◇SH1902◇最二小判(山本庸幸裁判長)未払賃金等支払請求事件、地位確認等請求事件 齋藤弘樹(2018/06/13)

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最二小判(山本庸幸裁判長)未払賃金等支払請求事件、地位確認等請求事件

岩田合同法律事務所

弁護士 齋 藤 弘 樹

 

はじめに

 最高裁判所は、本年6月1日、いわゆる正社員と非正社員の雇用条件における格差の適法性が問われていた二つの事件について、判決を下した。奇しくも今国会に提出されている働き方改革法案が成立した暁には、いわゆる同一労働同一賃金に係る新規制の導入がなされることとなり、企業の労務管理にとって重要な判決であることもあって、これらの判決は、広く報道された。しかしながら、その判断内容は、個別の事案に即した内容のそれなりに複雑なものでもあり、理解が必ずしも容易ではないと思われる。そこで本稿では、両事件について、下級審からの経緯も含めて分析した上で、働き方改革法案により導入が予定される新規制との関係も含めて、若干の検討を試みる。

 

1 各最高裁判決の概要

  1. ⑴ 平成28年(受)第2099号、第2100号 未払賃金等支払請求事件(以下、本稿において「事件1」と呼ぶ。)
  2.    事件1は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社Y1との間で有期労働契約を締結して配車ドライバーとして勤務していたX1が、X1と正社員(Y1と無期労働契約を締結している労働者)との間で、下表1記載の相違があることは労働契約法20条に違反しているなどと主張して、Y1に対し、①下表1記載の「本件賃金等」につき、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②正社員に支給された下表記載の「本件諸手当」とX1に支給された「本件諸手当」の差額につき、主位的に労働契約に基づく賃金請求として、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求として、支払いを求めた事件である。
  3.    事件1の地裁、高裁、最高裁における判断の概要は下表1記載のとおりであり、最高裁は皆勤手当について高裁と異なる判断を示した。

 

【図表1】

(〇:労働条件の相違が、労働契約法20条に違反する、
×:同条に違反しない、‐:判断せず)

労働条件の相違が「不合理と認められるもの」に当たるか否か 地裁 高裁 最高裁
本件賃金等のうち、本件諸手当      
無事故手当 ×
作業手当 ×
給食手当 ×
住宅手当 × × ×
皆勤手当 × ×
通勤手当
本件賃金等のうち、それ以外      
家族手当 ×
賞与 ×
定期昇給 ×
退職金 ×
請求に対する判断      
労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合に、同条の効力によって比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるか否か(正社員と同一の労働条件の確認請求及び労働契約に基づく賃金請求について) ならない ならない ならない
労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合に、不法行為に基づく損害賠償請求が可能か否か 可能 可能 可能

 

  1. ⑵ 平成29年(受)第442号 地位確認等請求事件(以下、本稿において「事件2」と呼ぶ。)
  2.    事件2は、セメント、液化ガス、食品等の輸送事業を営む株式会社Y2との間で、無期労働契約を締結し、バラセメントタンク車(以下「バラ車」という。)の乗務員として勤務していたが、Y2を定年退職した後に有期労働契約を締結し、それ以降もバラ車の乗務員として勤務していたX2、X3、X4が、正社員(Y2と無期労働契約を締結している労働者)との間で、下表2記載の相違があることは労働契約法20条に違反しているなどと主張して、Y2に対し、正社員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、上記就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額につき、主位的に労働契約に基づく賃金請求として、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求として、支払いを求めた事件である。
  3.    事件2の地裁、高裁、最高裁における判断の概要は下表2記載のとおりであり、最高裁は精勤手当及び超勤手当について高裁判決と異なる判断を示した。

 

【図表2】

(〇:労働条件の相違が、労働契約法20条に違反する、
×:同条に違反しない)

労働条件の相違が「不合理と認められるもの」に当たるか否か 地裁 高裁 最高裁
能率給 一括して〇 一括して× ×
職務給 ×
精勤手当
住宅手当 ×
家族手当 ×
役付手当 ×
超勤手当
賞与 ×
請求に対する判断      
労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合に、同条の効力によって比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるか否か(正社員と同一の労働条件の確認請求及び労働契約に基づく賃金請求について) 就業規則の解釈を通じて認める 労働契約法20条違反はないとして判断せず ならない
労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合に、不法行為に基づく損害賠償請求が可能か否か 主位的請求が認容されたため判断せず 労働契約法20条違反はないとして判断せず 可能
 

 

2 事件1及び事件2の最高裁判決の解説

(1) 労働契約法20条について

 労働契約法20条は、有期労働契約労働者の労働条件が無期労働契約労働者の労働条件と相違する場合において、当該労働条件の相違について、①職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情、を考慮して、「不合理と認められるもの」であってはならない旨、定めており、事件1及び事件2はいずれも労働契約法20条違反の有無及びその効力が問題になった。

(2) 事件1及び事件2の労働契約法20条に関する判断のポイント

 事件2においては、地裁及び高裁が個々の賃金項目ごとに判断をせず、全体を包括して「不合理と認められるもの」であるか否かを判断していたが、最高裁は「両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、個々の賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」と判示して、判断方法を示した。

 また、労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合の効力について最高裁判決は存在せず、この点については学説上も意見が分かれていたが、事件1、事件2の最高裁判決はともに、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない旨判示し、同条違反の効力について、最高裁として初めて判断を示した。

 その上で、労働契約法20条の立法時の議論及び学説上は、同条に違反する取扱いは不法行為上の違法となると言われていたが、事件1、事件2の最高裁判決はともに、この点につき、最高裁として初めて不法行為が成立する旨の判断を示した。

 

3 企業が留意すべき事項

 働き方改革の一環として今年4月に提出された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」の中には有期雇用労働者の均等待遇に関する法律案も含まれており、企業としてはその動向について注目していると思われるが、現行法下における司法判断も続く見込みである(たとえば、事件1及び事件2の他にも、メトロコマース事件(東京地判平成29年3月23日・労働判例1154号5頁)や日本郵便事件(東京地判平成29年9月14日・労働判例1164号5頁)についても控訴審の審理が継続しているようである。)。上記法律案は、なお予断を許さないものの、今国会において成立する可能性も高い。上記法律案により導入される新規制と、現行法下における司法判断との関係を如何に捉えるべきであるのかは、現時点では必ずしも明らかでなく、慎重な検討を要すると考えられる。いずれにせよ、非正規雇用の問題はわが国の企業、より大きく社会全体の重要テーマの一つであり、今後、企業としては、十分な検討のうえで、慎重に対応すべきことになろう。

以 上

 

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