企業法務フロンティア
デューデリジェンスは免罪符ではない
――パナソニックアビオニクス事件を題材に――
日比谷パーク法律事務所
弁護士 小 川 直 樹
デューデリジェンス(「DD」)という言葉は、多くの読者にとってなじみのあるものであろう。要するに、何か法的なアクションをとるときには、十分調査をせよということであり、現在では、調査そのものを指す言葉として使われることが多いと思われる。しかし、忘れてはならないのは、DDは手段に過ぎないということである。DDとは、実施を検討している法的アクションのリスクを把握し、本当にその法的アクションをとってよいのかを判断するための手段である。しかしあくまで手段にとどまるのであり、DDさえ経ていれば何をしてもよいというものでもない。重要なのは、DDにより得た情報を踏まえ、適切な判断を下すということである。
何を今更当たり前のことを言っているのか、と思われたかもしれない。筆者も全く同感だ。ところが、である。
2018年4月30日、パナソニック及びパナソニックアビオニクス(「PA社」。航空機の客席に設置される娯楽システムの販売等を行う、パナソニックの米国子会社である。)は、米国当局(DOJ及びSEC)に対し、総額約2億8060万ドル(約310億円)にものぼる罰金などを支払うことに合意した[1]。理由は、米国海外腐敗行為防止法(「FCPA」)違反である。ここではFCPAとは何かという点や、事件の詳細には立ち入らない。ここで注目したいのは、①PA社は、社外の販売員等を起用する際、贈賄防止を目的とする非営利業務組織であるTRACE International(「TRACE」)を利用して、当該販売員等について、DDを行っていたという事実[2]、②にもかかわらずPA社は、TRACEから承認されなかった人物(つまり、FCPAの観点から問題がある人物)を、承認された販売員や業者を介在させることによりsub-agentとしてわざわざ起用したという事実[3]である。③のみならず、2012年には米国当局がFCPAリソースガイドを公表し、外部業者の起用に起因する不正リスクがクローズアップ[4]された後もなお、sub-agentを使って問題を隠ぺいする不正行為を取りやめなかった。
結果、パナソニックは、米国当局(SEC)から、PA社における外部業者の起用に関する適切な内部会計統制(”appropriate internal accounting controls”)が欠如していたと断罪され、莫大な勉強料を支払う憂き目に遭ったわけである[5]。
PA社にどのような事情があったのかは、必ずしも明らかではない。しかし、確実なことが一つある。DDを実施したという事実は、それだけではPA社を救わなかったということである。そしてこの事件から我々が得るのは、とりたてて目新しくもない、至極当たり前の教訓である。
DDは、やればいいというものではない。重要なのは、DDにより得た情報を踏まえ、適切な判断を下すということである。
[1] DOJ “Panasonic Avionics Corporation Agrees to Pay $137 Million to Resolve Foreign Corrupt Practices Act Charges” https://www.justice.gov/opa/pr/panasonic-avionics-corporation-agrees-pay-137-million-resolve-foreign-corrupt-practices-act
[2] DPA A-16 available at https://www.justice.gov/opa/press-release/file/1058466/download
[3] DPA A-17 available at https://www.justice.gov/opa/press-release/file/1058466/download
[4] A Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act pp.60, available at https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/guide.pdf
[5] SEC administrative order 34-83128 available at https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/34-83128.pdf