日本監査役協会、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案に対する意見」を提出
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 智 弘
法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は、平成30年2月14日に開かれた第10回会議において「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下「試案」という。)を取りまとめ、試案は、同月28日付でパブリックコメントに付された。
これに対応して、日本監査役協会は、平成30年4月13日、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案に対する意見」(以下「本意見」という。)を法務省に提出した。
試案の概要は、下表のとおりである。
第1部 株主総会に関する規律の見直し |
第1 株主総会資料の電子提供制度 |
|
第2 株主提案権 |
|
第2部 取締役等に関する規律の見直し |
第1 取締役等への適切なインセンティブの付与 |
|
第2 社外取締役の活用等 |
|
第3部 その他 |
第1 社債の管理 |
|
第2 株式交付 |
|
第3 その他 |
|
本意見では、第2部「取締役等に関する規律の見直し」及び第3部「その他」に関して意見が述べられている。その中でも、取締役等への適切なインセンティブの付与の点は実務的にも重要と思われる。
現行会社法上、指名委員会等設置会社以外の株式会社においては、取締役の報酬等の額等を定款又は株主総会の決議によって定めることとされている(会社法361条1項)。この規定は、取締役又は取締役会によるいわゆるお手盛りを防止するための規定であると一般的には解されている。しかし、近年、取締役の報酬等を取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与するための手段として捉え、会社法上の規律としても、取締役の報酬等がそのような手段として適切に機能するものとなるような見直しが必要ではないかという指摘がされている。また、取締役に対して適切なインセンティブを付与するために、報酬等として株式を交付することや、報酬等の内容を株式会社の業績等に連動させることなどの重要性が指摘されているところ、このようないわゆるインセンティブ報酬を付与する場合については、会社法における取締役の報酬等に関する規律がどのように適用されることとなるか必ずしも明確でないという指摘もなされていた。このような指摘を踏まえ、試案では取締役の報酬等が取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与するための手段として機能するように取締役の報酬等に関する規律が見直されている(以上、法務省民事局参事官室「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」23~24頁)。
より具体的に見ると、試案は、取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めているときは、会社法361条1項各号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該方針の内容の概要及び当該議案が当該方針に沿うものであると取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)が判断した理由を説明しなければならないとするルール導入を提案している(試案第2部・第1・1・(1))。この点、本意見は、現行法では、各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定に関する方針について事業報告への開示(会社法施行規則121条6号)を求められる会社の範囲が公開会社に限定されていることとの平仄から、取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針の内容の概要等について、上記規律を導入する場合、対象を公開会社に限定するなど、その適用範囲を限定する必要があるとする意見を述べている。
また、試案は、役員等が第三者から責任の追及に係る請求を受けた場合等について、一定の要件の下に、会社がこれを補償する旨の規律(いわゆる会社補償)の導入を提言している(試案第2部・第1・2)。この点、本意見は、会社補償の規律を設けることには賛成しつつ、補償契約は事前の責任制限に近い面があることから、利益相反性に鑑み、取締役(監査等委員又は監査委員であるものを除く。)又は執行役の補償契約の内容の決定に関する議案を提出する場合には、各監査役、各監査等委員、各監査委員の同意を必要とすべきであるとしている。
試案に対して寄せられた意見を踏まえ、会社法改正要綱案の取りまとめに向けて引き続き調査審議が行われる予定であり、動向を注視する必要がある。
以上