全株懇、「事業報告モデル」の改正について
岩田合同法律事務所
弁護士 泉 篤 志
本年4月13日、全国株懇連合会は、事業報告モデルの改正について公表した。同改正は、①会社法施行規則等の一部を改正する省令(平成30年法務省令第5号)(以下「会社法施行規則の改正」という。)が本年3月26日に施行されたことを受け、事業報告の「株式会社の株式に関する事項」において、基準日(当該基準日が当該事業年度末日後の日であるときに限る)現在の大株主上位10名を記載することができるようになった旨(会社法施行規則122条1項1号・2項)を補足説明に加えるとともに、②事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組が進められていることに鑑み、かかる一体的開示を行う際には制度所管官庁である金融庁及び法務省により公表された法令解釈等を参考にして作成することが考えられる旨を補足説明に加えるものである。
この点、①については、特に上場会社において、(以前に比べると相対的に緩和されたものの)定時株主総会の開催日が特定の日に集中すること等に鑑み、株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定の要請が高まるなか(コーポレートガバナンス・コード補充原則1-2③参照)、定時株主総会の開催日を後ろ倒しするために実務上必要となる基準日変更(事業年度末日後の日に変更)に対応するものである。例えば、3月決算会社が4月末日を定時株主総会の議決権基準日とした場合、当該基準日から3か月以内(会社法124条2項)である7月末日までに定時株主総会を開催すればよいが、会社法施行規則の改正により事業報告の記載も当該基準日現在の大株主上位10名を記載することができるようになった。昨年は実際に上記のような基準日変更を行った会社も出てきており[1]、今後ますます基準日変更及び定時株主総会開催日の後ろ倒しを検討する会社が増えるものと思われる。
次に、②については、投資家側の利便性、企業側の負担軽減、企業と投資家の建設的な対話を促進する等の観点から、金融庁及び法務省が昨年12月28日に公表した「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」で掲げられた項目について、事業報告等と有価証券報告書における共通の記載が可能であることを明確化するなどの対応が行われており、これを踏まえ、本年3月30日に公益財団法人財務会計基準機構は、「有価証券報告書の開示に関する事項―『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組―」[2](以下「本取組」という。)を作成し、事業報告等と有価証券報告書の記載の共通化を図るうえでの留意点や記載事例について上記項目ごとに纏めている。本取組に掲げられた「作成にあたってのポイント」及び「記載事例」の内容は、金融庁及び法務省において、関係法令の解釈上問題なく、事業報告等と有価証券報告書の記載内容の共通化を行う際には参考になるとされている。
以上の①及び②の改正点はいずれも各社の任意によって記載・作成するか否かを選択できるものであるが、株主の利便性や株主との建設的な対話の充実などといった近年の定時株主総会のあるべき姿に資するものであることから、早ければ本年6月の定時株主総会から積極的に採用する会社も出てくるものと思われるため、本トピックを紹介した次第である。
本取組で採り上げられた15項目 |
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以 上