◇SH2250◇イスラエル:イノベーション庁の補助金プログラムと投資/買収に際しての留意点(下) 十倉彬宏(2018/12/14)

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イスラエル:イノベーション庁の補助金プログラムと
投資/買収に際しての留意点(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 十 倉 彬 宏

 

 前編ではイスラエルのハイテク企業により広く用いられているイノベーション庁(Israeli National Authority for Technological Innovation)が提供する補助金プログラム(以下「IIA補助金」)の概要について紹介したが、後編では、補助金受領者に課される制約及びこれに関連する投資/買収に際しての留意点を見ていく。

 

補助金受領者に対して課される主な制約

 受領したIIA補助金の返済義務に加えて、補助金受領者に対しては主に以下のような制約が課される。投資/買収に際しての判断・評価及び投資/買収後の事業計画に影響を与える可能性があり、留意が必要である。

  1. 1.  製造拠点の国外移転
  2.   イノベーション法では、IIA補助金を利用して開発された製品についてはイスラエル国内で製造することが義務付けられている。イノベーション庁の許可を得て製造拠点をイスラエル国外に移転することも可能であるが、かかる許可の引換えとして、ロイヤルティー率及び返済額の引上げといった条件が課されることがある。特に返済額については、移転計画の内容により、認可されたIIA補助金額の最大3倍(プラス利息)にまで引き上げられる可能性がある。なお、移転がイスラエル国内における製造能力の10%以内であれば、認可は必要なくイノベーション庁に対する届出で足りる。なお、かかる制約は、補助金の完済をもっては解除されず、完済後も同様に適用されることには留意されたい。
  3.   したがって、特に投資/買収後の事業計画として製造拠点のイスラエル国外への移転が予定されているような場合には、かかる認可の取得をクロージング条件に含めることを検討すると共に、イノベーション庁に対する支払額が増加する可能性を踏まえた上で契約内容を交渉する必要がある。
     
  4. 2.  ノウハウの国外移転
  5.   イノベーション法では、IIA補助金を利用して開発された「ノウハウ」をイスラエル国外に移転する場合にはイノベーション庁から事前に許可を得ることが義務付けられている。ここでいう「ノウハウ」の定義は非常に広範にわたっており、ソフトウェア、アルゴリズム、調合法、製造工程、ソースコード等、テクノロジーを構成する要素ほぼすべてが含まれると想定して差し支えない。同様に、「移転」もいわゆる技術移転のみならず、ライセンスアウト、開示、ひいては国外のエスクローエージェントへのソースコード等の保管委託もこれに含まれるとされており、広範にわたる。なお、「移転」先が補助金受領者の関連会社である場合も制約の対象となる。また、かかる制約は、補助金の完済をもっては解除されず、完済後も同様に適用されることには留意されたい。
  6.   ノウハウの国外移転の許可の引換えとして、イノベーション庁に対して買戻料(redemption fee)の支払いが必要になる。買戻料の計算方法については、イノベーション法が詳細に計算式を定めているが、大きくは、「移転対象となるノウハウの価値」×「受領したIIA補助金額(プラス利息)」÷「当該研究開発費の総額」をもって算出される(既返済分は買戻料から控除される。)。買戻料の上限額は認可されたIIA補助金額の6倍(プラス利息)である。
  7.   買戻料の支払いをもって、当該支払いの対象となった技術に対するイノベーション法に基づく制約は解除され、製造拠点・ノウハウの国外移転も自由に行うことが可能となり、補助金受領者のロイヤルティー等、イノベーション庁に対する該当補助金に係る一切の支払義務は消滅する。
  8.   イスラエルのハイテク企業に対する投資/買収に際しては、当該企業からのノウハウのライセンス・提供等、ノウハウに関する取引も併せて検討されていることも多いが、かかる検討にあったっては、①当該ノウハウがIIA補助金を利用して開発されたものか、②かかる取引が「ノウハウの国外移転」に該当しないか等を確認する必要がある。また、対象会社が抱える潜在的リスクの確認の一環として、対象会社の過去のノウハウの取扱い及びこれに伴うイノベーション法の遵守状況を確認する必要がある。上記のとおり、関連会社間の取引も制約の対象であるが、関連会社間でのノウハウのやりとりは性質上ルーズになりやすい場面であるので、海外に関連会社を有している場合には特に注意する必要がある。
     
  9. その他
  10.   イノベーション法により、IIA補助金の認可を受けた企業についてチェンジオブコントロールが生じる場合、又は非イスラエル法人がかかる企業について5%を上回る資本を取得する場合若しくはかかる企業の「利害関係者」となる場合には、イノベーション庁に対する届出が求められている。かかる届出と併せて、当該買収者/投資家には、イノベーション法及び当該IIA補助金に関して適用される制約を遵守する旨の誓約書を提出することが求められている。

 以上、IIA補助金に関連する主な論点を簡単に見てきた。これらの論点への対応には往々にして複雑な要素が絡まり時間を要する。イスラエルのハイテク企業への投資/買収に際しては早期に検討されるべき点であり、何かの懸念が生じた場合には速やかに専門家に相談することが推奨される。

 

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