◇SH3490◇中国:個人情報保護法(草案)の概要(2) 川合正倫/鈴木章史(2021/02/17)

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中国:個人情報保護法(草案)の概要(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫
弁護士 鈴 木 章 史

 

(承前)
 

2. 個人情報と個人センシティブ情報

 本法案は、個人情報とは「電子的又はその他の方法で記録された、既に識別され又は識別可能な自然人に関する各種情報(ただし、匿名化処理後の情報は含まれない)」をいうとしている(4条1項)。また、本草案は、「一度漏えいし又は不法に使用されると、個人が偏見を受け又は人身、財産安全に重大な危害を受ける可能性がある個人情報(種族、民族、宗教信仰、個人の生物的特徴、医療健康、金融口座及び個人の所在等の情報を含む)」(29条2項)を個人センシティブ情報と定義し、要保護性の高い個人情報としてより厳格な規制[1]を課している。個人センシティブ情報は、前述の個人情報安全規範においても採用されている概念であり、今般法的拘束力のある法令レベルでも採用されることとなった。個人情報の取扱いに際しては、対象となる個人情報が個人センシティブ情報に該当するか否か区分して対応する必要がある。

 

3. 個人情報の取扱いに関する規定

 本法案は規制対象となる行為を「個人情報の取扱い」と規定しており、これには個人情報の收集、保存、使用、加工、伝達、提供、公開等の活動が含まれる(4条2項)。ネットワーク安全法の規制と同様、個人情報の収集を含む個人情報の取扱いにあたっては個人情報の主体から同意を取得することが必要とされる(13条1号)。本法案は、この他に個人情報を取り扱うことができる場合として、以下の事由を列挙している。

  1. (a)   個人が当事者として契約を締結し又は履行するために必要な場合(13条2号)
  2. (b)   法定の職責又は法定の義務を履行するために必要な場合(13条3号)
  3. (c)   突発的な公衆衛生事件への対応のため又は緊急事態により個人の生命、健康及び財産の安全の保護のために必要な場合(13条4号)
  4. (d)   公共の利益のためにメディア報道、世論監督等の行為を実施し合理的範囲内で個人情報を取り扱う場合(13条5号)
  5. (e)   法律、行政法規が規定するその他の状況の場合(13条6号)
  6.  

 個人情報を取り扱うことができる場合を限定列挙する規定方法は、個人情報の取扱いが制限又は禁止される場合を列挙する日本の個人情報保護法とは異なり、GDPRと類似しているといえる。

 

4. 個人情報の取扱いに関する規定

(1)同意の取得方法に関する定め

 本法案では、個人情報の取扱者による同意の取得方法に関し、ネットワーク安全法と比べてより詳細な規定が設けられている。まず、同意取得に関する原則として、個人が十分に情報を得たことを前提に、自発的で、明確な意思表示を行うことが必要とされている(14条1項)。また、同意を取得した場合でも、その後に個人情報の取扱目的、取扱方法又は個人情報の種類に変更が生じた場合、個人情報の取扱者は、再度同意を取得しなければならない(14条2項)。他方、一度同意した場合でも、個人情報の主体はその同意を取り消すことができる(16条)。なお、14歳未満の個人の個人情報を取り扱う場合には監督人(通常、父又は母)の同意を取得しなければならない(15条)。

 なお、製品又はサービスの提供に必要な場合を除き、不同意又は同意の取消しを理由に製品又はサービスの提供を拒否してはならない(17条)ともされており、注意を要する。

 

(2)単独同意と書面同意

 本法案ではネットワーク安全法及び個人情報安全規範にはない単独同意という概念が採用された。単独同意の定義規定は設けられておらず、今後その内容が明らかにされることが期待されるが、利用規約等の個人情報に関する規約への包括的な同意では足らず、特定の事項ごとに個人情報の主体から同意を取得しなければならないという趣旨と考えられる。以下の場合に単独同意が必要となる。

  1. (a)   個人情報を第三者に提供する場合[2](24条)
  2. (b)   個人情報を公開する場合(26条)
  3. (c)   公共の場においてカメラや個人の身元を識別できる設備を設置して収集した個人の映像及び個人身元特徴情報を公開又は第三者に提供する場合(27条)
  4. (d)   個人センシティブ情報を取り扱う場合(30条)
  5. (e)   中国国外に個人情報を移転する場合[3](39条)
  6.  

 また、本法案では、同意の取得方法として書面による同意も規定されている。もっとも、いかなる場合に書面同意が必要とされるかについては法律又は行政法規の定めによるとしており、今後制定される関連法令も確認する必要がある。

 

(3)に続く



[1] 個人センシティブ情報については、取扱いの際に、単独同意が要求される(30条)とともに、個人センシティブ情報を取り扱う必要性及び個人への影響の告知(31条)が必要とされる。

[2] 第三者の身元、連絡方法、取扱目的、取扱方法及び個人情報の種類を告知した上で単独同意を得なければならない。

[3] 国外の移転先の身元、連絡方法、取扱目的、取扱方法、個人情報の種類及び個人が国外の移転先に対し本法案の規定する権利を行使する方法等の事項を告知した上で、単独同意を取得しなければならない。

 


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(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

 

(すずき・あきふみ)

2005年中央大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院修了。2008年弁護士登録(第一東京弁護士会)。同年都内法律事務所入所。2015年北京大学法学院民商法学専攻修士課程修了。同年長島・大野・常松法律事務所入所。主に、日系企業の対中投資、中国における企業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、中国企業の対日投資案件、その他一般企業法務を扱っている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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