チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(4)
首都東京法律事務所
弁護士 饗 庭 靖 之
5 取締役会の存在意義
株式会社の執行機関とされている取締役会によるコーポレートガバナンスを機能させることを検討する。
そのためにまず、株式会社が執行機関を取締役会とすることの必要性を明らかにする。
日本を含めて世界的に成立している株式会社において、会社の業務執行を決定する「経営機能」と代表取締役など業務執行者の業務執行を「監督する機能」を併せ有する機関として取締役会を設置することが、株式会社の原則とされているが、それは、株式会社が有限責任の資本制度をとっているからだと考えられる。
株式会社の源流はイギリスの東インド会社にあると言われるが、そのことを得心させるのは、株式会社制度が、事業参加者のリスクを会社への出資金に限定していることによって、冒険主義的な事業を営むことに適合的だからである。
株式会社制度が、株主という事業参加者のリスクを出資金に限定していることは、新規の革新的な事業を興すのに適合的であり、新たな事業を企てるエネルギーを引き出し、世界の経済発展に大きな役割を果たしている。
しかし、株主のリスクが出資金に限定されるという有限責任制により、株主の損失には出資額という制限があるものの、株主の受け取る利得には上限がないため、株式会社は、リスクをおそれず利益の獲得を目指すことにインセンティブが働くことになり、自然とリスクをオーバーテイクすることとなる。このため、会社がリスクをオーバーテイクする行動をしがちになることに対して、慎重に考慮し、リスクをオーバーテイクする行動を抑制する方法として、取締役という対等な発言力を持った者の取締役会での合議による慎重な意思決定と、代表取締役など業務執行者が業務執行において独断と暴走をしないように監督を行う必要がある。
また、会社所有者である株主とは別に執行機関が設けられていることにより、所有と経営が分離しているという株式会社の構造が、株主の目が届かないところでは、執行機関がさぼって何もしないという無責任状態に陥ったり、業務執行者が業務執行にかこつけて自己の利益を追求する危険を生じるおそれがある。このとき、執行機関を一人で担うとすると、執行機関が何もしないという無責任状態に陥ったり、業務執行者が自己の利益を図る危険が生じる。このため、執行機関が会社の利益を追求することだけを目的として、精力的に事業活動を行うことを持続させる方法として、執行機関を取締役会にし、取締役の合議制による慎重な意思決定と、業務執行者が無気力に陥ったり背任行為に走らないように監督させることとしているものである。
取締役会が、以上のように、取締役という対等な発言力を持った者の合議制により、業務執行について慎重な決定を行うとともに、取締役会が代表取締役をはじめとする業務執行者の監督を行うのは、代表取締役をはじめとする業務執行者の独断と暴走と無気力と背任を防ぐという意味がある[1]。
[1] 取締役会が業務執行者を監督するという機能は、オーナー型企業のように、支配株主と代表取締役が一致する企業では必要ないかという点は、オーナー型企業では株主とは別に執行機関があるという所有と経営の分離の度合いが他の会社とは異なっているが、オーナー型企業における支配株主も、有限責任制をとる株式会社制度の下で、オーバーリスクをとるインセンティブが働くことから逃れられないため、取締役会が合議制による慎重な意思決定を行い、代表取締役をはじめとする業務執行者の独断と暴走を防ぐ必要性がある。