実学・企業法務(第124回)
法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅰ〕食品
3. 品質管理、法制度
(2) 食品に関する主な法律
③ HACCP支援法 「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」の通称[1]
日本では、1995年(平成7年)の食品衛生法の改正[2]の際に、事業者からの任意の申請に対して厚生労働大臣が承認する「総合衛生管理製造過程の承認制度(食品衛生法13条1項)」が創設され、HACCPに基づく衛生管理方式の普及が図られている。
- (注) 承認を受ける「総合衛生管理製造過程」は、事業者がHACCPの考え方に基づいて自ら設定した食品の製造加工方法及び衛生管理方法である。厚生労働大臣が所定の基準に適合するとして承認した管理方法は、食品衛生法11条1項に基づく基準に適合したものとみなされる[3]。
国は、企業がHACCPを導入するのを支援するために1998年(平成10年)にHACCP支援法を5年間の時限法として制定し、その後2003年と2008年にそれぞれ5年延長、更に2013年に10年延長(現行法は2023年6月末まで有効)して、必要な施設の整備等に要する資金の長期低利融資[4]や税制上の支援を行っている。
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(注) 厚生労働大臣又は農林水産大臣から食品の種類毎に指定された指定認定機関(事業者団体等)が管理の高度化基準を作成し、食品製造事業者が作成する高度化計画を認定する[5]。
〔指定認定機関の食品の種類(例)〕
食肉製品、水産加工品、乳及び乳製品、冷凍食品、清涼飲料水、菓子製品、パン
国は、この支援制度等により、2015年度(平成27年度)のHACCP導入事業者割合29%を、2021年度(平成33年度)に80%[6]にすることを目標にしている。
- (参考) 厚生労働省の「食品防御対策ガイドライン(食品製造工場向け)平成25年度改訂版」は、意図的な異物混入(犯罪等)対策に有用なツールである。
④ 食品表示法(2013年〈平成25年〉制定)
消費者の権利(安全確保、選択機会の確保、必要な情報の提供)を尊重する観点(3条)から、3つの法律(食品衛生法[7]、JAS法[8]、健康増進法[9])の表示に関する規定を統合し、包括的かつ一元的な制度として食品表示法が制定された。
この法律の要点は次の通りである。
- ⑴ 消費者等に販売される全ての食品に「食品表示」を義務付ける。
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食品表示基準は、内閣総理大臣が、厚生労働大臣・農林水産大臣・財務大臣(酒類)に協議し、消費者委員会に意見聴取して策定・変更する(4条)。事業者には食品表示基準を遵守すべき義務があり、基準に従わない食品を販売してはならない(5条)。
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1.「加工食品」の表示項目[10]
名称、保存方法、消費期限又は賞味期限、原材料名(アレルゲンを併記[11])、添加物、内容量等、
栄養成分の量・熱量[12]、事業者の名称・住所、製造所等の所在地及び製造者等の名称等 -
2.「生鮮食品」の表示項目[13]
農産物(名称、原産地等)、畜産物(名称、原産地等)、水産物(名称、原産地等)、
玄米・精米(名称、原料玄米、内容量、精米・輸入等の年月日、事業者の名称・住所等) -
3.「特別用途食品」を表示する場合の記載[14]
乳児用、幼児用、妊産婦用、病者用、授乳婦用 、えん下困難者用、「特定の保健の用途」という特別用途に適する旨を、「病者用」「乳児用」等のマークを付して表示する。
なお、「特定保健用食品(トクホ)」は、次に記述する。- (注) 健康増進法 26 条1項(及び内閣府令)の規定に基づき、消費者庁長官長官の許可を得たものについて特別用途表示[15]を行うことができる。
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4.「特定保健用食品(トクホ)」を表示する場合の記載
特定保健用食品である旨、許可等を受けた表示の内容、1日当たりの摂取目安量等- (注) 健康増進法26条1項(及び内閣府令)の規定に基づいて国が審査を行い、食品毎に消費者庁長官が許可する。特定保健用食品には許可マークを付し、食品表示法4条1項に基づく食品表示基準によって表示する。
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5.「栄養機能食品」を表示する場合の記載
食品表示法4条1項に基づく食品表示基準別表11に定める20種類の栄養成分(ビタミン13種、ミネラル6種、脂肪酸1種)について、国が定めた機能(定型文[16])を表示できる。
当局への届出等は不要である。 -
6.「機能性表示食品」を表示する場合の記載[17]
機能性について消費者庁長官に届出た内容、届出番号、1日当たりの摂取目安量当たりの機能性関与成分の含有量、機能性・安全性について国による評価を受けたものではない旨、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではない旨等- (注)「機能性表示」は、一定の科学的根拠(臨床試験、研究レビュー)に基づいて事業者が自己責任で行う制度であり、販売日の60日前までに消費者庁長官に届け出る必要がある。
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7.「遺伝子組換え食品[18]」に関する表示規制
8種類の農産物[19]と、これを原材料として使用した加工食品等について、義務表示(遺伝子組換えである旨等)、任意表示(遺伝子組換えでない旨等)等のルールが定められている。
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1.「加工食品」の表示項目[10]
- ⑵ 違反行為の是正
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事業者が、食品表示基準を守らない場合は、内閣総理大臣(全般)・農林水産大臣(酒類以外)・財務大臣(酒類)・都道府県知事(原則、全般)等が遵法を指示・命令し、その内容を公表する(6条、7条)。
- ⑶ 回収、業務停止
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安全性に重要な影響を及ぼす事項に関する基準違反については、内閣総理大臣又は都道府県知事が、回収命令・業務停止命令等をすることができる(6条8項)。
- ⑷ 違反行為に対する制裁
- 立入検査等を拒んだ者には罰金刑を科し、命令に違反者した者には懲役・罰金を科す(17条~22条)。
[1] 厚生労働省と農林水産省が共管する法律である。
[2] この改正では、規制添加物の範囲の変更、残留農薬基準の策定、総合衛生管理製造過程に係る制度の創設、食品等の輸入手続の電子化、輸入食品等の検査制度の改善等が行われた。
[3] 2016年(平成28年)11月現在、490施設(709 件、製造加工基準の例外承認2施設〈2件〉を含む)が承認を受けている。
[4] (株)日本政策金融公庫が融資する。
[5] 24の指定認定機関(日本食肉加工協会、日本缶詰びん詰レトルト食品協会他)により、高度化計画424件、高度化基盤計画(HACCP導入の前段階の基盤整備)22件が認定されている(2017年3月末現在)。
[6] 2015年度は「基準A」、2021年度は「基準A+基準B(中小企業にも対応可)」
[7] 飲食に起因する衛生上の被害発生防止を目的とする。
[8] 農林物資の品種改善・生産合理化・取引の単純公正化・仕様消費の合理化を図り、農林物資の品質を適正に表示させ、農林物資の規格化等を定める。2015年(平成27)年4月の「食品表示法」施行に伴い「JAS法」の食品表示に関する規定が「食品表示法」に移管され、「JAS法」の正式な名前が「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」から「農林物資の規格化等に関する法律」に変更された。
[9] 国民の栄養改善・健康増進に必要な措置を講じる。
[10] 食品表示基準2条1号、3条、別表1
[11] アレルギー表示を個別表記原則に変更した。例えば、「原材料名」の記載は、従来「マヨネーズ」→改正後「マヨネーズ(卵を含む)」とする。
[12] 消費者向けの全ての加工食品に、熱量、タンパク質、脂質、炭水化物、ナトリウム(食塩相当量)の5項目を表示することが義務付けられた。従来は、任意の表示とされていた。
[13] 食品表示基準2条2号、18条、別表2
[14] 健康増進法26条1項、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令1条
[15] 「アレルゲン除去食品」として許可を受けた食品の表示例=「ミルクアレルギー用育児用ミルク、牛乳などを与えて下痢や湿疹などの症状が出る乳幼児にお使いいただけます。」
[16] 例えば、「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です。」、「鉄は、赤血球を作るのに必要な栄養素です。」
[17] 食品表示法4条1項、5条。食品表示基準(内閣府令)2条1項10号、3条2項、18条2項
[18] 食品表示基準3条2項、18条2項、食品表示基準別表16~別表18
[19] 大豆、とうもろこし、馬鈴薯、菜種、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤ