日本企業のための国際仲裁対策(第2回)
森・濱田松本法律事務所
弁護士(日本及びニューヨーク州)
関 戸 麦
第2回 国際仲裁に関する基礎知識(1)-国際仲裁の手続の流れ
最初に、国際仲裁に関する基礎知識として、手続の流れについて解説する。
なお、仲裁手続には、ICC(国際商業会議所)、AAA(アメリカ仲裁協会)、LCIA(ロンドン国際仲裁裁判所)、SIAC(シンガポール国際仲裁センター)、HKIAC(香港国際仲裁センター)、JCAA(日本商事仲裁協会)といった仲裁機関を用いるもの(機関仲裁と言われる)と、仲裁機関を用いないもの(アドホック仲裁と言われる)とがある。本連載においては、特に断りがない限り、日本企業にとってより馴染みがある機関仲裁を念頭に置くものとする(但し、機関仲裁とアドホック仲裁とで著しく手続が異なる訳ではないため、アドホック仲裁にとっても、本連載は参考になるものと考えている)。
また、仲裁機関の規則のうち、本連載においてはICCの仲裁規則を中心に引用するものの、仲裁機関毎に規則の内容が大きく異なる訳ではなく、手続の枠組みは基本的に共通である。本連載は、ICC以外の仲裁機関も念頭に置いたガイドとして、ご理解頂きたい。
それでは、国際仲裁手続の流れの解説に進むこととする。この流れは、概要次の図のとおりである。
以上の仲裁手続の流れを区分すると、序盤、中盤、終盤の3つに分けることができる。
序盤というのは、「申立人による申立書の提出」から「スケジュール会議、スケジュール命令等」までである。これは、本格的な主張、立証、あるいは証拠収集に入る前の段階で、仲裁人の選任、仲裁機関に管轄があるか否かに関する争いの決着、スケジュールその他仲裁手続の進め方に関する取り決めを行う場面である。
中盤は、「ディスカバリー」から「主張書面、書証、陳述書の提出」までである。これは、本格的な主張、立証あるいは証拠収集を行う場面である。
終盤は、「ヒアリング前の会議」から「仲裁判断」までである。国際仲裁手続におけるヒアリングは、集中的な審理を行う場面であり、朝から夕方まで連日審理が行われる。所要日数は案件毎に異なるが、1週間程度の期間、連日朝から夕方まで審理が行われることは、珍しくない。仲裁手続の中心的な場面であり、米国民事訴訟におけるトライアルのような場面である。
終盤というのは、このヒアリングと、その前に行われるヒアリングの進め方等に関する会議と、ヒアリングを受けて提出される最終主張書面を提出する場面、そして、仲裁廷から仲裁判断が示される場面からなる。
以上が、国際仲裁手続の流れの概要である。