金融庁、「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表
――機関投資家と企業の対話において重点的に議論することが期待される事項――
金融庁は6月1日、「投資家と企業の対話ガイドライン」を確定し、公表した。
「投資家と企業の対話ガイドライン」については、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(座長=池尾和人・立正大学経済学部教授)において、本年3月に、コーポレートガバナンス・コードの改訂と、機関投資家と企業の対話において重点的に議論することが期待される事項を取りまとめた「投資家と企業の対話ガイドライン」(以下、「対話ガイドライン」)の策定を行うことが提言されていたところである。
同提言の基本的な考え方は、下記の5項目として示されていた。
- ① 経営環境の変化に対応した経営判断
- ② 投資戦略・財務管理の方針
- ③ CEOの選解任・取締役会の機能発揮等
- ④ 政策保有株式
- ⑤ アセットオーナー
同提言に沿って、東京証券取引所でコーポレートガバナンス・コードの改訂、金融庁で対話ガイドラインの策定を行うこととされた。このうち、金融庁では、3月26日から4月29日まで、対話ガイドライン案について意見募集を行い、これを踏まえて確定したものである(コーポレートガバナンス・コードの改訂については、別稿参照)。
対話ガイドラインは、その前文において、「本ガイドラインは、コーポレートガバナンスを巡る現在の課題を踏まえ、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードが求める持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた機関投資家と企業の対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたもの」であるとされ、「これらの事項について建設的な対話が行われることを通じ、企業が、自社の経営理念に基づき、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現し、ひいては経済全体の成長と国民の安定的な資産形成に寄与することが期待される」としている。
そして、「本ガイドラインは、両コードの附属文書として位置付けられるもの」であり、「企業がコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施する場合や、実施しない理由の説明を行う場合には、本ガイドラインの趣旨を踏まえることが期待される」としている。
以下、対話ガイドライン(本文)を紹介する。
「投資家と企業の対話ガイドライン」
1. 経営環境の変化に対応した経営判断
1-1.持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するための具体的な経営戦略・経営計画等が策定・公表されているか。また、こうした経営戦略・経営計画等が、経営理念と整合的なものとなっているか。
1-2.経営陣が、自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているか。その上で、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、収益力・資本効率等に関する目標を設定し、資本コストを意識した経営が行われているか。また、こうした目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか。中長期的に資本コストに見合うリターンを上げているか。
1-3.経営戦略・経営計画等の下、事業を取り巻く経営環境や事業等のリスクを的確に把握し、新規事業への投資や既存事業からの撤退・売却を含む事業ポートフォリオの組替えなど、果断な経営判断が行われているか。その際、事業ポートフォリオの見直しについて、その方針が明確に定められ、見直しのプロセスが実効的なものとして機能しているか。
2. 投資戦略・財務管理の方針
2-1.保有する資源を有効活用し、中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資・研究開発投資・人材投資等が、戦略的・計画的に行われているか。
2-2.経営戦略や投資戦略を踏まえ、資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定・運用されているか。
3. CEOの選解任・取締役会の機能発揮等
【CEOの選解任・育成等】
3-1.持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、経営環境の変化に対応した果断な経営判断を行うことができるCEOを選任するため、CEOに求められる資質について、確立された考え方があるか。
3-2.客観性・適時性・透明性ある手続により、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOが選任されているか。こうした手続を実効的なものとするために、独立した指名委員会が活用されているか。
3-3.CEOの後継者計画が適切に策定・運用され、後継者候補の育成(必要に応じ、社外の人材を選定することも含む)が、十分な時間と資源をかけて計画的に行われているか。
3-4.会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続が確立されているか。
【経営陣の報酬決定】
3-5.経営陣の報酬制度を、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた健全なインセンティブとして機能するよう設計し、適切に具体的な報酬額を決定するための客観性・透明性ある手続が確立されているか。こうした手続を実効的なものとするために、独立した報酬委員会が活用されているか。また、報酬制度や具体的な報酬額の適切性が、分かりやすく説明されているか。
【取締役会の機能発揮】
3-6.取締役会が、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、適切な知識・経験・能力を全体として備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性を十分に確保した形で構成されているか。その際、取締役として女性が選任されているか。
3-7.取締役会が求められる役割・責務を果たしているかなど、取締役会の実効性評価が適切に行われ、評価を通じて認識された課題を含め、その結果が分かりやすく開示・説明されているか。
【独立社外取締役の選任・機能発揮】
3-8.独立社外取締役として、適切な資質を有する者が、十分な人数選任されているか。また、独立社外取締役は、資本効率などの財務に関する知識や関係法令等の理解など、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に実効的に寄与していくために必要な知見を備えているか。独立社外取締役の再任・退任等について、自社が抱える課題やその変化などを踏まえ、適切な対応がなされているか。
3-9.独立社外取締役は、自らの役割・責務を認識し、経営陣に対し、経営課題に対応した適切な助言・監督を行っているか。
【監査役の選任・機能発揮】
3-10.監査役に、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する人材が選任されているか。
3-11.監査役は、業務監査を適切に行うとともに、適正な会計監査の確保に向けた実効的な対応を行っているか。監査役に対する十分な支援体制が整えられ、監査役と内部監査部門との適切な連携が確保されているか。
4. 政策保有株式
【政策保有株式の適否の検証等】
4-1.政策保有株式について、それぞれの銘柄の保有目的や、保有銘柄の異動を含む保有状況が、分かりやすく説明されているか。個別銘柄の保有の適否について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、取締役会において検証を行った上、適切な意思決定が行われているか。そうした検証の内容について分かりやすく開示・説明されているか。政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な基準が策定され、分かりやすく開示されているか。また、策定した基準に基づいて、適切に議決権行使が行われているか。
4-2.政策保有に関する方針の開示において、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方を明確化し、そうした方針・考え方に沿って適切な対応がなされているか。
【政策保有株主との関係】
4-3.自社の株式を政策保有株式として保有している企業(政策保有株主)から当該株式の売却等の意向が示された場合、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げていないか。
4-4.政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行っていないか。
5. アセットオーナー
5-1.自社の企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、母体企業として、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置(外部の専門家の採用も含む)などの人事面や運営面における取組みを行っているか。また、そうした取組みの内容が分かりやすく開示・説明されているか。
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金融庁、「投資家と企業の対話ガイドライン」の確定について(6月1日)
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20180601.html -
○ 別紙1 投資家と企業の対話ガイドライン
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/01.pdf -
○ 別紙2 対話ガイドライン案に対するご意見の概要及びそれに対する回答
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/02.pdf -
金融庁、「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」の公表について(3月26日)
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20180326-1.html -
参考
SH1900 コーポレートガバナンス・コードの改訂(2018年6月1日) 田中貴士(2018/06/12)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=6394699 -
SH1739 金融庁、東証、「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」 村上雅哉(2018/04/03)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=5808985