SH4670 取締役協会、未成年者に対する性加害問題に関わる標準ガバナンスコードの公表 齋藤宏一/野村直弘(2023/10/31)

組織法務経営・コーポレートガバナンス

取締役協会、未成年者に対する性加害問題に関わる標準ガバナンスコードの公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 齋 藤 宏 一

弁護士 野 村 直 弘

 

1 はじめに

 日本取締役協会は、2023年10月12日、「未成年者に対する性加害問題に関わる標準ガバナンスコード」(以下「本コード」という。)を公表した[1]

 周知のとおり、本年に入り、芸能事務所元代表者が生前に同事務所所属の未成年者に性加害を行っていたことが国内外で問題となった。同事務所は、外部専門家による再発防止特別チームを組織して調査結果を公表し、対応策を提示したが、それを不十分と判断した複数の企業が、同事務所との契約を終了させる方針を決め、同事務所のタレントの起用を見送るといった対応も相次いだ。同事務所は社名を変更して被害者への補償業務に専念し、やがて廃業する方針となったが、その影響はいまだ収まる気配を見せない。

 かかる急展開は世間に衝撃を与えたが、近年、「ビジネスと人権」に対する社会の関心が高まっていることも、今回の一連の事態と無関係ではあるまい。本コードは、そのような背景の下、企業に対し、未成年者に対する性加害に加担しないためのコーポレート・ガバナンスの体制強化を呼びかけるため、日本取締役協会により策定・公表されたものである。

 本稿では、本コードの内容のベースとなっている国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を簡単に紹介した上で、本コードの概要・性質等を解説する。

 

2 ビジネスと人権に関する指導原則

 国連の人権委員会は、2005年、ビジネスと人権に関する既存の基準と実際の慣行を整理し明確にする作業を行うため、「人権と多国籍企業およびその他の企業の問題」に関する事務総長特別代表として、ハーバード大学のジョン・ラギー教授(当時)を任命した。

 ラギー教授は、多数の国々への現地訪問や多国籍企業・ステークホルダーからの聴き取り調査を経た後、2008年、「『保護、尊重及び救済』枠組み」を提案し、さらに2011年には、当該枠組みを実施するための具体的な行動指針として「ビジネスと人権に関する指導原則」[2](以下「指導原則」という。)を策定した。指導原則は人権理事会に提出され、決議により全会一致で支持された。

 指導原則は、まず一般原則として、上記の枠組みでも採用された3つの柱(①人権を保護する国家の義務、②人権を尊重する企業の責任、③救済へのアクセス)を踏襲した上で、合計31の原則を提示している。

 

(表1)指導原則の構成

a.人権および基本的自由を尊重、保護および実現するという国家の既存の義務

→ I.人権を保護する国家の義務(第1原則~第10原則)

b.特定の機能を果たす特定の社会組織として、適用されるべきすべての法令を遵守し人権を尊重するよう求められる、企業の役割

→ II.人権を尊重する企業の責任(第11原則~第24原則)

c.権利および義務が侵されるときに、それ相応の適切で実効的な救済をする必要性

→ III.救済へのアクセス(第25原則~第31原則)

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(さいとう・こういち)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。1999年東京大学法学部卒業。2001年弁護士登録(第一東京)。2008年ハーバード・ロースクール(LLM)修了、2008-2009年ハーバード・ロースクール客員研究員。2009年ニューヨーク州弁護士登録。企業法務、特にインセンティブ(株式)報酬制度やM&Aに関連する相談に対応するほか、ビジネスと人権にも注力している。

 

(のむら・なおひろ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2013年東京大学法学部卒業。2015年弁護士登録(第二東京弁護士会)。主に、コーポレート、M&A、人事・労務、紛争解決に関する業務を広く取り扱う。プロボノ活動にも注力している。

 

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