◇SH1568◇会社法339条2項の解釈の検討(3) 岩本文男(2017/12/27)

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会社法339条2項の解釈の検討(3)

--東京地裁平成29年1月26日判決の検討--

近畿大学法科大学院准教授

弁護士 岩 本 文 男

 

第3 検討

1 本判決の意義

 本判決は、結論としては、取締役の解任に正当な理由がないとして原告の損害賠償請求を認めたものである。判決内容のうち、「正当な理由」の解釈や損害の範囲については、基本的に従来の判例・通説に沿った判断を行ったものと評価できるが、損害についての判断には、従来あまり議論されてこなかった点についての判示がなされている。

 

2 339条2項の法的性質について

 会社法339条2項の法的性質について、判例・通説は、同項の責任は、株主総会による解任の自由の保障と取締役の任期に対する期待の保護との調和を図る趣旨で定められた特別の法定責任であると解している[iii]

 本判決は、第2回第2の3(1)アで述べたとおり、判例・通説である法定責任説をとることを明らかにしている。

 

3 解任の正当理由について

(1) 「正当な理由」の意義

 法定責任説に立った場合、「正当な理由」の内容は、株主総会による解任の自由の保障と取締役の任期に対する期待の保護との調和を図るという同項の趣旨を踏まえて解釈されることになり[iv]、「取締役に職務を執行させるにあたり障害となるべき状況が客観的に生じた場合[v]」「会社において取締役としての職務の執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない、客観的、合理的な事情が存在する場合[vi]」等といった表現で説明される。

 そのうえで、正当な理由の具体例としては、職務執行上の法令・定款違反行為、心身の故障、能力の著しい欠如や独断的職務執行等の職務への著しい不適任などが「正当な理由」に含まれると解されている[vii][viii]

 他方、大株主の個人的な好みで解任された場合、大株主と取締役との間に生じた私的な紛争を理由に解任された場合、役員としてより適任な者がいる場合というような単なる主観的な信頼関係の喪失は、「正当な理由」に当たらないと解するのが学説の多数説であるとされ[ix]、それに沿う裁判例も存在する[x]。もっとも、解任された取締役の行為の悪性の程度によっては、解任に正当な理由が認められる可能性があると考えられている[xi]

(2) 本件における正当な理由の有無

 本判決は、上述のとおり、法定責任説を前提として、「正当な理由」の意義について、「会社において、当該役員に役員としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情があることをいう」と判示したうえで、被告らが主張した事由について、正当な理由は認められないとしている。 

 本件では、確かに、原告には、完全親会社である被告Y1やZグループの方針に従わないような言動はみられるが、その程度や内容、原告が在任してからの被告Y2の業績等の状況からすれば、そうした原告の言動をもって、「会社において、当該役員に役員としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情がある」とまではいえないと思われる。よって、「正当な理由の有無」に関する本判決の判断は、従来の判例・通説の枠組みに沿った判断であると評価できる。



[iii] 岩原紳作編『会社法コンメンタール7 機関(1)』(商事法務、2013)528頁〔加藤貴仁〕。大阪高判昭和53・1・30下民集32巻1-4号17頁。

[iv] 加藤・前掲注[iii] 534頁。

[v] 近藤光男「会社経営者の解任」江頭憲治郎編『鴻常夫先生還暦記念・八十年代商事法の諸相』(有斐閣、1985)404頁。

[vi] 東京地判平成8・8・1商事1435号37頁。

[vii] 最判昭和57・1・21判時1037号129頁、前掲東京地判平成8・8・1、東京高判昭和58・4・28判時1081号130頁、秋田地判平成21・9・8金判1356号59頁、加藤・前掲注[iii] 535~536頁、江頭憲治郎『株式会社法〔第6版〕』(有斐閣、2015)396頁。

[viii] 経営判断の失敗を「正当な理由」に含めるかについては争いがある。

[ix] 加藤・前掲注[iii] 537頁。

[x] 前掲大阪高判昭和56・1・30、東京地判昭和57・12・23金判683号43頁、名古屋地判昭和63・9・30判時1297号136頁。

[xi] 加藤・前掲注[iii] 537頁、大阪地判平成10・1・28労判732号27頁、東京地判平成18・8・30労判925号80頁。

 

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