◇SH1341◇実学・企業法務(第71回) 齋藤憲道(2017/08/10)

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実学・企業法務(第71回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

Ⅲ 間接業務

2. 人事・勤労

〔考課、昇格〕
 企業が事業で活力を十分に発揮するためには、個々の社員等を適切に(可能であれば同じ基準で)評価して、優秀な人材を幹部に登用する仕組みを確立し、それを社員等に示すことが重要である。

 所在地(国等)・担当事業・担当職能等によって考課・昇格の基準が異なると、社員の業績貢献度の評価について全社的コンセンサスを形成することが難しくなり、社内の一部で考課・昇格に対する不協和音が生まれる。特に、グローバル企業では、グループ幹部社員の選考・昇格について多くの社員の理解を得られず、執行部が求心力を失って企業活力が低下するおそれがある。

 企業の創業者は、創業期に全ての職能を体験するので、どのような職能でも勘が働くが、学校卒業の直後に一定規模の企業に就職した者には、営業、技術、製造、人事、経理等の中の特定分野の経験を積む機会しかない。しかし、限られた範囲の経験だけでは、事業全体を経営する力は育ち難い。業務の専門細分化が進んだ大企業ほど、優秀な経営者を選ぶのが難しいといえる。

 多くの場合、社員の考課は1次上司、2次上司等の上位職が行うが、これに別部署の社員の評価を加える方法や、多面評価(360度評価)のように上司・部下・別部署の業務関係者が参画する試みもある。今のところ、絶対的に優れた方法はなく、それぞれの企業の現状に応じて最適の方法が採られている。

 企業に必要な知見と資質を有する次期経営幹部の選定を使命とする取締役会の指名委員会[1]には、考課・昇格に関する具体的な指針を示すことが期待される。

〔労働安全衛生、労災対応〕
 どの企業も、労働災害防止措置を講じるとともに、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を増進することに努めている。

 また、労働安全衛生法は、事業場の規模等に応じて選任する総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医等に労働者代表[2]が加わる安全衛生委員会等の設置を義務付ける[3]

 事業場の安全衛生水準の向上を実現するために、「PDCAサイクル」管理を軸にする経営手法の開発・普及の取り組みが、国の内外で進められている。例えば、厚生労働省は1999年に「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(OSHMS指針)[4]」を発行し[5]、ILO(国際労働機関)が2001年に「労働安全衛生マネジメントシステムに関するガイドライン」OSHMS[6]を公表した。

 また、「労働安全衛生マネジメントシステム(OHSAS18001)[7]」の第三者認証を取得する企業もある。

 万一、労働災害が発生した場合は、事故が発生した職場の責任者とともに人事部門が窓口となって被災者に対応する。

 日本では、労働災害によって労働者が死亡・休業した場合、事業者は遅滞なく労働基準監督署長に「労働者死傷病報告」等を提出しなければならない[8]

 負傷等した労働者は、労災保険給付の請求を労働基準監督署長宛に行い、調査を経て、休業補償給付等の給付受けることができる。

 ただし、休業4日未満の労働災害については使用者が休業補償しなければならない。



[1] 会社法400条1項、404条1項

[2] 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の推薦に基づいて指名する。

[3] 労働安全衛生法10条、11条、12条、13条、15条、19条

[4] 労働安全衛生規則24条の2に基づき、厚生労働省が示した指針(平成11年労働省告示第53号)。

[5] 2006年3月改正

[6] Occupational Safety and Health Management Systemの略。

[7] 英国規格協会(BSI)が世界の認証機関・認定機関に呼び掛けて形成した国際フォーラムで作成された認証用の規格。2018年頃、OHSAS18001を基に作成中の国際規格ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)が発行される見込み。

[8] 労働基準法施行規則第57条、労働安全衛生規則第97条

 

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