SH4141 労働政策審議会労働条件分科会、デジタルマネーによる賃金支払の解禁に向け議論 深沢篤嗣(2022/09/22)

そのほか労働法

労働政策審議会労働条件分科会、デジタルマネーによる
賃金支払の解禁に向け議論

岩田合同法律事務所

弁護士 深 沢 篤 嗣

 

 2022年9月13日、第178回 労働政策審議会労働条件分科会が開催され、「⑴資金移動業者の口座への賃金支払について」、及び「⑵労働基準法等に基づく届出等に係る電子申請の状況について」につき議論がなされた。本稿では、上記⑴について解説を行う。

 

1 検討の概要

 労働者に対する賃金の支払は、現金によることが原則であり(通貨払の原則)[1]、預金口座への振込みによる支払は、あくまで労働者の同意を得て行う例外という位置付けとなっている[2]。この例外に、資金移動業者を通じた支払を追加することで、いわゆるデジタルマネーによる賃金支払(以下「デジタルマネー払い」という。)を解禁しようというのが、検討の眼目である[3]。このような制度は諸外国では普及しているところもあり、「ペイロールカード」などと呼ばれている。

 近時、資金移動業者が営むデジタルマネーによる決済サービス(●●Payなど)の普及が進んでいるが、デジタルマネー払いが導入された場合、このようなサービスのチャージ残高のような形で賃金を支払うことが可能となる。デジタルマネー払いでは、銀行口座を保有していない労働者に対しても、現金によらずに賃金を支払うことができることから、今後受入拡大が見込まれる外国人材への賃金支払や、また、送金コストの低下等から月1度の支払に馴染まない、非正規・副業の労働者への柔軟な賃金の支払などに活用が見込まれており、一部報道では、2023年春に解禁とも報じられている[4]

 

2 主要な論点

 他方、賃金は、労働者の生活の糧である以上、デジタルマネー払いであっても、現金・預金と同レベルで、支払を受けられることや支払に利用できることの確実性が求められる。

 そのため、デジタルマネー払いで賃金支払先となる資金移動業者については、現状の資金決済法に基づく規制(「1階部分」)に加え、労働基準法施行規則で追加的な規制をすることが想定されており(「2階部分」)、次の①~⑤の全てを満たすことを2階部分の骨子として検討が進められてきている。

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(ふかざわ・あつし)

岩田合同法律事務所パートナー。2008年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2009年弁護士登録。2013年4月から2014年3月まで、金融庁証券取引等監視委員会取引調査課に出向、インサイダー取引、相場操縦行為等の調査に携わる。金融法務、企業法務等を専門とする。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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