企業法務フロンティア
システム開発における準委任契約のベンダーの債務不履行責任についての考察
日比谷パーク法律事務所
弁護士 上 山 浩
最近のシステム開発契約では、従来は請負で締結していた個別契約を準委任で締結する事案が顕著になってきている。後述するように、その方がベンダーにとってリスクが小さいという理解を前提に、ベンダーがそのような取組みを推進しているためである。
なぜ準委任の方がベンダーにとってリスクが小さいかというと、例えば、要件定義工程の終盤で出来上がった要件定義書をレビューしたら重大な欠陥が判明し、要件定義作業を初めからやり直さなければならなくたった、という場合、請負契約であれば成果物である要件定義書が完成していないので、ベンダーは債務不履行責任を負い、対価を請求することもできない。しかし、準委任契約であれば、要件定義書を完成させる債務は負っておらず、要件定義作業という事務の処理(民法644条)さえ行えば、要件定義書の出来栄えの如何にかかわらず、ベンダーは債務を履行したことになり、対価も請求できるのではないか、という理解が前提になっているからである。しかし、そのような理解は正しいのであろうか。結論からいえば、このような理解は誤り(誤解)であると考えられる。
上記の例のような事案についてベンダーの債務不履行責任の判断が示された判例は見当たらない。そこで、他の分野の類似した事案に関する判例をもとに考察してみたい。
東京地判平29・10・30(金融法務事情2089号82頁)は、本来は課税がなされない事案であるにもかかわらず、給与所得に当たるとして税務申告をしたことが、準委任契約の債務不履行に当たると判断された事案である。本判決は、以下のとおり判示した。
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