◇SH1913◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(80)―企業グループのコンプライアンス⑬ 岩倉秀雄(2018/06/19)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(80)

―企業グループのコンプライアンス⑬―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、企業グループの従業員相談窓口の在り方について述べた。

 従業員相談窓口の設定と運用で特に注意しなければならないのは、誰を対象に、どこに設置し、誰が相談を受け、受けた相談にどう対応するのか、また、相談内容の事実関係をどう確認し報告体制をどうするか等である。

 設置場所は、親会社、子会社、第三者の専門窓口の3種類を設けることで、隠ぺいリスクを回避し、相談者の信頼を得、経営が当事者意識を持って迅速に対応することが可能となる。

 今回は、前回の続きとして、相談体制の設定と運営上の留意点について、筆者の経験を踏まえて考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑬:企業グループの従業員相談窓口②】

7. 企業グループの従業員相談窓口

(2) 相談体制の設定と運営上の留意点

 従業員相談窓口の仕組みは規定に定めておく必要がある。

 その要点は、基本的に「秘密保持」と「不利益扱いの禁止」であり、これは、相談者、問題の解決に協力した者、相談の対象者の全員に適用される。

 ただし、調査の結果、問題があることが確定した者については、不利益扱いの禁止は適用されず処罰の対象となることや、問題の隠蔽者とこれに加担した者、不利益扱いをした者やこれに加担した者も、処罰の対象になることを明記しておく必要がある。

 また、従業員は、特別な事情がない限り原則としてコンプライアンス調査に協力することを就業規則に謳っておくことも必要である。

 なお、某社の経営トップが主導した不正経理事件では、従業員相談窓口に上司の不正を告発した者が、逆に不利益扱いを受け、これを告訴して裁判で勝訴したケースがあるが、企業の組織風土に問題がある場合には、いくら規定があっても効果がない。

 ただし、同社のケースは稀であるので、一般には、コンプライアンスプログラムの一環として従業員相談窓口に関する規定を定めておくことは、相談者への組織としての約束であり、従業員相談窓口への信頼を得ることにつながる。

 従業員相談窓口を周知徹底する方法としては、文書による通知の他に、研修、イントラネットやメルマガの活用、朝礼や会議での説明、規定化、グループコンプライアンス・アンケートでのチェック、内部監査・監査役監査におけるコンプライアンスの周知徹底の確認・検証等、の方法が考えられる。

 従業員相談窓口の運営では、相談対応者の人数が限られているにもかかわらず、大量の相談によりコンプライアンス部門のキャパシティを超えることが想定される場合には、通常の相談は直属上司や部署ごとのコンプライアンスリーダー、コンプライアンス責任者によることとし、それでも解決できない、あるいは相談するにふさわしくない性質の案件を従業員相談窓口へ相談することとすれば、コンプライアンス部門はオーバーワークにならずに対応ができるようになる。

 すなわち、従業員相談窓口を、通常の意思決定プロセスルートでは解決困難な問題の特別相談窓口として位置づけるのである。

 そのためには、組織機構上相談を受ける者に対して、従業員からの相談に対応する際の注意事項を周知徹底しておくことがリスク管理上重要である。

 そのため、管理職対象のコンプライアンス研修では、従業員からの相談の受け方の研修が重要になる。

 特に、公益通報者保護法では「従業員等が上司に相談した場合にも会社に相談したことになる」ことから、現場及び子会社における迅速な対応や親会社のコンプライアンス部門に対する報告の義務付けは、企業グループにとって外部通報リスクを削減するために重要である。

 相談は、専用電話・メール・親展の手紙等により、実名で受け付けるが、やむを得ない場合には匿名でも受け付け、匿名の場合には調査に限界があることを明示する。

 従業員相談窓口の対応は、コンプライアンス部門の管理職や部門長が行い、コンプライアンス担当役員と相談しつつ進める。その際、窓口担当者は相談を真摯に聞く態度を示し門前払いの姿勢を示してはならない

 また、事実関係のメモを取り、後に報告書を作成する際に活用する。

 相談を受けた時には、相談者の誤解を防ぐために、従業員相談窓口の仕組みを、再度、説明し、相談は仕組みに則り処理されることを確認する。

 また、相談内容を鵜呑みにせず、必ず事実関係の裏付け調査を行う必要がある。

 大抵の場合にはそうではないが、時には、相談者が従業員相談窓口を悪用する場合や、ささいなことを大きく訴える場合もあるからである。

 調査の際には、事実関係の把握に必要な最低限の人数の人々に協力を得るために相談内容を明らかにしなければならない場合があるので、秘密保持の範囲について、あらかじめ相談者の了解を得ておく必要がある。

 もし、確認をしなければ、相談者の想定範囲を超えたとして後のトラブルのもとになる可能性があるからである。

 また、相談内容の調査の進捗具合については、頻繁に連絡を入れることが相談者の不安を減少する上で効果がある。

 相談者によっては、通常考えられない内容の相談をする者もいることを踏まえて、相談対応者はあわてず、冷静に対応する必要がある。

 親会社のコンプライアンス部門は、子会社の従業員相談窓口の相談内容について、子会社の当該部門から定期的に報告を受け、問題の重要性、専門性、緊急性等を鑑み、必要により迅速かつ積極的に、子会社と連携し問題解決を支援する必要がある。

 

 次回は、相談の受付範囲と監査との連携について考察する。

 

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