全株懇、株主総会資料の電子提供制度に係る株式取扱規程モデルの改正
岩田合同法律事務所
弁護士 蛯 原 俊 輔
1 はじめに
全国株懇連合会は、令和4年4月8日、株式取扱規程モデルの改正案(以下「改正モデル」という。)を公表した[1]。改正モデルにおいては、令和元年改正会社法(以下「改正会社法」という。)において新設された株主総会資料の電子提供制度に関する改正がなされている。本稿では、電子提供制度について概説しつつ、改正モデルの内容等について解説する。
2 電子提供制度について
⑴ 制度の概要
電子提供制度とは、株式会社が株主総会資料(電子提供措置事項[2])について、株主の個々の承諾なく、ウェブサイトを通じて、株主に対して提供することを可能とする制度であり、概要は下図のとおりである[3]。
電子提供制度に関する改正会社法の関係規定は本年9月1日に施行予定であるが、電子提供制度を導入するに当たっては、電子提供措置[4]をとる旨の定款の定め(改正会社法325条の2)が必要となる。
⑶ 書面交付請求・異議申述について
改正会社法においては、高齢者を中心としたインターネットの利用が困難な株主の利益を保護するため、電子提供制度をとる旨の定款の定めのある株式会社の株主は、株式会社に対し、電子提供措置事項を記載した書面の交付を請求することができるとされている(以下、かかる請求を「書面交付請求」という。改正会社法325条の5第1項)[5]。
一度された書面交付請求はその後の全ての株主総会に効力を持つこととなるが[6]、株式会社は、書面交付請求から1年経過したときは、当該株主に対して、書面の交付を終了する旨通知し、かつ、これに異議のある場合には1か月以上の催告期間内に異議を申述するよう催告できるとしている(改正会社法325の5第4項)。当該通知及び催告を受けた株主が催告期間内に異議申述しない限り、当該株主がした書面交付請求は、催告期間経過時に効力を失うとされている(同条5項)。
3 改正モデルについて
⑴ 改正モデルの趣旨
株主から書面交付請求や異議申述が適法になされたにも関わらず、会社が電子提供措置事項を記載した書面を交付しなかった場合には、株主総会決議の取消事由となることも考えられるため、書面交付請求や異議申述の有無が明確となるようにしておく必要があるが、改正会社法は、その具体的な方法を特段定めていない。例えば、電話等での口頭による書面交付請求や異議申述を認めてしまうと、株式会社として、事後的に書面交付請求や異議申述の有無を確認することが困難となることが懸念される。
この点、会社の株式の取扱いについて定める定款の附属規程(下位規程)である株式取扱規程により、株主権の行使方法に合理的な制約を加えることが可能と解されているところ[7]、改正モデルは、書面交付請求や異議申述の方法を書面に限定することとしている[8]。
⑵ 改正モデルの具体的内容
改正モデルでは、新たに書面交付請求及び異議申述の方法について定めた新11条を創設し、同条本文では、株主が書面交付請求及び異議申述を行うときには、書面により行うものとする旨定めている。また、同条ただし書では、書面交付請求を証券会社等及び証券保管振替機構を通じて行う場合には、証券会社等及び機構の定めるところによるとしている[9]。
⑶ 改正モデルに係る補足説明について
改正モデルでは、新11条に係る補足説明も追加されており、その中では、請求方法を書面に限定した同条の趣旨のほか、株主の本人確認の方法等についても下表のとおり説明をしている[10]。
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補足説明の内容 |
書面交付請求 |
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異議申述 |
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4 終わりに
改正モデルの効力発生日は、電子提供制度に係る改正会社法の施行日である令和4年9月1日とされているので、関係する会社においては、それまでに株式取扱規程の改正手続をしておくことが望ましい[11]。株主総会資料の電子提供制度の導入は間近に迫っており、各社とも所要の定款変更は本年の定時株主総会で既に行い、あるいは行うものと思われるが、株式取扱規程の改正手続も忘れずに行いたい。
以 上
[2] 具体的には、会社法298条1項に定める事項(株主総会の日時・場所等)、議決権行使書面に記載すべき事項、株主総会参考書類に記載すべき事項、株主提案に係る議案の要領、計算書類・事業報告の内容(取締役会設置会社の場合)、連結計算書類の内容(取締役会設置会社である会計監査人設置会社の場合)及びこれらの事項の修正に関する事項の各事項をいう(改正会社法325条の3第1項各号)。
[4] 電磁的方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めるもの(改正会社法325条の2)。
[5] 書面交付請求制度が設けられた趣旨について、竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務、2020)32頁。
[6] 前掲注[5]竹林38頁
[7] 相澤哲ほか編著『論点解説 新・会社法――千問の道標』(商事法務、2006)127頁。
[8] 前掲注[1]全株懇HP
[9] そのほか、改正モデルでは、新11条の創設に伴い、同条以降の条文を順次繰り下げる改正も行っている。
[10] 前掲注[1]全株懇HP中、新11条に係る補足説明(4)及び(5)。
[11] 前掲注[1]全株懇HP
(えびはら・しゅんすけ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2014年3月早稲田大学法学部卒業、2015年11月東京大学法科大学院中退。2016年12月検事任官。大阪地方検察庁、福岡地方検察庁小倉支部勤務を経て、2019年3月検事退官。同年4月弁護士登録、岩田合同法律事務所入所。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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