◇SH2770◇ベトナム:労働法改正の最新動向③ 井上皓子(2019/09/11)

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ベトナム:労働法改正の最新動向③

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

5.解雇事由の具体化

 現行法では、使用者が労働契約を一方的に解約できる場合は、①労働者が労働契約に定める業務を頻繁に遂行しない場合、②病気や事故のため休職した後一定期間を経ても回復しない場合、③天災等の不可抗力を理由とする人員削減の場合、④兵役等による一時休職の事由が終了した後も復職しなかった場合に限定されている(現行法38条1項)。このうち①について、草案は、「頻繁に遂行しなかった」という評価は、事前に社内規程で定める業務完了評価基準(例えばKPI等)に即して決定することと具体化した(草案36条1項a)。このような基準の作成は、従前から政令により要求されていたもので、それを改めて法律上明確にしただけであり、実質的には大きな変更はない。全ての業務について詳細な評価基準を予め設定しておくことは実務的には困難があることも多いように思われ、本条の使い勝手についてはなお疑問が残る。

 なお、「頻繁に」という要件について、一つ前の草案では「60日間に2回以上」という具体的な回数が規定されていたが、最新の草案では削除されている。

 

6.労働分野における利益代表組織の変化

 社会主義国であるベトナムにおいては、これまで、労働者の利益を代表する組織とは労働組合(社内組合又はその上部組合)とされ、それは労働総同盟のもと一元化されていた。しかし、本年1月に発効したCPTPPにより、労働分野での結社の自由を認めることが求められたことから、草案では、労働者の利益を代表する組織として、労働組合法に基づいて設立され、労働総同盟の傘下にある労働組合に加え、労働者が、労働総同盟の傘下に入らず、当局に登録することにより独立に活動することができる組織を独自に設立する余地を認めた(草案第171条1項、172条1項)。

 ただし、各組織は独立して使用者との団体交渉に臨むことは想定されておらず、各組織から代表者を出して合同で団体交渉に臨むこととされ(草案第68条2項)、そこで出された労働協約案については、全労働者に提案され、全労働者の50%を超える賛成票が得られた場合に労働協約として成立する(草案第76条1項)。したがって、一つの使用者において複数の組合・組織が存在する場合には、個別の組合・組織毎に独自に労働協約が成立することはなく、一つの使用者については最終的に一つの労働協約のみが成立し、その労働協約が、所属する組合・組織を問わず全ての労働者に対して適用されることになる(草案の説明書において「一企業一団体交渉一協約の原則」とも呼ばれている)。日本においては、通説・判例は、少数組合であっても、組合員の多寡を問わず個別の団体交渉権が保障され、個別に使用者と団体交渉を行い、労働協約を締結することができる(したがって、一企業において複数の労働協約が併存することがあり得る)と考えており、この点は日本の法制度と大きく異なる点である。

 なお、労働組合の加入対象に、現在は加入対象とされていない外国人労働者も追加されることが検討されているとの報道もあり、駐在員も組合費を納入することが強制されることになることも否定できないため、今後の動向に留意が必要である。

 

7.時間外労働時間の上限の延長

 現行法では、時間外労働は原則として年間200時間を上限として許容されており、特別な場合のみ当局への通知により300時間まで引き上げることが認められている(現行法106条2項b、政令第45/2013/ND-CP)。草案では、原則は維持した上で、特別な場合には400時間まで引き上げることが提案されている(草案108条2項c)。

 

8.定年の段階的引き上げ

 現行法では、男性は満60歳、女性は満55歳が定年とされているが(現行法187条)、これを男性62歳、女性60歳まで引き上げることが提案されている(草案170条1項)。定年に達すると年金の受給対象となる。引き上げ幅については、段階的に毎年男性3か月、女性4か月ずつ引き上げるオプション1と、毎年男性4か月、女性6か月ずつ引き上げるオプション2が提案されている。いずれにせよ、最終的な目標定年に達するまでに、6~15年を要する長期的な計画となっている。

以上

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