◇SH1858◇チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(3) 饗庭靖之(2018/05/24)

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チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(3)

首都東京法律事務所

弁護士 饗 庭 靖 之

 

4 株主によるコーポレートガバナンス

 前回のような経営陣による株式会社の経営判断が行われることに対し、どのようにチェックアンドバランスを働かせることができるかであるが、まず第一に、株主によるコーポレートガバナンスを機能させることを検討する必要がある。

 株主は、会社の所有者であり、株主総会は株式会社の最高意思決定機関である。しかしながら、株主総会における議決権の行使については、一般株主の多くが無関心である。

 しかし、株主は、株主総会の議決により、財務諸表、利益処分を確定させ、役員の選任・解任、報酬の決定などの決定権を有しているのであるから、株主は、会社の所有者として、株主総会で、会社運営を監督する権限を行使して、会社の持続可能な発展と会社価値の向上を図ることに寄与すべきである。

 株主は、経営陣が会社経営にあたって目的とする、当該会社の財・サービスの提供を、よりコストを低くして行い、いかに顧客満足度を高めていくかという経営者の経営判断事項に詳しい必要はない。株主は、利益の実現についての数字の結果で、会社が目的を達成しているかどうかを判断でき、株主は、経営陣に対して、利益の実現についての責任を問うていく権利を持っている。

 株主が発言するとき、短期的な株式配当を大きくするように発言することも自由であるが、全体の株主の利益に合致するのは、株主利益を向上させる観点から発言することだと考えられる。株主利益を向上させることは、会社の持続可能な発展を図り株式価値を向上することによって実現できると考えられる。

 株主は、株主総会における議決権を通じて、会社の方向を最終的に決定する力を有しているのであり、そのことを背景に、利益の実現という結果に基づいて、役員の選解任や報酬について、是非を言う権利を持っている。

 株主は、会社の持続可能な発展を実現していくことにとどまらずに、顧客満足度を上げていき高い利益率を実現し、会社価値を向上させるために、会社に対しもっと発言をして圧力を強める必要があると考えられる[1]

 こうした中で、機関投資家についてのスチュワードシップ・コードが作られており、機関投資家が株主権を行使して、会社との建設的対話を積極化して会社の事業活動の活性化に貢献することが求められている。

 「責任ある機関投資家の諸原則」と題される日本版スチュワードシップ・コード(平成29年5月29日 スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会)は、その第5項で、「機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。」とし、議決権の行使に当たっては、投資先企業の状況や当該企業との対話を行い、その内容等を踏まえて、議案に対する賛否を判断すべきとしている。

 機関投資家のみならずその他の株主を含めて、株主が日本版スチュワードシップ・コードの行動準則を実践して会社に対する監督権を行使して、会社の持続可能な発展と会社価値を向上させることに寄与していくことが必要と考えられる。



[1] アメリカの場合は、利益を上げないCEOに対して、株主の圧力が働き、CEOの交替につながると言われる。株主の圧力によりCEOが辞めさせられることは、株主が究極の権力者としてCEOに対する監督を果たしていると言えよう。日本の場合は、「高い利益を上げない代表取締役は、株主の圧力により、代表取締役を交代させられる。」という命題は必ずしも当てはまるとは言えない。そのことの理由に、株主に持続可能な発展を図ることへの理解があるという点をあげることができるかもしれないが、株主の代表取締役への圧力がアメリカほど強くないことは否定しがたい。会社の持続可能な発展を図ることと会社価値を向上させるために株主の会社への働きは強化する必要があるという認識が、日本版スチュワードシップ・コードを作る動機となっている。

 

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