JASRAC、BGMを利用する美容室などの店舗に対して全国一斉に法的措置
岩田合同法律事務所
弁護士 堀 田 昂 慈
JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)は、平成29年6月13日、店舗においてBGMを利用する美容室など、178事業者、352店舗に対し、全国一斉に民事調停を申し立てたことを公表した。JASRACは、平成27年6月9日、平成28年6月7日にも同様の措置を行っており、これが3度目の措置となる。
本稿では、店舗におけるBGM利用に係る著作権法上の権利関係について解説する。
著作権法は、第21条ないし第28条において、著作権(著作財産権)の内容を利用態様別に規定しており(支分権)、著作権者は、各条に規定された要件を満たす範囲で、著作物を独占的に利用することが認められている。そのうち、著作権法第22条においては、著作権者が、「公衆に」「直接」「聞かせることを目的として」演奏する権利(演奏権)が規定されており、著作権者は、かかる態様での演奏を独占的に行う権利を有している。そのため、著作権者以外の者は、原則として、著作権者の許諾を得ることなく、かかる態様で著作物を演奏することが禁止され、これに反して演奏を行った場合には、著作権者は、演奏行為の差止請求(著作権法第112条)や損害賠償請求(民法第709条[1])等を行うことができる[2]。
しかるに、店舗においてBGMを利用することは、録音された音源を用いて、店舗内に立ち入る「公衆に」「直接」「聞かせることを目的として」演奏する行為に該当するため、使用された楽曲について著作権を有する著作権者は、演奏行為の差止請求や損害賠償請求を行い得ることとなる。
そして、JASRACは、原著作者や音楽出版社との間で著作権信託契約を締結して原著作権者から著作権の信託を受け、著作権者として管理業務を行っているため、JASRACに著作権が信託された楽曲が店舗においてBGMとして使用された場合には、JASRACが主体となって差止めや損害賠償を求めることができる。そこで、本件の民事調停の申立てに至ったのである。
なお、店舗におけるBGM利用の規制については、過去の著作権法の改正過程の中で大きく変更されてきた経緯がある。詳細は表1のとおりであるが、概説すれば、旧著作権法時代には、機械的録音物を興行又は放送の用に供することが認められていたため、BGM利用は当然に認められていた。その後、昭和45年に旧著作権法が改正され、現行著作権法が制定された時点で、BGM利用は原則的には演奏権を侵害するものとして禁止の対象となった。もっとも、同改正時点においては、経過規定として附則第14条が制定されたことによりこの根拠規定が効力を有し続けたため、使用可能な状態は継続していた。しかし、平成11年の著作権法改正により、附則第14条が削除されたため、BGM利用が全面的に禁止されることとなって現在に至る。
JASRACは、平成29年2月2日、楽器教室における演奏等についても管理を開始する旨を正式に発表しており、また、今回の全国一斉措置を公表するに際しても「今後も引き続き、各業界団体やBGM音源提供事業者との協力関係を構築していくなど、BGMの適法利用促進のための様々な取り組みを推進してまいります。」とするなど、著作権の管理を強化する姿勢を見せている。
また、楽曲の著作権については、従前はJASRACが一元的に管理を行っていたが、平成13年に著作権等管理事業法が施行されたことによりJASRAC以外の著作権等管理事業者の設立が認められ、現在では株式会社NexTone(http://www.nex-tone.co.jp/)等JASRACとは異なる著作権等管理事業者が現れており、著作権管理の実態は複雑化している。
そのため、事業者としては、今後、著作権に関するコンプライアンスについても、一層の注意を払っていく必要があると考えられる。
時期 | 規制内容 |
昭和9年 【旧著作権法改正】
|
旧著作権法第30条第1項第8号を制定した。 機械的録音物を興行又は放送の用に供することは、著作権侵害に該当しないとされた。 これにより、店舗において、機械的録音物を用いたBGMを利用することが明示的に認められた。 |
昭和45年 【著作権法改正(現行著作権法制定)】 |
著作権法第22条を制定するとともに、旧著作権法第30条第1項第8号を撤廃した。 著作権法第22条の要件を満たす演奏行為は原則として著作権侵害に該当するとされた。ただし、併せて附則第14条が制定され、音楽喫茶、キャバレー、演劇等で演奏する場合を除き、旧著作権法第30条第1項第8号が引き続き効力を有するとされたため、例外的措置として、機械的録音物を興行又は放送の用に供することは、著作権侵害に該当しないとされた。 これにより、上記3業種を除いて、店舗において機械的録音物を用いたBGMを利用することは、引き続き認められていた。 |
平成11年 【現行著作権法改正】
|
著作権法附則第14条を撤廃。 これにより、店舗においてBGMを使用することは、著作権法第22条に規定する演奏権を侵害するものとして、原則として禁止されることとなった。 |
[1] 損害賠償請求については、損害額の推定規定が存在する(著作権法第114条)。
[2] ただし、例外として、著作権の保護期間(原則として、著作者の死後50年間)が経過した著作物(著作権法第51条ないし第58条参照)を演奏することや、営利を目的としない演奏(著作権法第38条)等は認められる。