実学・企業法務(第159回)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
2. 建設・不動産取引には多くの規制がある
(2) 建築物の耐震性強化・耐久性向上を図る法律が制定され、建築基準法を補強
1) 耐震改修促進法
阪神淡路大震災の直後に「耐震改修促進法[1]」が制定され、既存の建築物の点検と、必要な補強改修の促進が図られた。
〔耐震改修促進法の概要〕
・国土交通大臣は「基本方針」、都道府県は「都道府県耐震改修促進計画」を定める義務を負う。
市町村は「市町村耐震改修促進計画」を定める努力義務を負う。
・「特定建築物」の所有者に対して耐震診断・耐震改修の努力義務を課す。
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1 指導・助言の対象
多数の者が利用する学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店等
(注) 小学校・老人ホームは避難確保の点からの配慮が必要
一定量以上を取り扱うガソリンスタンド・塗料店等
倒壊した場合に道路を閉塞する通行障害建築物 -
2 耐震診断・公表対象
要安全確認計画記載建築物(病院・官公署等)は耐震診断を行い、国土交通省令に従って公表する。 -
3 上記1及び2において倒壊の危険性が高い場合、建築基準法による改修命令等
「耐震改修支援センター」が債務保証・情報提供等を行う。
2) 長期優良住宅普及促進法[2](任意)
耐久性・耐震性等を備えた質の高い住宅の建築・適切な維持保全を実行する者に恩典を付与して、長期優良住宅の増加を促進する。
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① 長期優良住宅建築等計画の認定基準
(主な項目)構造躯体等の劣化対策、耐震性、維持管理・更新の容易性、可変性、高齢者等対策、省エネルギー対策、居住環境(地区計画、景観計画等)、住戸面積、維持保全計画の策定 -
② 認定の標準的な手続き
登録住宅性能評価機関による事前技術的審査を行い、「適合証」を取得。
→ 所管行政官庁に「認定申請書[3]」を提出
→ 所管行政庁が「長期優良住宅認定通知書」を交付
→ 認定を受けた計画に基づいて建築・メンテナンスを実施。以後、その記録を作成、保存。
恩典として、減税措置(住宅ローン減税、贈与税減税等)・住宅ローン支給支援等を設定。
- (注) 優遇措置には有効期限があるので、検討の都度、恩典の有無・残存期間を確認する必要がある。
(3) 建築物の維持管理の水準向上が求められる
建築物に対する新たな規制が制定されるときは、その時点の既存の建築物が規制の対象外とされる。このため、実際には、最新の規制に違反する建築物が多数存在している。
また、日本の建築物は、適切に補修すれば長期間の使用が可能であるにも係わらず、建築から取壊し・撤去までの期間が短く、社会資本が無駄遣いされているとの指摘も多い。
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(注) 課税計算用ではあるが、国税庁の耐用年数表は次のように規定している。
木造・合成樹脂造のもの 事務所用24年 住宅用22年 旅館・ホテル等用17年
木造モルタル造のもの 事務所用22年 住宅用20年 旅館・ホテル等用15年
1300年前に建てられたとされる法隆寺を見ても、木造だから長持ちしないというわけではない。また、日本の各地に、100~200年前の建築物(古民家を含む)が多数存在している。
最初の建築と、その後の維持管理が適切であれば、地震・台風が多く多湿な日本でも、長期間、優良な状態で使用することは可能だろう。
一方で、現在、空き家が800万戸あると言われ、それへの対応が議論されている。
これまで検討が進まなかった次のような分野で、新たな制度が求められよう。
- 〔新たな制度が求められる分野(例)〕
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○ 既存の不適格建築物(違法建築)の取り扱い
撤去を命令するか、増改築を是認するか
建築後に制定された法令に適合しない場合 -
○ 老朽化又は損壊(火災、天災等による)した建築物への対応のあり方
所有者は判明しているが放置している場合、及び、所有者が不明の場合 -
・ 撤去・補修の責任の帰属、費用負担、所有権の帰属
・ 全損の場合、一部損壊の場合
・ 公益を著しく害している場合
[1] 建築物の耐震改修の促進に関する法律(1995年1月17日の阪神淡路大震災を受け、1995年10月27日制定)
[2] 「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」の略称。2008年制定。
[3] 「長期優良住宅の普及の促進に関する法律施行規則」に国が定める書類の詳細が示されている。