◇SH1884◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(76)―企業グループのコンプライアンス⑨ 岩倉秀雄(2018/06/05)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(76)

―企業グループのコンプライアンス⑨―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、企業グループのコンプライアンス施策の具体策を検討した。

 企業グループのコンプライアンスを具体的に推進するためには、まずグループ全体を対象とする企業行動憲章を策定し、取締役会で採択した後、取組み具体策をコンプライアンスプログラムにおとしこみ、研修等で周知徹底し実行する。

 その際、各子会社のコンプライアンスプログラムは、各子会社が(必要により親会社の支援を得て)自社の実情に合わせて、主体的に策定する必要がある。

 コンプライアンス担当役員や担当部署は、親子会社ともに設置し、グループのコンプライアンス重視の姿勢を示し他部門(子会社)へのパワーを発揮しやすくするために、親会社は可能な限り上位の役員が担当し、担当部署には優秀な社員を配置する必要がある。

 今回は、グループ全体のコンプライアンス推進体制とコンプライアンス人事評価について考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑨:グループ全体のコンプライアンス推進体制とコンプライアンス人事評価】

3. グループ全体のコンプライアンス推進体制

 コンプライアンス担当役員とコンプライアンス担当部署の設置に続いて、代表取締役社長またはコンプライアンス担当役員を委員長とし、各部門の役員クラスや子会社の代表取締役社長又は担当役員が委員となり、親会社のコンプライアンス部門を事務局とするコンプライアンス委員会のようなグループ全体でコンプライアンスを推進する組織を設定することが重要である。

 子会社の社長または担当役員は、この委員会に出席して自社のコンプライアンスの取組みを報告するとともに、グループ全体のコンプライアンスに対して意見を述べることにより、子会社はグループ全体のコンプライアンス方針や重点活動計画に意見を反映させるとともに、情報と認識の共有化を図ることができる。

 また、子会社は、グループ全体の方針や重点活動計画を踏まえ、グループの方向性と整合性のとれた、自社の実情に合ったコンプライアンス方針や重点活動計画を策定・実施する。

 これにより、コンプライアンスに関するグループの足並みを揃え、かつ各社の実情に適合する柔軟なコンプライアンス経営を推進できるようになる。

 なお、コンプライアンスを現場レベルまで浸透させるためには、コンプライアンス委員会のような経営レベルの組織の他に、委員会の決定を受けて現場のコンプライアンス活動を推進する実行組織が必要である。

 この組織は、日常の現場のコンプライアンス活動を主体的に推進できるように、部長、事業部長、工場長、支店長等、部門の長を責任者とし、課長クラスをコンプライアンスリーダーとして設定することが考えられる。

 そして、現場のコンプライアンス実行組織ごとに、経営レベルのコンプライアンス方針や重点活動計画を踏まえた各現場レベルのコンプライアンス方針とその実行計画を策定し実行する。

 これにより、組織の隅々までコンプライアンス活動を主体的に実施する体制が構築され、企業グループ全体のコンプライアンスが、本社と現場、親会社と子会社で、統一感と主体性を持って実効的に推進できる。

 一方、コンプライアンス部門は、現場や子会社のコンプライアンス推進組織に対して、各推進組織(子会社)のコンプライアンス方針や実行計画の進捗状況の報告を受け、必要により助言することでコミュニケーションを密にし、企業グループ全体のコンプライアンス活動に対する進捗管理を効果的に行うことができる。

4. コンプライアンス人事評価

 人事評価は、組織が重視する価値が何かを最も明確に示す。

 組織文化の視点で言えば、理論上は組織文化に最も適合する者の評価が高く、適合しない者の評価が低くなるとも言える[1]

 人事評価においてコンプライアンスの取組みを評価項目とすることは、組織がコンプライアンス重視の組織文化を形成する意思を示すことになる。

 組織の成員は、経営トップが「コンプライアンスは重要だ」と言ったとしても、それが建前なのか本気なのかは、人事評価に反映されているかどうかで判断する。

 したがって、企業グループのコンプライアンスを強力に進めるためには、企業グループ全体に対するコンプライアンス人事評価を導入する必要がある。

 親会社から子会社に出向している子会社の役員や経営幹部の人事評価に、子会社におけるコンプライアンスへの取組み状況を取り入れることや、親会社・子会社のそれぞれの人事評価体系にコンプライアンスへの取組姿勢を取り入れることにより、グループ全体のコンプライアンス経営へのインセンティブを高める効果もある。

 また、評価に反映するだけではなく、同時にコンプライアンス違反に対する懲戒を厳格に実施することも重要である。コンプライアンス違反の見過しは、結局、コンプライアンス軽視のシグナルを発信することになるからである。

 

 次回は、企業グループとしてのコンプライアンス研修の在り方について考察する。



[1] 現実には必ずしもそう言えない場合もある。例えば営業部門や生産部門等のように、評価を数字で明確に説明できる場合には、不当な評価に対する反論が可能だが、管理的な部門では人事評価に恣意的要素が入っても、リアクションを考慮して反論しない(できない)こともある。また、合併組織の人事評価では、評価が出身会社主義に陥りやすいことは既述した通りである。 

 

 

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