のIPOにおける課題として次の点を指摘している。(a)資金調達額が諸外国に比べて少ない、(b)上場後の初値が起業家の公開価格を大幅に上回っており、このためIPOによる起業家の資金調達額が少なくなる、(c)上場時の株式の割当比率をみると、個人投資家が70%を占めており、年金などの資金が投資されにくい状況となっている、(d)わが国のIPOのプロセスでは公開価格に基づく株式取得の割当先について9割は裁量的に割当てが可能であるところ、このようなプロセスにおいて、スタートアップは「公開価格による販売合計額から、証券会社の手数料を差し引いた金額を受け取る」こととなり、初値が公開価格を上回った場合、公開価格で株式を取得した特定の投資家が差益を得るがスタートアップには直接の利益が及ばない。
日証協による「会員におけるブックビルディングのあり方等について−会員におけるブックビルディングのあり方等に関するワーキング・グループ報告書−」(2007年11月21日)においても、論点の整理として(イ)公開価格と初値の乖離問題、(ロ)価格決定プロセスの標準化、(ハ)価格設定に係る決定根拠の明確化、(ニ)価格の妥当性等の確認等、(ホ)ブックビルディングプロセスの確認といった5点を掲げ、本報告書では、これらに対する具体的な対応策の検討結果を示した(以上、同報告書13~24頁参照)。なお、このワーキング・グループは主査・委員の16名全員が証券会社関係者で構成されていた。
日証協によると、今般の検討では「ワーキング・グループには、様々な分野の方に集まっていただくので、何が問題でどういうことを見直していくのか、幅広く考える必要がある」「(編注・証券会社との関係で公開価格が低く抑えられてしまっているという議論に関する所見を問う質問に対し)証券会社との関係について、今回のワーキング・グループでは、証券会社だけでなく、発行会社を含め幅広いメンバーとなっており、色々な角度から議論いただきたいと考えている」などとし、「結論ありきではない」ことが強調されている(いずれも上記会見における会長発言による)。
第1回となる9月16日会合では「IPOのプライシングについて」委員である証券会社関係者のプレゼンテーションがなされるとともに、(1)現状に対する問題意識、検討すべき課題や改善策等、(2)初期収益率の状況についてどう考えるか、(3)IPO企業・証券会社間の情報共有や意思疎通のあり方についてどう考えるかにつき、意見交換が行われた模様である。予定される検討スケジュールによれば、今後は10月中に2度、11月中に2度の会合を開催、11月の2度目の会合において中間整理(報告書案の取りまとめ)が行われる方針となっている。