チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(11)
首都東京法律事務所
弁護士 饗 庭 靖 之
12 監査役会設置会社における監督機能のあり方
(1) 監査役会設置会社の取締役会の業務執行者への監督機能
会社法は、従来の監査役設置会社に加え、社外取締役による業務執行者に対する監督を取締役会の中心機能に据える指名委員会等設置会社と、取締役会の機能を業務執行者に対する監督のみならず業務執行決定という経営機能に求めるものの社外取締役中心の監査等委員会を持つ監査等委員会設置会社を設けている。
しかし、日本の株式会社制度においては、従来、監査役制度を充実させてきており、監査役設置会社においても、社外取締役を導入してモニタリング機能を付加すれば、新設された二つの会社組織に比べ、遜色あるものとは言えない。
監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社という三種の会社制度は選択可能であって、それぞれの制度の運用における改善が図られることにより、株式会社におけるチェックアンドバランスが図られ、適正な意思決定がなされていくことが期待されている。
(2) 監査役会設置会社における監査役による監査機能
しかし、監査役設置会社が、社外取締役による業務執行者に対する監督を取締役会の中心機能に据える指名委員会等設置会社に比べると、取締役会による業務執行者に対する監督機能は強くない。
このため、監査役設置会社において、取締役会による業務執行者に対する監督機能を強化するためには、社外取締役による業務執行者に対するモニタリング機能を付加することに加え、社外監査役による業務執行者に対する監査機能が発揮されるよう活用していくことが重要である。
監査役や監査役会の職務は、取締役の職務執行を監査することであり、監査は業務監査と会計監査からなる。
業務監査については、監査役には違法性についての監査のみが認められ、妥当性についての監査は認められないと解されている(多数説)が、業務執行者に対するモニタリング機能の強化が言われる中で、監査役が監査を行う際には委縮するべきでなく、積極的な監査活動を行うべきであると考えられる。
監査役については「従業員出身のヒエラルヒー下位の者がなり、人的ヒエラルヒー、能力、情報からも、経営者への監督機能を果たすことが困難である」などと指摘される面などを踏まえて、社外監査役制度が導入された。
取締役会設置会社のうち大会社である公開会社では、常勤監査役・社外監査役を構成員に含む監査役会の設置が義務付けられる。そして監査役の半数以上は、社外監査役でなければならないとされている(会社法335条3項)ので、2人以上の社外監査役を置く必要がある。
(3) 内部統制システムの活用
内部統制システムは、会社の業務が全体として合目的的に統一して遂行されていくことを確保するためのものであるが、会社が違法行為をしないというコンプライアンスを達成する上でも、内部統制システムは重要である。
内部統制システムが米国で始まった当初は、会計監査人が会計監査を行うため必要とした内部牽制のためであったが、次第に、経営者が使用人の業務の効率性・有効性・コンプライアンスを監視するシステムを意味するようになった。現在は、経営者自身も監督の対象とする場合もあり、会社のトップから末端に至る隅々まで、適正に業務が執行され、会社全体が目的に向けて統一的に活動していくことを確保するためのものとなっている。
内部統制は、業務の管理者による社員の業務についての日常的な評価と、日常の業務から独立した視点による内部監査等の独立的な評価が行われることによって運用される。内部統制の結果は、取締役会に報告され、取締役会は必要な是正措置を講じる。
このような内部統制を機能させる内部統制システムは、①ルールの制定、②ルールの教育、③業務過程の記録、④業務過程のモニタリング(事後的チェック)、⑤ルール違反に対する制裁からなる。
内部統制システムの構築は、取締役会がその基本方針を決定し、代表取締役などの業務執行者が、基本方針に従い、内部統制システムの具体的内容を決め、執行運用する(会社法362条4項6号)。
内部統制システムは、取締役会が業務を改善するために設ける組織なので、独任制の監査役が行う監査とは異なる業務とされている。内部統制すること自体が業務執行なので、実際、内部統制システムの構築やその運用状況も、監査役の監査の対象とされている。
しかし、内部統制システムは、監査役制度のないアメリカで発達した制度であるということもあり、監査役の行う監査と業務内容のすみわけの調整をしてできた制度ではないので、内部統制の対象が社員の行う業務すべてとなっており、監査役の監査と業務内容が重複する可能性がある。
したがって、監査役と内部監査がバラバラに活動しているのは二重に業務を行う無駄を生じる可能性があり、一方、内部監査の監査対象を監査役が監査対象から除くとするのも適切ではない。
このため、社外監査役を含めた監査役が監査により、業務執行者を監視する機能を適切に果たすためには、内部監査部門と連携協働すべきであり、公益社団法人日本監査役協会の定める監査役監査基準でも、監査役は、内部監査部門等と緊密な連携を保ち、組織的かつ効率的な監査を実施するよう努めることとされている。
監査役は、内部監査部門自体を監査の対象としつつ、内部監査部門の行う業務結果を自己の監査にも有効に活用して、業務執行者に対する監査を適切に行っていくことが必要とされている。
(4) 社外監査役の監査機能
監査役は、取締役の選任・解任権がない監査機関であり、取締役の業務執行に問題を見出したとき、株主総会に報告して株主総会による処分等を促す等により監査機能を発揮することが求められる。
これに対し、社外取締役は、取締役会の一員として、慎重な合議によって経営判断を行うという役割を担い、監査役の監査するという役割とは異なっている。
しかし、社外監査役と社外取締役は、ともに独立、非執行という点で共通する。代表取締役をはじめとする業務執行者の独断と暴走と無気力と背任を防ぐという任務を果たすことは、代表取締役の人事権に服している社内出身の人よりも、社外出身で、代表取締役から独立している社外監査役や社外取締役が、よくその任務を果たしうる。
このため、社外監査役と社外取締役は、権限行使の仕方に違いがあるものの、社外監査役も、取締役会に出席して、代表取締役等業務執行者に対する監視を行うという役割を果たすことができる。