SH4115 シンガポール:会社の実質的支配者に関する規制動向(2) 松本岳人(2022/08/30)

組織法務経営・コーポレートガバナンス

シンガポール:会社の実質的支配者に関する規制動向(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 松 本 岳 人

 

(承前)

3 名義取締役及び名義株主の情報の公開に関する改正案

 今般、意見公募手続において提示されているシンガポール会社法の改正案においては、これまでは登録の必要がなかった名義取締役の指名者に関する情報をACRAに登録することが提案されている。また、ACRAに登録された名義取締役の指名者及び実質的支配者に関する情報を公開情報として、第三者も閲覧できるようになることが提案されている。

 かかる改正案が提案された背景には、FATFによるマネーロンダリング・テロ資金供与に関して参加国が遵守すべき国際基準(いわゆるFATF勧告又は新40の勧告)の改定がある。具体的には、2022年3月4日に公表されたFATF勧告24(法人の透明性及び真の受益者)の改定により、法人の透明性及び真の受益者の特定がより強く求められることになった。そのため、国際的な金融拠点を目指すシンガポール政府としてもその信頼性及び評判を高めるためにシンガポール会社法その他の関連規制を改正することを検討しているものである。

 なお、シンガポール会社法以外の関連規制の改正案の中には、上記の実質的支配者及び名義取締役のACRA登録制度の導入だけではなく、名義取締役を派遣するサービスを行っている会社の登録義務、罰則強化、本人確認手続の厳格化といった規制強化も含まれている。

 

4 おわりに

 実質的支配者の情報把握に関する規制は、日本企業にとっては必ずしもなじみのある制度ではないことから、シンガポールに子会社を有している場合であっても規制内容を十分に認識していない場合も見受けられる。そのため、まずは現状のシンガポール会社法の規制に適合した対応を行っているかどうかの確認が必要となる。今般意見公募において示されたシンガポール会社法の改正案は抽象的な案のみとなっており、具体的にどのような場合に登録が必要となり、それが公表されることになるか等は本稿執筆時点では明らかではない。もっとも、規制強化はFATF勧告の改定に基づくものであるため、今後日本においても同様の規制が導入される可能性も見据えた上で、シンガポール会社法を遵守するための準備が必要となると考える。

以 上


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(まつもと・たけひと)

2005年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2007年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2008年に長島・大野・常松法律事務所に入所後、官庁及び民間企業への出向並びに米国留学を経て、2017年から2020年まで長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。現在は、日本及び東南アジア地域での不動産・インフラ関係の案件を中心に企業法務全般についてアドバイスを行っている。

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